銀の鎧細工通信
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2005年03月29日(火) 水溶性 (坂土)


ぱしゃりと水辺で音がする。
魚が跳ねたか、水鳥が飛び立ったか。
真夜中の水辺では何も見えない、
ただ水音だけが、ぱしゃりぱしゃん。


ぱしゃん



鼻歌を歌いながら、木々の生い茂る林をすいすいと
下駄で軽く歩く。
土から浮き上がった根に躓きもせず、
長身を、無造作に伸び放してある枝に掠める事もなく。
坂本は闇を怖がらない。
見えないものを怖がらない。
畏怖もしない。
ただ判別のつかない水音の正体を想像しては楽しみ、
見えない障害を鋭い勘だけで避ける。
手招く闇に呑まれもせずに、顎を撫でつつそれすら楽しむ。
不幸にも其れに絡め取られた土方の四肢すら、そういうものとして
鑑賞している節がある。

薄情なわけではない。


「土方ーァ、おんし何処に隠れちゅうがかー」
焦るでもない声が土方を闇の中で呼ぶ。
木の葉を踏む音すら立てずに、土方は大きな木の陰から
姿を現す、「此処だ」。
黒い隊服は髪と共に闇に混じって溶け込んでいる。
「おお」
ぱあっと坂本は表情を変えた。
山で珍しい動物や植物でも見つけた様な表情。


あるがままを無条件に受け入れてしまうキャパシティの
広さに大きさに、土方は苛立ちを覚える。

それは昼間の近藤の言葉へでもあった、たかが「人の親」でくくれて
納得できてしまう、度を越えた包容力。
若さと剣の腕への自負から(元来の性悪さも含めて)の
沖田の振る舞いへでもあった、何事も無かったのかのように、
予想の範疇であったかのように、マスコミの人間に呑気面で蹴りを
入れてみせる若さ。
理解を超えたものへの、想像を超えてしまうものへの、
畏怖や惑いを感じない事が悪いのではない。
ただ、自分の卑小さと、拭いがたく何かを見限って、諦めて
しまっている暗い部分をちりちりと焦がされるのだ。

どれだけ気にかかって仕方が無くても、銀時があの爆風の中で
死んでいたら、土方は納得しないままそれを飲み込んでしまう。
信用も出来ない、期待なんてもっての他だった。
するだけ、後が辛い。

「どうしたがか、暗い顔ばしちゅうて」
目の前に大きな影がかかり、坂本が目の前で立っている事が解る。

「・・・別に」
口の端をゆがめて薄く笑った。
自分でも解っていた、コレ、は気を引くための笑い方だ。
こんな笑い方をすれば、大抵の人間は何かあったのだと思う笑い方。
信じる事も出来ないくせに、都合のいいところでばかり他人に縋る
自分は何て弱くて醜悪だろう。
土方の笑みが更に自虐的になる。

坂本が、夜だというのにかけ放したサングラスの下で
むう、と眉を寄せるのが解る。
「ふ、ふふ・・・」
土方が堪え切れない、という風に歪んだ笑いをこぼしながら
その横をすり抜ける。


春の林は妙にざわめいている。
生き物がうごめく気配、辺りをうかがいながら。
その中にある湖も何処かざわついている。
水面下で化け物でも蠢いていればいい。

土方は迷わずに潅木を除けて、湖の水際まで行き、
そのまま速度を緩めることなくばしゃばしゃと入っていった。
「・・・!土方・・・っ」
坂本が長い体を反転させて(ああ、それは何て見事な動きだ、
大きく弧を描くような、輝かしいもの)、後を追いかける。

湖畔で外套を脱ぎ、スカーフを外す、無駄の無い素早い動き。
土方は腰まで水に浸りながらぼんやりとそれを見ていた。
まだ冷たいはずの水の温度も感じない、下駄まで脱いで、
水の中へ土方を追ってきたのを見届けて、土方は頭までぱしゃん、と
水中に沈めた。




刀はこの上ない重石だ。
これが重くて浮かび上がれなどしない。
沈んだまま、湖底の水流に身を任せる、
見上げても水面の揺らぎがわずかに見えるばかりで、
心地よい暗さだ、音もろくに耳に入らない。
土方は満足げに目を閉じる。




「土方・・・」



「土方ァ・・・っ」



誰が自分を呼んでいるのかも解らない。
解りたくも無い。

他人を信じる事も出来ない、期待なんて出来ないからしない、
でも利用するのか、好いように使うのか。
(ほんっとにどうしようもねェな)
思いながら、肺に残っていた最後の空気がごぼりと口をついて出た。

