銀の鎧細工通信
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| 2005年04月23日(土) |
負う刻 (高杉→鬼兵隊) |
もう長いこと過去ばかり負っている。 刻まれてしまった時も、人も、戻らない。
自分ひとりが残ったわけではなかった。 ある者は「お前の所為で皆は死んだのだ」と吐き散らかして去り、 ある者は「皆の死を無駄にしない為にも俺たちだけでまた仲間を募って 戦い続けましょう」と懇願した。
誰かの所為だ、 誰かの為に、
もう、高杉にそれらを負う余力は無かった。 願いや想いごと自分も潰えて終わったのだと思っていた。 正直なところ、高杉に懇願した者も、いつ「お前の責任だ」と 罵り出すかも解らなかった。 「弔い合戦なんて辛気臭いのは御免でな、鬼兵隊は解散だ」 そう云った時の残った仲間の眼は、事実既に「裏切り者」と 高杉を攻めるものだった。 遣る瀬無い哀しみが突き刺さった、けれどそれで良かったのだと 高杉は思っていた。
鬼兵隊内で、不信と裏切りと呪いが渦を巻き、これ以上の血を流し、 仲間であった人間同士が内部から殺しあうより余程マシだと思った。 戦って負けて、晒し首にされて、それで鬼兵隊は壊滅、そう歴史に 刻まれた方がマシだと思えた。
もう自分の大切なものが、これ以上無いほどまでに壊れるのが、 余りにも怖ろしく、哀しく、ましてや内部崩壊などという事態になったら 本当に高杉は死んでも死に切れない。 臆病心が無い訳でもなかったが、踏み躙られきった中の最期の誇りだった。
離散していく仲間たちを片目だけで見送りながら、 それらの残す思いを、全て全て全て残さずに自分が引き受けようと思い、 全員の背中を見届けた。 怒りと罵りと諦めと呆れと軽蔑と無念とを、高杉に云い残して去って行く 者たち全員を、高杉は見送った、最後まで見送り続けた。
誰も居なくなった時、城の門扉の前で自分の首を掻き切ろうかとも 考えた。自分たちが晒し首にされるべき者だと云うのなら、進んで 晒しに行ってやろうかと。
(それだけじゃ足りない)
自分の首から噴き出す血、身体から一滴も残すところ無く 城の前で搾り出したとしても、とても足りない。 死んだ仲間の、残された仲間の、去った仲間の、自分の、 感情はその程度で昇華しきれるものではなかった。とても。
どうしてやろうかと考え続け、潜伏しては逃れ生き延び、 何の為かと自らに問い続け、自らの体内に飲み込み蓄えた想いたちが 腐敗しはじめ、高杉の中で毒となって高杉自身を蝕んでも、 それらは高杉にとっては自分の四肢よりも臓物よりも器官よりも、 分かち難いものだった。 目を失くそうとも、腕を失くそうとも、それだけは失くしたら 死んでしまう、と思うものだった。
忘れて無かった事にして生きていけ、という自分の暗黙の宣告も 相当に仲間たちにとって酷だったのだと悟ったのは、風の便りで 仲間が過激派攘夷志士として粛清されたり、自殺したと耳にする頃だった。
詫びる言葉など持たない。 ただ、高杉はこうべを垂れた。
そして生きることだけは止めない。
腐敗し爛れ、虫が湧き、毒となって侵し続け、 いつか命を奪うものだと 解った上で高杉は手放さない。 鬼兵隊を手放さない。
(この毒に殺される以外に俺に見合う死に方は無い)
詫びる言葉など持たない。 ただ、高杉は抱えている。
そして刻まれたものを負い続ける。
さあ、この毒が、この呪いこの想い、この哀しみこの無念、この怒り この呪詛この、この、あらゆる情念が自分を殺すまでに、 俺は出来るかぎりの事をしよう。 呪いをなすりつけなどしない、 毒を吐き散らしたりはしない、 全て俺のものだ。 全て俺が負うものだ。 誰にも分けたりはしない。 誰にもやらない。
全て飲み込み内に秘め、 じわりじわりと蝕まれ、 高杉が野垂れ死んだ場所から この呪いは、毒は、ようやく他のものを侵し出すのだ。 その王国の領土を拡大し始めるのだ。
高杉はじっと自分の両の掌を見つめ、そうして 腹に手を当てた。
(まるで鬼胎だ)
低く笑う。
(そうか、そもそも鬼兵隊の生みの親は俺だしな、)
くつくつと俯いてつき上げる笑いは、哀切に身悶えているようでもあった。
(俺は、また、まだ鬼を産むのか)
(俺の身体を養分にして、せいぜい立派な鬼になれよ)
その時まで、高杉の身体を食い破って鬼が産まれるその時まで、 負うのだ、全てを。 負い続けて生きるのだ、過去を。 負い続けて生きるのだ、死人を。 負い続けて生きるのだ、想いを。
END
オウコク、とタイトルは読んで下さい。 次は土方→近藤でオウコクです。 どんな字になるかはお楽しみ。
★拍手レス★ 土方自暴自棄気味・・・のアナタ様。 報われないと解っていながら、忘れる事も出来ない片想いを 続けていたら、時々ヤケになるのではないかと、私は思っていまして。 そのヤケに周囲が付け込んでいるのか、土方自身が付けこまさせているのか、そう思うと因果で萌えるのでございます。笑。 ありがとうございました!
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