銀の鎧細工通信
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2005年04月13日(水) 迷妄の速度 (沖土)


黒猫が這いずっている。
下半身の利かないその猫は、するすると蛇の様に目の前を通り過ぎて

消えた。




ざあ、と強い夜風に煽られた木の葉の影が障子に映る、何かの
生き物の様にしなっている。
物が極度に少なく、がらくたの様な物がぽつぽつと転がっている
広い部屋の真ん中で、沖田は布団に入ったまま目を開けている。
はだけた布団から両手が出ており、季節がぬるくなった事を身体で感じる。
空気中の見えない鍵盤を叩くように、天井に向けた利き手の
指をふらふらと動かす。
自分の呼吸音さえ、外の風の音にかき消されて聞こえない。



むくりと起き上がり、ざざわ、ざざあ、と木の葉擦れの音に耳を澄ます。

あの猫は何処へ行った?



布団から廊下へと出ると、まだ空気は少し冷たい。
ひたひたと裸足に冷えた床の感触を染み込ませながら沖田は歩く。

歩くのはゆっくりな方だった、気忙しそうに大股でガツガツ歩く
土方とは対称的であり、かといって悠々と歩く近藤とも似ない、何処か
存在感の無い、気配の薄い歩き方だった。
山崎が仕事の都合で身に付けた歩き方とも違う、速度は緩急を繰り返し
少しも定まらない。

「お前とは歩調を合わせ辛い」

それはまだ沖田が13歳ほどの頃に、土方に云われた事だった。
本人はそんな事を考えてみた事も無い、ただ、思うままに歩いているだけ。
今もそれは変わらない、土方が迷走しているならば、自分は迷妄している
だけだ、ただ其れくらいのものだ。


すらりと襖を開ける。
眠りの浅い土方は廊下からの気配だけで目を覚ましてしまう、
「・・・ぁんだよ・・・」
不機嫌な声が、横向きに臥し背中を向けたままで放たれる、
その気配が沖田のものだとも解っている口調。
「よく解りやすねィ」
「わざと剣呑なもん撒き散らして歩いてっからだろ・・・」
「ご名答。命頂きに参上」
「莫迦か、部屋戻って寝ろ、クソガキ」
ぼそぼそとした声は、風の唸りを背景にして、沖田の耳に飛び込んでくる。
「そりゃねェですよ。俺は探しモンの最中なんでさ」

「・・・こんな時間に探しモンだ・・・?寝惚けてるのか」

土方がごろりと向き直る、のそのそと起き上がり、枕もとの灰皿と
煙草を引き寄せるのは、沖田の気まぐれに付き合う気を見せた証拠だ。
ぺたりと冷えた畳を踏んで、沖田は部屋に入る、
風の音が更に遠くなる。

そしてその代わりに土方の匂いや気配が沖田を取り巻いた。
煙草と紙類の匂い。
「ほれ」
ばふ、と座布団が突っ立ったままの沖田へと放られた。
それを無視して土方が胡坐をかいている布団の上に腰を下ろす、
じろ、と睨みつけられても、じっと目を見つめ返すだけの瞳は硝子玉の
ようだ。沖田の目は何にも語らない、そのことに慣れっこになっている
土方は静かに目を逸らした。

「で?探し物ったぁ何だ」
明かりをつけていない部屋は、外からの薄明かりでぼんやりと
している。そこに土方の煙草の煙が靄をかけた。
「猫でさ」

「猫?」

「そう、下半身が不自由な猫。蛇みたいにするするって、
前足と上半身だけで動くんでさ」

「総悟、お前やっぱり寝惚けてんだよ」

「眼は覚めてますぜィ、夢の中に出てきた猫なんでさ」

ふー、と土方が天井へ向けて煙を吐いた。
「それ、見つかるのかよ」

「さあ、だから探してるんだろィ」

「ふん」

土方が呆れた声を出して、襖の方へ目をやった、
「すげえ風だな、木が化け物みてえだ」


「ですねい。・・・ああ、猫がどっかで這ってやがる」


土方は煙草をもみ消す、
「探しに行くか?」
立ち上がって云った。
ざざあ、ざざり、ざわあ、ごおぅ、風の音が一瞬だけ鮮明になる。
海鳴りのようにも聴こえる、轟き逆巻く其れ。


「いいんですかィ」
沖田は見上げてぽつりと問うた、

「お前のせいですっかり目が覚めちまった」
煙草を寝巻きの着流しにごそごそと入れながら応える。



風と土方の声の合間に、目を赤くちろりと光らせる猫が、
動かない下半身を引き摺って這っているのがちかちかとよぎる。


「俺の探しモンは見つかるけど、あんたの探しモンは、
見つかりやしないんですぜ?」


「何だよそりゃ、俺は何も探してねえよ」
眉を寄せた土方が沖田の腕を取って立ち上がらせた。




ああ、ああ、今宵また迷妄の速度で、迷走する猫を追いかけている。
ざわあ、ざざざ、ずざあ、ざざわ、







END

幽玄狙って意味不明な沖土でした。へ、へへ・・・。

BGMはHi-Posiです。『歌と身体だけの関係』です。身体と歌だけ、
だったか?


気を取り直してレスポンスです!

ぱのらまさん
よもや、憧れてはや・・・5年目?にもなろう貴女様に、こうして
メッセージを頂けるとは思っても見ませんでした。
人生の妙味、僥倖に酔い痴れます。
ふふ、実は腐女子妄想、満載のどろどろぐたぐたの人間模様、哀愁仕立て
の銀魂フルコースに舌鼓をうって頂けているのは、非常に嬉しいです。
改めてじっくりメールでお返事させていただきますね、
取り急ぎ、心よりの御礼と歓喜を込めて。

ゆいさん
お久しぶりです!お元気でしたか?
ゆいさんが如何お過ごしか気にかかっておりましたらば、
パソコンがやさぐれたり、とお忙しい日々だったのですね。
今週のジャンプで、沖田の将来に土方の幸せを賭けてみたくも
なりました、ええ、無理だとは思っているんです。
・・・正直、土方はあの絶対に、報われない処が魅力なのだと思って
いまして。笑。単に薄幸なのではなく、虚しく空廻っている土方、ラブ。
お暇な際にでも、また遊びにいらしてくださいね、
ありがとうございました!








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