銀の鎧細工通信
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坂を下っていたら、その下から登ってくる奴が居た。 「あ」 と云うと寄って来た。
「巡察中?」 「ああ」
「ルートって決まってんの?」 「大体はな、でも押さえるポイント以外は行く奴次第だ」
「押さえる場所って、何処」 「莫迦野郎、お前に云うかよ」
「俺がヅラに流すとでも思ってんの」 「桂だけじゃないだろう」
「?・・・誰のこと云ってんの、多串くん」 「てめーで考えろ」
にや、と銀時は笑った。
「何だよ」
土方が眉を寄せる、いつも以上に過敏で獰猛な表情。
「ほんと、自分勝手な奴だな、多串くん」 云うなり土方の耳たぶの後ろを爪の先でくすぐる。
ぴくり、と身を震わせたにもかかわらず、身体的な刺激には頓着せずに、 銀時に云われた言葉だけに顔をしかめる。 言葉の代わりに煙を吐き出す。 云わない分だけ土方は煙草を吸うし、そうすればそうするほど 彼は言葉を失っていく、話せなくなる。 おそらくそれこそが土方の望んでいる事なのだ、 云わなくて済む、云わないままで封じておき続ける事。 そうして自分で自分を騙して、誤魔化して、その先に 想いが消失する事を願っている。
銀時の奥の方で残酷な好奇心が増殖する。
(誰が許すかよ) 「云わなきゃいいってもんじゃないだろ」
耳たぶの後ろから、首筋にかけてを繰り返し撫でる。
「黙ってりゃ済むと、本当に思ってんの」
「何の話だよ」 思うままだ。 こうして話を振れば、土方は喰い付く。 自分から云えないなら云わしてやるまでだ。 無理矢理に引き摺り出し、暴き晒した彼の最奥の感情から、 土方自身が目を背ける様を見たい。 その羞恥と自己嫌悪と、死に至るほどの絶望。
弱りきった土方を、断崖の淵で見てみたい。 そして自分が引き上げたい。 転げ落ちた下り坂の下で、一番の底辺で、倒れ伏した土方を 引き摺り起こしたい。
「おまえ、すぐにだんまりだからよ」
「別にんな事ねえだろ」
「そう?」
飄々と銀時は笑う。
「じゃあ、云ってごらんよ、おまえはどうしたいの」
首筋を撫でて弄んでいた指で、首もとのスカーフを掴んで、 無理矢理に胸倉を寄せる。 崩れた体勢の土方を見下げて云う。
一瞬激情が眼に走り、土方はそれを無かった事にするために眼を伏せる、 まばたきをひとつして、もう一度銀時を見据えた眼にはもう 困惑と迷いの色は無い。
「おまえを斬り殺したい」
掠れた声で淡々と滑らかに告げる。
銀時は満足げに微笑んでは 「それ、忘れるんじゃねーぞ」 と云って返事を聞かずに土方に口付けた。 抱き寄せた腰に力を込める。 シャツの中に手を滑り込ませては、土方の腰から背中を 撫で上げる。内臓の後ろの辺りで爪を立てた、
引き摺りだしてやる、この中で渦巻いているもの。
ぶちまけた血みどろと臓物の中から、蠢いて甦る土方を 歩き出させるのは、俺だ。 土方の中でのたうちまわっている獣の、首を斬り落として、 その血で土方を洗って自由にしてやるのは、俺だ。
だから、 「この坂、下っていくんだろ? 俺は下から来たから、戻らねーよ」
そう云って、別れた。
土方が坂を下っていたら、 その下の方から登ってくる銀時がいた。
END
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