耳の奥がぼうぼうと鳴り、頭の中まで夜の水中のように暗く
なりはじめる。


ごお、不意に水流が動いて、土方が心地よく浸っていた流れを
乱して壊した。
脱力仕切っている土方の体が水流に乗って揺れる。
顔の上のほうで水の動きを感じて土方は薄く目を開ける、
大きな手が自分の眼前に迫ってきているのが目に入った。
すると胸倉を掴まれて引き上げられる。

外気に、空気に、晒されて囲まれて、土方は大きく咳き込む、
気管と肺に酸素が流れ込む、急激に、暴力的に。

苦しい。
苦しい。
苦しい。

この、地上は苦しい。


(苦しんだよ、坂本)

(ここ、の息苦しさに耐えかねて宇宙へ出たお前なら解るだろう?)


大きな掌で引き摺り上げられた上体を抱えられ、
片方の手で顔に張り付く髪をかき上げられる。
水に濡れた髪でオールバックにされた土方が、

まばたきをすると、
睫毛から水滴が零れ落ちる。


雫をこぼしながら上体を傾けたままで坂本に視線を向けた。
今度は目尻から水が流れて落ちる。

ぱたり、ぱたり、と水滴が土方の全身から水面に落ちて溶ける。



「このまま、こげな処で溶けゆう気なら、おまんを宇宙に
連れて行くきにゃ」

坂本は殴るでもなく、怒るでもなく、説教するでもなく、
罵倒するでもなく、呆れるでもなく、憐れむのでもなく、
びしょ濡れの土方を抱えて低く、よく通る声で告げた。
土方を真っ直ぐに見ている。


流し目のままで(真っ直ぐに見据えたら、目に水滴が入る)坂本を
見返す、その視線の動きは微かなものだ。


「無理だよ、俺ァ此処を離れられねえ」


土方は、力なく、でもはっきりと云った。



あっはっは、と坂本が明朗に笑い声を上げ、
「まるでかぐや姫の逆じゃな、ちいとも地球から離れようと
しちゃくれん」
と云いながら土方をしっかりと抱き締めた。
その勢いと力強さに、土方の肩が、腰が、背が、首が、
腕が、指先が、徐々に形を取り戻す。
固体に戻る。
触れられているところから、実体を取り戻す。

溶け込んでいた液体ではなく、固体である自分の指先を
実感すると、土方は黒い隊服が自分の体にまつわりついているのを
感じる。水を含んで重くなっているのを覚える。



白い手首から指先までが闇の中で発光する。

するり、とその手を坂本の首に絡める。両手で彼の抱擁に応える。


水の中から産まれたての、生き物のように。











END


はい、坂土です。
パピーと神楽ちゃんと銀さんと新八、皇子と爺に本気で泣きながらも、
私はこんな捏造を抱いても居るのです。
恐るべきかな妄想の同時進行・・・・・・!!

妙に土方が冷静ぶっているのが余りに不憫で、彼は暗い水の中に
解けて消えてしまうのが似合うと思いまして、そしたら
こんなことになりました。
自分では結構満足しています。
土方がこんな風に、恥も面目も立場もなく振舞えるのは坂本だけでしょう。

銀さんだったら、先ず刀を重石にしようとすることを怒る。
そして莫迦にしながら諭すでしょう。

沖田だったら、一緒に死んじゃうか、沈む土方に刀を突き刺して、
その血の色の湖で自分も死ぬか立ち尽くすかするでしょう。
これはこれで、好きなんです。書きたいかも。救い無いけどね。
もしくは引き摺りあげて徹底的に冷たく「逃げようったってそうは
いかねえですぜ」とか云うかも知れない。

山崎だったら、必死で引き摺りあげて、殴って泣きながら謝って、
それで土方を抱き締めながら縋るでしょう。

侍でもなく、副長としてでもなく、土方が振舞えるのは坂本相手だけ。
しかも坂本の性格からして、喚かない騒がない。良くも悪くも。


ってなことで陰気な坂土でした。
火のように激しい土方の、陰気な水の性質。

書いていて、何処かアスカカかエビカカを思い出しました。>銀迦ちゃん

BGM:PUFFYちゃん。こんな暗いもの書きながら、何て
ポップでキュートなものを聴いているんだ自分・・・!






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