銀の鎧細工通信
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| 2005年02月08日(火) |
凍り付く金魚 (近藤高杉そよ) |
※『タリヨンの原理』を踏まえての話です。
「おいっ!」
「おいってば高杉!!ちょっと待て!」
早足でガツガツを地面を削るように歩いていた高杉が 刹那、振り返って近藤の口元に骨張った手を押し付ける。 「道端で俺の名前、呼ぶんじゃねえ。てめえが・・・!」 怒りを通り越した、狂気じみた目で高杉が唸るように告げる。
幸い時間は夕暮れ時、街外れの街頭に人影は無い。 けれど、近藤が真選組の隊服姿で「高杉」と大声を出せば、 真選組に限らず幕吏に見つかる可能性は高かった。 細い手首を握ると、薄い肩をぽんぽんとはたく。 高杉が手を緩めると 「ぶは」 と息をつき、「すまんすまん、吃驚したもんだからつい」 と黒服の大型犬は破願する。 「てめー何処まで阿呆なんだ」 云い捨ててまた早足になる。 「いや、それは本当に悪かった。でもお前、何であの話に そんなに過剰反応す」 「うるせェ!!てめーには関係無い!」 チキ、と高杉が刀の柄に手をかける。 近藤が真顔になる。 「内容は確かに関係無い、でも話したことでお前がそんな風に なったのは俺の責任だ。関係がある」 高杉の感情の触れ幅は尋常ではない。 かつては土方と少し似ているかとも思ったことがあったが、 土方は内に感情を押し込める方だ。切羽詰るほど表に発散しない。 高杉の場合は躁状態でも鬱状態でも攻撃的なことに変わりは無いが、 とにかく酷く情緒不安定だ。
あまりにも過敏な手負いの獣、 その神経質さは本人を傷めることにしかならない。 ならない、のに。
「はっ、責任だ?!随分ご大層な言葉吐きやがる、 だからっててめェに何が出来る!」 物凄い大声ではないが、細い首にはっきりと浮いた筋が 高杉の緊張と力みを如実に表していて、その痛々しさに 近藤は目を細める。 「正直、解らない。どうすればお前が楽になるのか、俺は 幾ら考えても解らない、だから側に居る」 「だったら生憎だ、それが余計俺の機嫌を悪くしてるんだって さっさと気付け!!」
ああ、まただ。 近藤は自分の奥の方で何かが痛むのを感じた。 ああ、また高杉が凍り付いている。 それが痛い、酷く痛い。
燃えたまま凍ってしまった炎。
高杉の印象は其れだった。 炎は内で燃えさかり、氷を溶かす側からまた凍り付いてしまい、 冷たく刺す氷の中の苦しみに、のたうって尚燃えさかって、 その繰り返し。 氷を溶かせれば。 炎を消せれば。 でもそのどちらかを損なえばこいつは死んでしまうかも知れない。 氷を溶かしたら自分の炎に焼かれて高杉は死ぬ。 炎を消したら氷の中でそのまま高杉は静かに死ぬ。
あのお方の云っていた事は正しい。 やはり、二人は何処かで逢っている。
おやっさんの付き添いで江戸城に行った。 只の供である近藤は別室で待つことになる、とはいえ土方の様に 煙草を呑むわけでもなく、部屋を出て廊下をうろうろ見て廻る。 客室の前の廊下には浮世絵や生け花が飾られ、さながら美術館の様だ。 その隅の、吹き抜けからの日差しを丁度浴びるところに 大きな水槽があった。 そこには真っ赤な金魚が、立派な、長い尾ひれをゆらゆらとさせながら 大きな水槽で一匹だけで泳いでいる。 日差しを受けてきらきらと鱗が輝く。 「ふわ〜・・・こりゃ綺麗だ」 ぽそ、と呟くと、背後からまさに鈴のような笑い声が小さくした。 振り向くとそこには「酢コンブ好きの姫様」と呼ばれるようになり、 その直前には真選組も捜索に借り出された人、そよ姫が立っていた。 