銀の鎧細工通信
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2005年05月04日(水) 応告 (陸奥坂)


もう長いこと遣り取りをしている。
応え、告げ、何かを目指した者たち同士の生きた遣り取り。

それは或る星に一時着陸した時。
少々のメンテナンスを必要とした、整備班が慌しくしている中
きょろきょろと辺りを見回していた坂本は、ぱあっと顔をほころばせると
カラコロ下駄を鳴らして歩いていった。

「何処に行くんじゃ毛玉」
背後から声がかけられる、
「んにゃ、あっちに美味そうな屋台が出とるんじゃ」


「・・・皆の分も買うて来にゃ」

陸奥はそう云って船員の人数に足りるほど、丁度の金を手渡す。
坂本は財布を持ち歩かない。
すぐに忘れるか失くすか落とすかする所為もある。
「また食い逃げで警察に持ってかれたんじゃ話にならんがぜよ」
「あっはっは、忘れちょった、すまんの陸奥〜」

大股で歩いてゆく。


「陸奥さん、ちょっと観てもらえますかー」

「何じゃ」

髪をなびかせ振り返り、陸奥も仕事に戻る。
艦長を放任にに出来るのも陸奥のお陰だ。
(あいつは好きにさせちょるんがええんじゃ)
口にこそ出さないけれどそう思っている。




「よし、これで大丈夫です」
「ご苦労じゃったな」
「いえ、不備が出たの、俺らの責任っすから」
「ちゃんと気付いて、すぐに対処したんじゃきに、構わんぜよ」
ふ、と陸奥が口角を上げる。
飴と鞭と解ってはいても、寛容な坂本と厳しい陸奥のコンビは
やはり上手く機能しており、全員には誇らしくも頼もしくもあった。

そして(陸奥さん、今日の口紅の色新色だな・・・)
なんて思ったりもする。


出向の合図がなされ、艦隊が地響きを上げて離陸する、
(何か忘れゆう気ばァするんだが)


「あ!」
陸奥が声を上げたのと同じタイミングで
「陸奥さァん・・・艦長から電話が・・・」
情けない声がかけられた。

「忘れちょった、坂本じゃあ・・・」
髪をかきあげて溜息をついた、
宇宙電話に接続する
「もしもし?」
「おう、陸奥。おまんらもう出てしもうたんかー気が早いろ」
「おまんが遅いんじゃろうが、今どこじゃ。同じところに居るがか?」
「それが屋台をふらふらしちょったら迷子になってしもうた」
「子どもか、何をしちょるんじゃ・・・」
「あっはっは、そう云うなや。美味そうなモンば買うたぜよ」
「戻る、目処を教えろ」

そこで回線が切れた。


座り気味の目付きの陸奥(いつもだが)がはたりと瞬く。
しまった、奴には最低限の金しか持たせていない。
公衆電話の金が尽きたんだ。


「あり?あ、しもうた、金がもう無いきにゃ」
公衆電話でぽつねんと坂本が頭を掻く。
「おお〜い、陸奥〜わしは此処じゃ〜」
空に向かって本気じゃない声で呼びかける、そうしてまたカラコロと
何処へとも無く歩いていく。口笛なぞ吹きながら。



「さっきの計測点に船を戻すろー」
無表情の陸奥に、船員たちが苦笑する。
こんなことは今に始まったことではない。
元気よく返事をし、艦隊は方向を変える。



「しかし・・・さっきの場所にいないんですよね、坂本さん」

「このまま西に進行、600m先で北西に旋回じゃ」

「?、はい」

見えているかのように具体的な位置を指示する陸奥に、
訝しげな顔をするも、この人のことだ見えているのかも知れないなあ、位の
気楽な信頼感で部下は従う。
こうした遣り取りも珍しくない、坂本と陸奥を信頼しているからこそ
船員はそれに応じる。特に理由も訊かずに。



「あ、陸奥さん!公衆電話ありますけど!」
覗き窓から地上を観測している船員が大声を出す、
「まだじゃ、こっから700m東に回れ」

云うとおりに船を進めると、
「此処じゃ、着陸!」
陸奥が指示を出す。
丁度開けた平地だ、艦隊が着陸するのに障りも無い。


ハッチを開けると、そこには両腕いっぱいに何がしかの食料を抱えた
坂本が立っている。

「おう、冷めんうちに戻ってきちょって良かったぜよ」
からからと笑い飛ばして、胸元で熱を逃がさないように抱いている。


「良い天気じゃあ、整備ついでに休憩にせんかー」

坂本の告げた一言で船員は船の外で屋台の様々な料理と休憩を
とることにする。

それぞれが車座になったり、寝転んだりしながら日差しを心地よく
受けているのを、陸奥は木陰で見守っていた。

(確かに鉄の箱の中に居っぱなしじゃいかんな・・・)

美しく孤を描いて整えられた眉がふと緩む。
ロングラッシュのマスカラで長く伸びた睫毛が金緑の瞳を僅かにおおう。


「陸奥も食ったがか?」

坂本の長身が木陰の陸奥の頬にさらに影を落とした、
「ああ、おまんの喰いモンの見立ては悪くないきにゃ。美味かった」

「ほがァ嬉しいことば云うなんて珍しいのう」

陸奥は応えない、静かに目を伏せる。

「坂本」

「ん」

「ここば座れ」

陸奥が自分の横に手をひらひらと振るので坂本はそれに従って
腰を下ろす。
ぽすん、と坂本のあぐらをかいた膝に頭を乗せるが
「硬いのう」
とむっとした表情をした。
坂本は自分のスカーフをとるとくるくる丸め、陸奥の小さな頭を
抱えると下にひいてやる。

「食ってすぐ寝ると牛になるろー」
そのまま陸奥の髪を弄びながら楽しげに笑う。

「うるさい」
さわさわと葉擦れの音が心地よい。

「しっかし何でわしの居る場所が解ったんじゃ?」
ぴょこりと陸奥の顔を覗き込んで、ぼそりと訊ねた、
その外套の襟をつかんで引き寄せると、陸奥は坂本の耳元で

「おまんにゃ発信機を付けゆうがじゃ」
と云ってにやりと笑う。

「・・・何じゃ〜陸奥はそげにわしのことば好いちょいるんかあ・・・?」

「寝惚けたこと云うな、おまんが、わしが居らんと駄目なんじゃろが」

「・・・う・・・」

口篭った坂本のサングラスをひょいと外すと陸奥は指先で
ちょい、と坂本を呼び寄せる。
坂本は陸奥の云わんとしていることを了解し、
上体を屈め陸奥にキスをした。

「解っとろうが」

「解っちゅう。陸奥が告げてわしが応える、わしが告げて陸奥が応える、
どっちも同じじゃ」


陸奥が片眉を上げて先を促す

「どっちも、おまんが居らんと、駄目じゃ」
坂本のへにゃ、とした苦笑に満足したのか、陸奥は目を閉じた。


それは静かな午睡だった。





END

なんか暗い話を続けていたので、心機一転、明るいオウコクで。

旅行に行っていたもので更新が止まってました。
後ね、おお振りと鋼でオウコク書きたいんですよね。

BGM
マニ☆ラバ『青森駅』笑。


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