銀の鎧細工通信
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| 2005年04月15日(金) |
潰れた喉 (近高そよ)加筆版。 |
「あ、忘れてたぜ、近藤!」
「あい?」
片栗虎の娘のデートを妨害するために、急遽非番の人間を シフトに入れ、休みをとって秘密裏の仕事としてかり出された、 近藤・土方・沖田の3人は遊園地からの帰り際に 片栗虎からそれぞれ缶ビールを奢ってもらい、帰るところだった。
口の端に泡をくっつけて、ごくごくとビールを呑んでいた近藤は、 缶のフチを咥えながら振り返った。 「ほれ」
「文、っすか」
「お前なあ、もてないからって、それは不味いからな、 あの方にだけは手ェ出すなよ、本当に色んな意味で犯罪だからな」
片栗虎の鬼気迫った表情(元来、凶悪面だが)に、沖田が 「かー!この一杯のために生きてるー!」と腰に手を当てながら ごきゅごきゅと呑み干すオッサンプレイから「何々」と覗き込み、 土方はまだ水滴をばたばた垂らしながらそれを見ている。 「何の話だよ、とっつあん」 はらりと裏返してみると、そこには、流麗な筆致で「そよ」と 書かれていた。
「えええええええええええ?!」 近藤と沖田の絶叫がこだまする。
残りのビールは呑めなかった、少しぬるくなってしまった其れを 沖田にやり、近藤は自室で文を開く、大方の予想はついていた。
<近藤勲様> と書かれた手紙は実に達筆なものだった。
「・・・あーあ・・・子どもの恋文の方がまだマシだよ、こんなん」
部屋にそのまま大の字で倒れこんだ。
「高杉なァ・・・お前ホント厄介な奴だよ・・・」
仰向けになりながら縁側の方へ顔を向ける(近藤はいくら土方に たしなめられても、自室の襖を閉めない)、 朝一でかり出されたため、まだ外は日がやや傾きかけた頃だった。 明るい光を、鳥のさえずりが聴こえる、新芽が透ける様に美しい、 「ィよいせっと」 近藤は起き上がり、「ちょっと出てくる」と云い残して屯所を出た。 「え、局長・・・その格好で行くんですか・・・」 門番をしていた隊士のつっこみも耳に入らないまま、ふらりと 歩いていく。『大江戸遊園地』特製Tシャツにナイロン地のスウェット、 それに草履履き、どこからみても体育会系の気の好い兄ちゃんだ。
「てめー何処の体育会系だ」 開口一番、高杉が珍しく唖然としている。 「は?何がだ」 全然頓着しないからこそ、余計に体育会系の兄ちゃんが、弁当でも まとめて買出しに来た風に見えた。
まだ「桜屋」に居る高杉に、「ほれ」と云って文を渡す、 正しくは窓の横の壁に寄りかかって酒を呑んでいる高杉の 膝近くにはらりと落とした。 少し離れて近藤も腰を下ろす。 宿主に借りてきたおちょこで勝手に高杉の酒を注いだ。 文の裏側の署名を見て、高杉が舌打ちをした、煙管に煙草を詰めだす。 「読まねーのか」
「黙れよクソゴリラ」
近藤は黙って悪罵を聞き入れ、おちょこに口をつける。 「・・・これ、どうやって経由してきた」
「うちのとっっつあん、あ、警察庁長官ね、が預けられたみてーだ」
ゆらり、と高杉が振り向く、既に刀に手がかかっている、 「そいつの信用度は」
近藤はごろんと横になると、高杉へと手を伸ばし、刀を握った手を 大きな手で押さえた。 「絶対に中を覗き見たりしねェ人だよ」
「大体、護衛もすげェ付いてるし、何より本人が凶悪だ、 殺しに行っても無理だから、止せ」
「てめーといい、本当に幕府の犬は不愉快な奴ばっかりだ」
近藤の手を振り払い、煙管を咥えて火をつける。 「なあ、読まないのか」 近藤は片肘で頭を支え、横臥したまま訊ねた。 「俺に宛てた文じゃねえだろ」 あまりにもあっさりと云われたので、近藤は片肘をはなし、 高杉の顔を見上げた。
