銀の鎧細工通信
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| 2005年03月30日(水) |
はいはい (陸奥銀) |
「・・・なあ」
「なんじゃ」
「・・・あんた、ちったァ目立たない格好とか、しねーの」
「目立たない?」
陸奥がくすりと笑った。
「どう見てもただの旅装束じゃろ」
「男のな」
春の陽気に誘われて、銀時は昼過ぎに起きるなり、 ふらりと町に出た。 卸問屋で、帳簿を店主と見合っている陸奥と 出くわしたのはそんな時。
商談なので、菅笠はかぶっていないものの、濃紺の着物に 濃紺の袴を伽半におさめ、黒い外套を羽織っている。
目に鮮やかなのは、その金灰の長い髪と、 細い首を隠す様に巻かれた真紅の絹のスカーフ。
やれ「春物の着物を買う金もこの貧乏道場にはない」と お妙が新八への給料不払いでブチ切れた矢先だった。
これだけの美形だ、飾れば幾らでも光るのに、 化粧は完璧なくせに服装に関してはこと、陸奥は ストイックだった。
「ま、綺麗なねえちゃんが男装ってェのも、悪かねーけどな」
「男装しちゅう訳じゃないろー、単に機動力の問題じゃ」 陸奥が色を抑えながらも、完璧に施された化粧を施した この上ない「オンナ」の顔で応える。 マスカラ睫毛が頬に作る上品な影まで計算し尽くされている。 口角を上げ気味に塗られた紅まで鮮やかだった。
「まっことオトコちゅうもんは、自分のことば棚にあげゆうて、 オナゴの見てくればっかり気にしゆう。勝手なもんじゃな」
銀時の年中同じ出で立ちをちろりと見やって云った。 無表情のために作られた化粧はこういう時に更に映える。 服の色が地味で、オトコじみているからこそ、彼女のオンナっぷりは、 これみよがしに目に焼きつくのだった。
「俺は別にいーんだよ、色気づく歳でもねーし」 何気なく返した言葉に含む、瞬間のどきり、という鼓動も 陸奥の計算のうちだろう。 (ほんっと喰えないオンナだぜ) ばさり、と外套を払い、細いしなやかな手を出すと、 圧倒的な素早さで銀時の顎を捉え指先で自分の方へと向かせる。 「んなっ!?」 何だよ、までも云わせずに陸奥はにやりと笑むと手を放す、 「ほがァなこと、よう云うわ、考えとるくせに。 どんな面して云うちょるんか見てやった」 真昼間の街中だ、ただでさえ目立つ二人の、こうした動きは 人の目を引く。周囲は何も見なかった振りで目を逸らす。
(うわあ、もうなんつーことを・・・) と方眉を下げて気まずさをやり過ごす。 陸奥の金灰の髪が光を受けてちらり、ちらりと光反射しては それが目に入る。 顔の間近で見た爪は、働くオンナのものとは思えないほどに 手入れが行き届いて、美しく塗られていた。
「はいはい、どんな服着て様が、あんたは何時でもイイ女だよ」
降参の色もあからさまに、銀時が肩をすくめて口にすると、 陸奥は「何も出んぞ」と返した。
「期待してねェよ、単に美意識を誉めただけ」 陸奥が鼻で笑う、 「おまんの美意識にゃ、敵わんぜよ」
(あー、中身のってこと?)
銀時はいい気分になる。自分の生き方の、魂の美意識の 在り方を誉められるのは嬉しいものだ。 他人の評価など期待しない様に、それで思いのままに 生きていけるために、それ、を振り切って振り捨てて 生きてきたのだ。 とうにアテにしないで、生きているにしても、改めて認められるのは 一人の侍として生きていて、嬉しい事に他ならない。 ましてや、それが違う道で闘っている人間から出た言葉だから尚の事。
(ヅラや坂本からは聞けないもんだしな)
陸奥がくくく、と喉の奥で笑っているので、そちらに目をやる。 口元を手で隠し、彼女は笑っていた。
「何よ」
「おまんも全く可愛いオトコじゃの、そのニヤけ面」
「フン、キツネオンナめ」
子供があかんべえをするかの様に、不貞腐れた口調。
ああ、春の陽光に幻惑される、陸奥ときたら花に嵐、 変幻自在に翻弄される。 いや、
(俺の周りの女は皆そうか、花で嵐、)
「オトコは単純なくらいで丁度いいんじゃ、どうせ考えたところで ろくでもないもんしか出てきちゃあせん」
悪い目つきに施されたアイラインも艶めきたつ。
「その点坂本は何も考えてねーしなあ、悩み多い銀サンには 理解できませんよ、全くな」
「はいはい、気ばァ遣うてせいぜい苦労するこっちゃな」
ふわりと、ぎらりと、陸奥はいつでもその鋭い美意識で 生きている。 お登勢にキャサリン、お妙、神楽、・・・西郷もか? 銀時は身近な女性を思い浮かべて
(全くオンナどもの「道」の真っ直ぐさったら見事なもんだぜ)
「おまんらよかァ、よっぽど強く柔軟に生きちょるんじゃ」
銀時の考えを読んだ様に、陸奥は口にした。
「あーもう俺、多串くんでもからかってくるわ」
「土方か、あいつも苦労ばっかりしちゅうきにゃ」
「そ、男だって頑張ってるんだぜ」
「はいはい、もっと気ばァ張るんじゃな」
颯爽と去る背中、小さくて細いそれ、 オンナもオトコも、結局のところ自分の信じた道を ただ闘って生きている。
END
オトコの不器用な侍道、オンナのしたたかで逞しく美しい生きる道、 どっちも求道者ですね。 思想も何もなく、人間一人が生きることへのオマージュです。
春めいてきて、何となく心も揺れては何処か浮かれる。 皆さまも着飾って繰りだしましょ、町に。 オンナもオトコも、自分の思うように頑張りましょ。
BGM:PUFFY、またかい。
タイトルは椎名林檎の「はいはい」と、PUFFYの上記、アメリカで 出したアルバム収録の「Hi Hi」から。 春っぽく軽いものをば。
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