銀の鎧細工通信
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2005年04月04日(月) 立ち枯れ (坂土→近高)



「おお、近藤か、何?高杉の居場所?
・・・おまん、高杉と付き合いがありゆうこと、
土方に云うちょらんかったろー、おう、・・・おう、
・・・わしには何も云えんこっちゃ。・・・
・・・ほがなこと云うても、土方に説明ばしちょらんと
あんまりじゃ。むご過ぎる。
・・・信用しきってる大将に、裏切られたも同じことがじゃ、
あ?・・・わしは知らんきにゃ、自分で考えるんじゃな。
・・・おお、・・・あんなにおまんのこと、赤んぼみたいに
信頼しきっちょるんがぜよ?・・・ちったァ考えてやらにゃあ。

ほいで、高杉じゃな。ヅラから、桜家ばゆう旅籠に居るちゃー
聞いたんが最後じゃ。・・・ああ、多分この季節じゃ、まだ
そこに居るんじゃろな。・・・いや、・・・近藤、
土方は絶対に知らない振りを続けゆう、おまんが説明するもせんも、
おまんが決めることじゃきに。・・・おう、・・・じゃあな」


ふう、と溜息をついた。
宇宙回線の横で仕事をしていた陸奥が「ガキじゃあるまいし、
ほがァなことで要らん長電話されちょったら船が火の車じゃ」と
ぼそりと云った。

苦笑して、
「そがあなこと云うな。おまんだって、土方のことば、可愛がってるろー」
と坂本は応えた。覇気の無い声だった。
「地球に居る奴らは、どいつもそろって不憫じゃ」
陸奥は云った。
離れれば幸せだなんて、そんな単純な意味合いではなかった。



何も云えずに、花を咲かせることも出来ずに枯れていくもの。
花を失い、語る言葉を持たずに、立ったまま枯れているもの。
花を咲かさねばならない、と思い込んで自分ばかりが枯れていくもの。
枯れない花を咲かせ続けることの苦労を背負って生きるもの。



土方が、高杉が、桂が、銀時が、ただ不幸なだけとは思わない。
「観てていたたまれんのは、確かじゃな」
云って、坂本がまた溜息をついて窓の外に目をやった。
「ぐだぐだ考えちょると、脳みそまで毛玉になるがぜよ、おまんは」
陸奥は書類にペンを走らせたまま、云った。
「・・・そうじゃなあ」
苦笑する。それしか、出来ないだろう。






「山崎、」
呼び止められて振り返る、近藤はたまにだがこうして隠れて自分に
「桜家って、知ってるか」
と旅籠の場所を訊いてくる。
理由は、訊かない。
聞きたくないものだろうから。



土方の耳に入らなくても、彼が息の止まるような思いをする言葉が、
近藤の口から放たれる事が嫌だった。



「・・・西の外れの、桜並木あるじゃないですか、あそこの
近くにある、大きな桜の木がある所ですよ」
何の疑問も抱いていない、という顔で応える。
「あんがとな」
そう云った近藤の表情は、いつもよりも少し笑いに力が無かった。
「いえ」


こんな近藤の笑い顔を見たら、それこそ、やはり土方は
心が氷るような思いになるのだろう。

知らないで欲しい。
知らないでいて欲しい。
・・・でも多分もう、土方は何か知っている。
そうでなければ近藤がこんな風に笑うはずが無かった。
山崎は、ぺこりと会釈をして、廊下を去った。
心が重たかった、体も重たかった。







「・・・これか」
旅籠自体は小さな、民宿のようだったが、その敷地にある桜の
大木は本当に見事なものだった。
大きく枝を伸ばし、おそらくそれが売りなのだろう、全ての部屋から
その桜が見られるようになっていた。