「何でそう思う」
「あいつは、俺に直接文なんざ書かない、絶対」
きっぱりと、でも高杉独特の沈鬱で投げやりで気だるい話し方で応えた。
<近藤さん 高杉さんは元気にしておいででしょうか、あの方に、元気なんて言葉が 全くそぐわない事は解っております。 ただ、先日街に溢れる桜を見ました。 あの方は、やっぱりこの街の何処かで彷徨っては桜を見ているのだろう、 と思いました。 私は、この城に閉じ込められておりますが、あの方は生きる事そのものの 牢獄に幽閉されていますね。それも、自ら進んでなので、誰も彼を解放し てやることは叶わないのでしょう。
もうお気づきかと思います。 私はかつて城を抜け、近藤さんたちにご迷惑をかけた際に、 高杉さんと遭っております。 城抜けを手助けしてくれたのはあの方でした。 城外で私を殺すおつもりだったのでしょう、 でも、彼は私を殺しませんでした。 殺さなかったのです。
私とあの方は、ともに社会から隔離された処に幽閉されております。 けれどその牢獄はあまりに遠く、遠く、その何ものも交わる事は ありません。 同じものを呪っていながら、連なる事は、出来得ません。 同じものの崩壊を願っているのに、何をも共有出来得ません。 姿ばかりは見える処に居るのに、その距離はあまりに遠くて、 決して、近付きあう事は叶いません。 私が其れを望むのもあの方は許しはしないでしょう。
ただ、 近藤さん、以前に金魚を一緒に見て下さいましたね、 高杉さんが、この様な暖かく美しい季節にも、独り凍り付いている ことが私にはいたたまれないのです。
あの方に、私のことを口にしても何もお話にはならないでしょうし、 不愉快と痛みを湛えた表情をされるだけかと思います。 この手紙の事も、お話にならないで結構です。 私は、これ以上あの方が血を流し続けることを望みません、 けれど私にはどうする事も出来ないのです。
長々と申し訳ありません。 どうか、どうぞ、近藤さん、あの方を独りにしないで下さい。 私がせめて願える事は、ひたすらに身勝手なこのようなものでございます>
この二人は鏡の裏表だ。 同じ、幕府という鏡の裏と表で、ひたすらに交わらない世界を 生きている。 背中を合わせてることも、認めがたく、受け入れがたい。 当然だ。
(俺は、その鏡をただ見ているだけしかできねーんかな・・・) 何も出来ない。 高杉を、過去の呪縛から解き放ったら、奴は迷わず自分で死ぬだろう。 そよ姫を、城から解き放ったら、この国は天人に殺されるだろう。 この二人は、自分で喉を潰してしまった。 叫ぶ声も、嘆く声も、あげずに済むように。 掻き切りたいと願っているかもしれない、喉。
それを互いに解っている。 だから、声などかけない。
「高杉、」
(口に出していいから、なんて云える訳ねえ)
見上げたまま、名前を呼んで、そのまま薄く口を開いたままで 言葉を次げない近藤に、高杉は淡々と云った。 初めて聴く声だった。 静かで、哀しいほどに静かで、あまりにも脆い声。
「お前、何で俺に構うんだ」
「もう手の施しようの無い事、解っているだろ?」
「お前が見てて辛いだけだろ?」
「何で、なのにこうして会いに来るんだ」
開け放された窓から、桜の花びらが舞い込む。 高杉はうつむいて、手にしたおちょこに花びらが入り込んだのを見ている。
(解ってるさ、嫌ってほど、千切れるかと思うほど解ってるんだよ)
(でも、だからって放っておけるか、放っておけるか)
近藤は、自分の喉まで潰れたように思った。 云えない、思ったことをそのまま口にしても、何にもならない。
