銀の鎧細工通信
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もう随分と長いこと、死んだままで キスをしている。
不機嫌に呼ぶ。 平静を装って呼ぶ。 叫ぶように呼ぶ。 揶揄を込めて呼ぶ。 笑いながら呼ぶ。
あなた、あなた、あなたに俺は死んだままキスを。
「総悟」 ごく自然に呼ばれる。 「何ですかィ」 振り向く前から声の主は解っている、煙草で掠れた声。 甘くて苦い声。 屯所の縁側で土方が煙草を吹かしながら「ん」と云って 指で庭を指す。 その方向を見てみれば、庭木の梅が白い花を散らして咲き掛けている。 「梅ですかい」 土方は黙って咥え煙草で頷いた。 「もう春ですねェ」 隠居夫婦の様な遣り取りだな、と思いながら沖田は土方の 視線に関心を抱く。 この人は趣味で俳句を作る所為なのか、元来の気質なのか、 自然の移ろいによく気を向けている。 「鬼の副長」と呼ばれ、仕事中は黒い隊服に返り血を滴るほどに 浴びても平然としている姿とは似ても似つかない。 そして、土方がこういう事を云うのは沖田にだけだと、 沖田自身がよく知っていた。 近藤さんに云った処で「何だトシ、風流だなァ!」と豪快に云われ 恥ずかしくなるし、他の隊士には何よりも先ず「示しが付かない」の 一点張りだからだ。 沖田本人は、さほどの風流心は持ち合わせておらず、そうか、位の ものなのだが、それを知らぬか知った上でなのか、それでも 土方は沖田に何かを示すことが多かった。
(独りで居るときは脇目も振らずにぎらぎら殺気ばかり放ってる 癖になあ・・・)
いつか山崎がぽつりと漏らしたのだが、 「副長って、一人で歩いてると、凄い猫背で前のめりになって 早足で歩いてますよね。俺、あの状態凄い気になっちゃうんですよ」 そんな土方がどんな時に、何を思って自然の変化に気を向け、 そしてそれをわざわざ沖田に告げるのかは皆目見当がつかない。 ただ、のんびりしている時になのは、確かだった。 常に近藤さんありきで、隊ありきで、気を張って隊を取り仕切っている、 その息が抜ける時に何かをようやく見ることが出来るのだろうか。
(でも、万事屋の旦那には先を越されてるんだよな・・・)
銀時は土方と犬の喧嘩のようになっている時に、不意に 「あ、多串くん、ホラあの雲柏餅に見えねえ?」 などと云って煙に巻く事が多い。
だからだろうか、近藤さんばかり見ているこの人が、 あの胡散臭い銀髪に興味を抱いているのは。 張り詰めているものを、逸らしてかわして飄々とやり過ごす。 土方がそれに心地よさを感じているのは確かだった、 そしてそれは同じ隊に居る自分にはどうしても与えられないものだった。
縁側に腰掛けて、足をぷらぷらさせていた土方が、不意に 裸足のまま庭に下りると、梅の一枝をぱきりと手折って、 「おら」 と沖田の顔面に突きつけた。 梅の深い香りがいっぱいに広がる。 縁側に立つ沖田よりも、庭に裸足で立つ土方の目線の方が低い。 柔らかな日光がぽかりぽかりと二人をぬくめる。 「んな真剣な顔して眺めてっから、欲しいのかと思って」 沖田は思わず噴出した、この人は神経質で完璧主義者のくせに、 どこかずれている。 日頃から沖田に「おめーは突拍子が無さ過ぎる。何をしやがるか 解ったもんじゃねえ」などと云うが、お互い様だろうと沖田は思った。 白梅の枝を受け取ると、くるくると日にかざして回してみる。
また縁側に腰を落ち着けて、煙草に火を点けようとしている土方の 耳の後ろの髪にその枝を刺す。 「何だよ」 煙草を咥えているために、くぐもった声で土方が怪訝な顔をした。
「あんたァ、真っ黒だから、白が似合いやすぜ」
無骨な骨のような枝に、あまりに柔らかな白い花。 それは少し土方に似ている様に思った、そして自分の考えの 甘ったるさに沖田は苦笑いを浮かべる。
「にやにやすんな、気持ち悪ィ。俺が黒いってんなら てめーなんざ腹まで真っ黒じゃねえか」 眉間に皺を寄せて、元々少しつり上がった眉を更に上げる。 「てめーには秋になったら彼岸花でも頭に突き刺してやらァ」 ふーっと白い煙を吐きながら土方が云う。
ああ、それの方が自分には似合いかもしれないな。 有毒の異形の花。 毒々しい赤。血まみれのような。 何せ自分は死んでいる、死人から生えるのに相応しい花だ。 (まあ、そもそも花なんてガラじゃあないですぜ) 沖田は心の中で呟いた。
土方の横であぐらを掻く。 「俺ァ、花より団子ですぜィ」 そう云えば土方はくつくつと笑って 「おめーの場合は団子よか酒だろーが」 と云って沖田の腕を肘で小突く。 刺しっぱなしの梅の白い花がそれに合わせて揺れる。
当番の隊士は皆巡察なり、何なりと仕事をしている。 非番の隊士はここぞとばかりに小春日和に誘われて遊びに行った。 非番でも屯所に大体居るのは土方や沖田くらいのものだった。 近藤はここぞとばかりにお妙の元へと駆けて行く。
見てる者など居ない、居たとしても「ヤバイものを見てしまった」と 思って忍び足で去ることだろう。 そう考えて沖田は伸びをする。 「あーあ、全くいい天気でさァ」 云いながら土方の腿に頭を乗せる。 「重いんだよ」 土方は身じろぎもしないで至って普通に云う、 「硬い足を枕にしてやろうってのに、その云い草は何ですかい」 沖田が目を瞑ると 「じゃあ退けってんだ」 とだけ云った。微かな振動に目を開けると、土方が 白い花の向うで笑っている。
沖田は、また目を瞑る。
俺はもう長いこと死んでいるんだ。 あんたが近藤さんのことが好きだと気付いちまった時からもうずっと。 死んだままで、 「寝るんなら布団行け、総悟」 俺を呼ぶあんたの声に、キスをしている。 死んだままあんたが呼ぶ俺の名前にひとつひとつ。
END
沖土っていうか沖→土でしたね。 まあ膝枕だし、お花さしちゃってるし、土方は機嫌良くてさせ放題だし、 一応沖土かな? 白梅の花言葉は「気品」「忠実」です、ちょっと土方っぽいな、と。 もうこの夢見がちな私を誰か一升瓶とかで頭かち割って起こした方が いいかも知れません。笑。 後、ナチュラルに史実を混ぜてます。銀魂界の土方が俳句を嗜むかは 知りませんが、やらなそうだよなあ・・・。でへへ。
うちの近所では梅がほころんで、良い香りです。 皆様のお住まいの近くでは如何でしょうか? 冬の名残を楽しみましょうねえ。
レス! Y子嬢、メールと内容がかぶっているのに笑ってください。 書いてるということは、そこそこ元気だし、生きて呼吸をしていますよ! ありがとうね、本当に。
BGM:笹川美和「数多」
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