銀の鎧細工通信
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| 2005年03月18日(金) |
聴こえたから (坂土) |
「副長、お客ですよ」
事件の処理のための書類などを製作し、本部への 報告資料などをまとめている土方に声がかかる。
「誰だ?」 机から目を放さず訊く。
「それが・・・あのう・・・坂本辰馬なんですよ」
指に挟んでいた煙草がポロリと落ちた、 慌てて拾うけれど、書類に少し焦げがついてしまった。 「はあ?・・・ん、ああ、解った。すぐ行く、中に入れなくていいぞ」
外套を羽織って門扉へ向かう。 日差しが眼に刺さる、良い天気だ。
ひょこり、と門から姿をのぞかせると、坂本がぶんぶんと手を振って 「おーう土方!元気にしちょったがか〜」 と云いながら近付いてきた。 長身に真っ赤な外套、もさもさの癖っ毛に下駄、何て目立つ男だろう。 思わず土方は溜息をついた。
「何じゃ、人の顔見るからに溜息ばつきゆうて」 「何もクソもねえよ・・・近藤さんなら出てるぜ」 頭約一つ分違うだろうか、見上げる形で話す。
「それは構わんきに、おんしに会いに来ゆうがじゃ」 にこにことしながら坂本は応えた、 「俺?何でまた」
「何でもいいじゃろ、まあ何処か行くろ、立ち話もくたびれるしのう」 ぽふ、と土方の肩を叩いて促した。
相変らず突拍子も無く、つかみ所の無いやつだな・・・土方は思う。
近藤の惚れ込んでいるお妙と、坂本が気に入っているおりょうが 同じ店で働いている事から、ちょくちょく顔は合わせる。 坂本は、近藤と違って一途にひとりを思う性質ではないので、 あちこちに入れ込んでいる女がいるのだろう。 しかも、ヤツには女と男の区分が無いらしく、自分も一度だけ 坂本と寝たことが有った。 他人を放っておけない性格なのだ。 その朗らかさに、土方は近藤と通ずるものをふと感じては困惑する。
「土方、痩せたんと違うか」 「そうか?体重計なんて無いからわからねーな」
「青白い顔ばしちゅうきに、煙草ばっかりのんじょるからじゃ」 「うるせえな、お前は俺の母親か」 土方の吸っている煙草を取り上げて、坂本は吸い込んでみる 「げえっほ、ぐ、げほ」 盛大に咽て、嫌な顔でつき返す。 「煙いだけじゃな、高杉といい、なんでこんなもん吸いようがか さっぱり解らんがじゃ」 「高杉?」 「おう、高杉晋助」 土方の目の色が変わる、 「あいつ、まだ江戸に居るのか」 「居るよ」 祭りの騒動以来、マークはしているのにさっぱり網にかからない、 最も注意しておかなければならない人間なのに。 あっさりとした坂本の対応に苛付く。
「近藤はたまに会ってるみたいじゃきに、心配なかろ」
またしても煙草を取り落としそうになる。
「・・・なんだって?」
「あちゃ、知らんかったがか。こりゃ口滑らしたきにゃ」
頭も身体も凍り付く、震えそうになる声を必死で抑えて訊ねる。
「何であの二人に付き合いがあんだ」
「さあ、わしも詳しくは知らんが、かなり前、そうそう鬼兵隊が 壊滅しちょった時から面識があるらしいぜよ、時々高杉のねぐらを 訊いてきゆう」
土方は呆然とした。
そんなに前から。
それは大体、真撰組が作られたのと同時期の話のはずだった。 何故。 裏切られたとは思わない、そもそも銀時といい坂本といい西郷といい、 もう既に攘夷志士に知り合いがいるのだ。 ただ、未だに活動を続けている桂と高杉は捜査の対象だ。 近藤がそれを知りながら、あえて捕まえないのだから絶対に理由がある、 それがショックだった。 わざわざ居場所を訊いてまで会いに行っているのだ。 隊の誰にも、自分にも何も云わず。
「土方、そげな顔しゆうな」 困りきった坂本の声に我に帰る。
「近藤さんに何か考えが有るんだろ、俺が口出しする事じゃねェ」
素っ気無い声を出す事が精一杯の強がりだった。 きっと、近藤本人に問いただす事など自分には出来ない、 そんな勇気は無い。 衝撃の余韻でぐらぐらと眩暈がした。 突然、坂本に手をぎゅうと握られる、咄嗟に見上げると 「倒れん様にせにゃいかんぜよ」 と優しく、云われるので土方は心底困り果てた。
「誰が倒れるかよ」 (俺には関係が無い事なんだから、だって近藤さんは何も云わないから)
むしろ、白昼に男二人が手を繋いでいる事に焦りを覚えた、 しかも自分は隊服だ。 手を払って辺りを見渡す、誰もいない。ほっとした。
くそ、と心の中で毒づいた。 余りにも遣り切れない。
自分だって銀時と寝ているくせに。