(こんなのは、俺向きじゃねえ。それも解ってる。 思ったこと何でも口にして、そうして動けていけたら一番だと思ってる)
もう理屈ではなかった。 川に沈んでいきそうな高杉を助けたのも、 攘夷志士であることが解った上で、屯所に担ぎ込んだのも、 高杉が自ら名乗ってきたにも関わらず、二度も、 正確にはもっと、
高杉は自分の誇りをかけた全身を、それしか出来ないから、 もうそれしか残っていないから、近藤に提示するのに、 近藤は其れを聞き入れないことも。
「高杉・・・お前、俺がお前を捕まえるか殺せばいいって思ってるだろ」
「思ってるぜ、そう簡単に捕まってやる気も殺されてやる気も無いがな」
「でも、俺が絶対に、そうしないことも解ってるだろ」
「全然納得いかねーが、そうだろうな。お前は、俺を殺さない」
「だから会いに来るんだよ」
「見張りか?」 「莫迦野郎、違ェよ」
「お前、そよ姫を殺そうと思えば出来たのに、しなかったろ」
「・・・・・・・・・」
「生かして、生き地獄を生き続けろって、そう思ったのかよ」
「・・・・・・・・・」
「殺したり、なんて、出来る訳ねえだろーが」
「そんで、無かった事に、出会わなかった事に出来る訳も、ねェだろうが」
高杉は黙ったまま、何も云わない。 ああ、この喉を高杉が潰した瞬間に戻れたら、俺は何をしてでも 止めたのに。こいつがこんな風にしか生きられなくなる前に、 別の生き方で生きられる道を残したのに。 一緒に、探したのに。
もう考えても無駄な感傷だとは解っていた。
高杉の抱えた、おちょこを奪って呑み干す。 「うげ、桜の花びらって、にげェのな」 近藤は顔をしかめた。
「ちなみに、今ので酒は最後だかんな」
高杉がうつろに近藤のほうを見た、 「おら、買いに行くぞ、立てよ高杉」
「立てよ、」
「俺はお前を看取るつもりも、殺すつもりもねェからな」
高杉が、ゆっくりと立ち上がった。 それを見て近藤は笑った。 ひどく、うれしそうな笑顔に、高杉は「てめーなんざ死んじまえ、 ・・・上物の酒をがばがば呑みやがって」と云った。
足元の手紙を拾うと、細かく、細かく、細かく、 そこに込められた想いを誰にも知られることの無いように、 そこに込められた想いが風に乗って、せめて遠くへ、せめて高くへ 舞っていけるように、
細かく、高杉は千切って、窓の外に放った。
花吹雪によく似ていた。
二人は連れ立って、酒を買いに出た。 まだ日は高い。
END
近藤×高杉で検索をして来てくださったアナタさま、 この様な希少なカップリングを愛する方が、 私とここのオーナー、銀迦ちゃん以外にもいらしたことに、 正直驚き、そしてとても嬉しかったです。ありがとうございます。
うちの近高は、更にそよちゃんを絡めるという、捏造純度100%を オーバーするものなのですが、少しでも、マイナーカップリを愛する方の お暇潰しにでもなれれば、本当に幸いです。
うわわ、凄い勢いで拍手を頂いているのですが、実はこれは ミスって途中でアップしてしまっています。 その段階で拍手メッセージを下さった方、ありがとうございます、 でも正式にはこれがラストです。
でもってレスの続き。
切ないここの近高が好き、と仰ってくださったアナタさま、 ありがとうございます。 でも最近、切なさともどかしさ、遣る瀬無さを追及しすぎで、 どんどん高杉が儚くなってきてしまって、焦っております。 彼の苛烈さと危うさを、激情と狂気を踏まえたうえで、 切ない高杉の生と、それの側に居ようとする近藤を書きたい!!と 思っております。よろしかったらまた遊びにいらしてくださいね、 近高観をお話してくださったら、泣いて喜びます。
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