「さくらや」とかな文字で書かれた行灯がかかっている門をくぐった。

いつも訪れてから困る、高杉が何て偽名を使っているのか解らないから。
彼の外見を説明し、そうして部屋を教えてもらう。


からり、と襖を開けた、近藤の姿を見るなり案の定、窓枠に腰掛けて
窓を全開にして桜を見ていた高杉は、酒の杯を投げつけた。
胸元にぽふ、と当たり、近藤はそれを受け止めて割れないようにする。



「その格好で来るな、莫迦にも程があるぜてめーは」

「逆にこうして堂々とくれば、誰もお前がお尋ね者だなんて
思わないんじゃねえか」
開口一番の悪態に、近藤は表情を緩める。

あの、鬼兵隊が壊滅寸前に追い込まれた戦いの日に、
川の中で沈みそうになっていた高杉を見つけて、
祭りの時に再開して以来、高杉は此処に居る。
今も、「俺の首を持っていけば、株が上がるぜ」と云う。

それが高杉の誇りなのだ。
鬼兵隊を率いていたということ、それが高杉の誇りなのだ。
幕府に裏切られ、悪者にされ、仲間を殺され晒し首にまでされた、
そんな痛手を、血を流し続ける傷を抱えながらも、それでも
高杉は、その仲間と過去を決して忘れはしないし、そうしようとも
しなかった。

引きずり出した心臓を、高く掲げて、自分の血を自分で浴び続けて
いるような生き方だと、近藤は思っていた。

其処までしてしまう奴に、それが良いとか悪いとか、云う気にはならない。
そうまでしてしまう奴に、そうでしか生きていけない奴に、
やめろとは云えない。

立ち枯れていても、生きている。
高杉は、生きている。


「いい、眺めだなあ」
怖ろしいくらいの圧倒的な存在感で咲き誇る桜が、
高杉の背後を埋め尽くしている。
こんなにも、暴力的なまでの生命を、儚い命の、花を全力で
咲かせている、桜。
「お前と似ているなあ」
近藤はにっ、と笑った。

「春だからって、頭に花でも咲いたのか」
ぶっきらぼうにだが、高杉が少し照れている事がわかる。

ああ、お前生きてるな。
生きているんだな。



窓へと歩み寄り、高杉の薄い肩に手を置く。
ずっとこうしていたのだろう、着物は冷え切っているが、
高杉の体温がじょじょに掌に伝わってくる。



小さなこうべに、近藤は額をつけた。



(すまねェ、トシ)

(すまねェ、トシ)


(でも俺は、俺が高杉の、こいつの立場だったら、
こんな風に生き続けていけるのか解らねえんだよ)


(トシ、お前らが大事だ。大事な仲間だ)




(だから俺は、斬られた花の首を目にして尚生きている
こいつを見て居たいんだ、)



(見て、側に居たいんだ。トシ)













END



嬉しい拍手メッセージを頂きました。
>「聴こえたから」坂土の土方がもう切なくて可哀相で、酷い生理痛の痛みも一瞬飛ぶ程土方の幸せを考えました

本当に、自分の書いた捏造作品へ、妄想キャラへ、ここまで云って
頂けるのは、物凄く嬉しい事です。ありがとうございました。

なので、『遭難者』という最初の近高以降の、土→近高を
まとめてみるために書きました。
土方の想いの質を知らない近藤は、それでも彼らを思うが故に
高杉を放っておけない事、其れに関して周囲の人間も心を痛めること、
それでも、どうしようもないこと。

結局、幸せではない、とは思います。
誰が悪いわけでもなく、でも誰も幸せでもない。
私はこんな風に考えながら、土→近前提で、近藤高杉、山崎→土方、
坂本×土方、陸奥坂本、陸奥土方を込めてみました。
「×」があるかないかは、明確なカップリングや、何処か片恋の要素が
あるかないかで使い分けています。

生理痛、暖めてお大事になすってくださいね。
おかげさまで、私は自分の中のひとつの整理が出来ました。


BGM:タテタカコ「卑怯者」リピート。『裏界線』収録。



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