銀の鎧細工通信
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苛立ちが募る。 土方に初めて触れた、あの日以来、どんどん募る。 進んで溺れ死にしようとしている土方。
そんな事で、死体に近藤さんが縋り付いて泣けば、 そんな事で、満足なのか。
愛されないなら、忘れられないように、と? (阿呆くせぇ)
そんな自己犠牲が土方なりの精一杯なのかと思うと、 莫迦らしくもあったのと同じ位哀れだった。 堅牢な要塞に閉じこもっているつもりでも、それがどれだけ 穴だらけなのかに、土方は気が付いていない。
(そうやってこの先も生きていくつもりなのかよ)
いたたまれなさに、いっそ痛みが走る。
「山崎」 呼ばれて顔を上げる、
ああ、この人はどんなものを抱えていても、こうして 凛然としていられる。 襖に片腕を付いて、咥え煙草のまま書類に目を落としている。 ガキだと云えば、この人も俺も変わらないレベルだ。 想うばかりで、取りに行かない。 敢えて、行かない。
「不備でもありました?」
立ち上がって土方に歩み寄って、書類を覗きこむ、 「いや、不備じゃねぇんだが、此処んトコ気になってな、俺の記憶と 違ってたからよ」 「ああ、その件ですか」
何食わぬ顔で過ごすこの日々に、一体何が残るんだろう。 土方の切れ長の目が伏され、睫毛があわい陰を作るのを見ながら、 よぎるのは近藤の顔でもあったし、沖田の顔でもあった。 あの万事屋の旦那といい、坂本辰馬が土方にちょっかいを出すのも、 理解できなくは無かった。
(だって、アンタ莫迦なんだもん)
「副長」
「ん?」
目線だけぱっと上げた土方に口づける。 すぐ離れる。 山崎の方が身長が低いため、上目遣いになる、 土方が反応をしないので、腕を引っ張り襖を閉める。 後頭部に手を当てて引き寄せる。 額をくっつけ、
「副長、アンタ、どうすんですか」
「何がだ・・・?」
予想外の穏やかな声が山崎の目の前から響く、
「自分は肝心な事を何も云わないで、周りにちょっかいばっかり 出されてて、それでいいんですか、何とも思わないんですか」
「ふ・・・何の話だよ」
柔らかく破顔する。 「俺が何も気付かないと本当に思ってます?」 その笑顔に釘を刺す。
土方の前髪が鼻先をくすぐる。 「何を何処まで知っているんだろうな、お前は」
「・・・俺だって解らねぇよ、こんなの悪い夢かと思うぜ」
ああ、今のは、近藤さんと・・・おそらく、高杉晋助に付き合いが あることだ。 そうじゃない、近藤さんの事じゃなくて、あんたのことだ。
「だからされるがままなんですか、俺にも、万事屋の旦那にも、 坂本にも、・・・沖田隊長にも」
「どいつもこいつも、気が知れねぇ。・・・お前は、どういう つもりなんだよ、俺に何を求めてるんだよ」
莫迦野郎と怒鳴って殴れたらよかった。
おそらく今なら土方に触れても、この人は抵抗しないだろう、 でもそんな事をして何になる? 10代そこらの子どもじゃあるまいし、セックスで何かが変わるか?
山崎は溜息をついて手を離す。 土方の髪の感触が掌に残る。 「そうやって、他人任せにして、自分は関係ない振り決め込んでのが 腹立つんすよ、他の奴らも多かれ少なかれそうなんじゃないすか」
「機嫌悪いな」 襖に背を預け、腕を組んで土方が云う。
「アンタに苛々するもんで」 ひるまず、真っ直ぐに見据え、冷静な口調を意識して云い放つ。
「俺は、謝らんぞ」
土方が少し笑って応えた。
(それがアンタの答えかよ)
「・・・でしょうね」
(道化なのは俺たちかも知れないな、この人が変わるとでも 思ってんのか、いや、思ってるよ)
(そうとでも思わなきゃ、見てられねぇよ)
「はいはい、山崎退、職務に戻ります」
「おう、次サボったら斬るからな」
「サボりじゃないですよ、上司に目を配るのも監察の仕事ですから」
「よく云うぜ」 煙草に火をつける。 「副長こそ、いつまでもそんな風に隙見せてたら、 どうなるか解らないですよ」 殺気を込めた目付きで口にしてやる、せめて、それくらいは。 せめて。せめて。
「・・・ま、気を付けるぜ」
云いながら事務室を出て行った、後に残るのは煙草の残り香。
(あーあ、どうしてくれようか)
山崎は事務室に一人残り、長い髪をわしわしと梳きながら 作戦を練る。 撃墜したところで、何にもならない、不毛な作戦だ。 でもやってみなければ解らない。
こんなにも苛立つのは、あまりに遣り切れない。
仕込んでいる小刀を、柱にめがけて投げ放つ、カツ、といい音を たてて綺麗に柱に突き刺さる。 土方の、ただ真っ直ぐな軌跡を、方向転換させたいんだ。 墜落しても同じ処へまた向かうだろうけれど、 何もしないよりはマシだ。 何もしない土方よりはマシだ、多分。
苦い思いを飲み込んで、山崎は文机に向かう。
END
進展したかと思えば、やっぱりどうどうめぐりな山土。 強引さに物を云わせる沖田か、 意外性で惹き付ける銀さんか、 包容力でなだめてやる坂本か、 策略と思い遣りで攻める山崎か、 誰か土方を何とかできないですかねえ。ふへへ。
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