腕を突如としてつかまれ、ずんずんと脇道に入って行く。 坂本の大股歩きに、足がもつれた。
「何だよ!」 怒鳴って腕を振り払うと、坂本は向き直って両手を広げた
「泣いてもいいきにゃ」
土方の表情が歪んだ、うるせえ、放っておけ、 喉がからからに渇いて声が出ない。 「誰が泣くかよ」 ひび割れた声で吐き捨てた。
坂本が眉を上げて、肩をすくめる。 しょうがない、といった風に土方を抱き寄せる、 「知らんかったんじゃなあ、すまんこと云うたがきに」
「・・・っ・・・」
坂本の胸の中で、土方が呻き声をあげた。 そういえば近藤は会議の際に「万が一高杉を見ても、迂闊に手を出すな、 殺される。先ず俺に声をかけろ」と云った事が有った。 河原で高杉らしい人物の目撃証言があった時にも、自分を制して 「俺が行く」と云っていた。
捕まえないのは構わない。 でも、どうして何も云ってくれないんだ、俺にさえ何も。 そんなに高杉が大事なのか、 そんなに高杉が大事なのか? 近藤さん、近藤さん、近藤さん。
訳が解らないままに溢れそうになる涙を精一杯堪えた。 出会いも、付き合いも、さっぱり自分には解らない。 知りようも無い。 そんな事が自分たちの間に、無い事の方がおかしいのに、 それでも知っておきたかった。覚悟すら出来なかった。 訳が解らない、解りようも無い。当たり前なのに。 ふ、と坂本の手が背中を擦り、頭を撫でる。 抱きすくめられながら 「全然、何でもねェ事だ」 と呟いた。
「ほんとにおんしは、たまに顔を見んと気になって仕方ないがぜよ、 心配でたまらんきにゃ」
土方が目を見開く、近藤の台詞のように聴こえた。
「トシ、お前は苦労性で意地っ張りだから、何でもすぐ自分だけで 抱えようとする。心配で仕方ねェよ、それを解れよ」
そういう事をたまに云われる。
近藤も高杉に対してそう思っているのかもしれない。 何故だかそう思った。
坂本の腕の中から離れて、 「余計なお世話だ」 と小さく云った。 声が出たか、土方には解らなかった。 出ていなかったかも、聴こえなかったかも、
苦笑される。 「聴こえるんじゃ、おまんの声が」
「何?」 顔を上げる。
「しんどい、って」 「黙ってるのがしんどくてかなわん、って」 「重たいもん、色々と背負いすぎじゃ、土方は」
一言一言、区切りながら坂本は云った。
「・・・仕方ねーだろうが・・・」
もういっそ泣きたかった。 泣けたらマシだった。 でも泣いても余計に辛くなるだけで少しも楽にはならないし、 何も変わらないのは解っていた。
坂本が上体をかがめて、土方に優しく口付ける。 受けながら土方は目を瞑った、 心の中で、涙が一筋伝った。 誰も知らなくていい、 気付かなくていい、
知られたら、たまったもんじゃない。 自分の想いなんて、誰も気に留めなければいいのに、
どうして俺に構うんだ。
そのまま旅籠に行き、土方は坂本とセックスをした。 そんな時だけ、苦しい思いを忘れられるだろうと思ったし、 坂本も多分そういうつもりだった。
声を殺し、顔をも隠す土方に、坂本は「土方、無理せんでいいんぜよ」と 云い続けた。何度も繰り返した。 「わしには、聴こえてるきに。吐き出していいんぜよ」
そう云われても、縋るわけにいかないだろう。 優しさに、日溜りに甘えたら、自分は凍て付いた世界に 戻れなくなるかも知れない、 それが怖いから土方は少しも素直になど、なれない。 ただ、自分を守るために。 ただ、自分を保つために。 ただ、自分が立っていられるために。
END
銀迦ちゃんが2月までのジャンルを分けてまとめてくれました、 バナーもじきにあげてくれると思います。 本当にありがたいです。 背景も凝ってくれて、自分の旧作が読み易くなりました。
★レス★ ゆいさま 何気ない日常の良さが、銀魂にはありますよね。 妙に生活臭があるというか。 なので、自分の歌舞伎町体験と共に書いてみました。 どこか寂しくて、どこか気が抜けて、でもこれから帰れるという 安心感。 後ですね、新宿歌舞伎町のドンキホーテ横には、放火事件以来、 本当に仮設ロッカーみたいな派出所が出来ていたんです。 銀迦ちゃんと観ながら、「これはネタに使える」など話していたもの ですから、使ってみました。 きんと寒くて、ちょっと寂しくて、冬から春にかけての不思議な 気持ちを感じ取っていただけたようで本当に嬉しいです、 ありがとうございました!!!!
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