「あ!」 近藤は訳の無い声を上げると一歩下がって深々と頭を下げた。 「構いません、私一人です。お楽になさってください」 そよはくすくすと笑いながら云う。 「真選組の、近藤局長、ですよね?」 土方が発見し、城まで送り届けたのは真夏だった、もう半年は前の事だ。 近藤は顔を上げると 「随分と記憶力が良くておいでですねえ」 と正直な感想を述べた。 「ふふ、私にとってもあれは大事件でしたもの」 屈託無くそよが云うので、近藤もつられて苦笑し、 「まあ、そうでしょうな」 と応える。 「ところでそよ姫、お一人で何を・・ってまた脱走する気じゃ・・・!」 近藤は自分で自分の云ったことに泡を食った。 「違います、金魚をね、観に来たのです」 そよはますます可笑しげにしている。近藤の素直な気質は人好きする。 「こいつですか?綺麗ですねえ、俺こんなに立派で綺麗な金魚 初めて見ました」 そよの横で大きな図体をかがめて、同じ目線で水槽を眺める。
「そうですね。でも幾ら姿が綺麗でも、見事でも、この金魚はこの 広いだけの水槽で、たったの一匹で凍り付いているんです」 「凍る・・・?」 「そう、見てくれだけを整えられて、只の飾り物のままで」
そう云うとそよは近藤の方へ顔を向けた、 「近藤さん、あなたの真選組は攘夷志士を主に追っていると伺っています」 「はい、他にも上から面倒事押し付けられたりしますけど、 大体はそうです」 『上』も『最高に上』のそよに向かってそんな事を普通に云ってしまう 近藤に、そよは好感を持った。
「高杉、晋助、は、まだ江戸に居るのですか」
「は?」 思いもかけない名前が飛び出たことに一瞬面食らったが、 祭りの騒ぎの際に名前でも聞いたのだろうと近藤は思った。 「居ますよ」 実はたまに会う(正しくは押し掛けている)、とは流石に云えなかった。 「捕まっては居ませんか?」 そよの口調は何処かおかしかった。 凶悪な不貞志士が徘徊していることに対する恐怖、というのでは全く 無かった。
むしろ高杉が捕らえられていないか案じている。
「捕らえて、いません」 近藤もだから敢えて自分に捕まえる気が無いことを暗に示した。 そよ姫は聡い、必ずこれに気が付く、と思った。 そよはぱっと顔を上げた、長い黒髪がまるで水槽の金魚の見事な 美しい尾ひれのように舞った。 「そうですか・・・」 黒目がちの瞳が少し揺らいだ。 それを押し隠すように伏せると、水槽に目を向けた、 「あの人も、この様な感じですね」 「金魚なんて可愛らしいモンじゃないですがね」 「ふふ・・・それはそうですけど。一人だけで、何処にも行けなくて、 ただ凍り付いている」 そよは水槽を指で撫でた。 高杉を見たのか、それとも高杉と遭ったのか、それは聞けなかった、 遠くで「そよ姫ー姫さまー」と呼ぶ声がしたからだ。 「じゃあ近藤さん、失礼します。どうぞ出世して、城に沢山いらして 下さいね、私あなたの隊、とても好きよ」 早口で云って微笑むと、そよは小走りで声のほうへ向かった。
笑い顔は、あの年齢にはあまりにも不相応なほど寂しいものだった。
その事を話した、その途端に高杉は酒瓶を蹴り倒して立ち上がって 表へと飛び出したのだった。
一人だけで、何処にも行けなくて、ただ凍り付いている
近藤の脳裏にそよの声が甦る、おそらくは高杉も。
「高杉・・・高杉・・・」 刀に手をかけたまま固まっている高杉に、なだめるように名前を呼びながら 近付いていく。 片目を覆っている髪を梳いてやる、高杉がびくりと震える。 そのまま手を肩に回して抱き寄せる。もう片方の手で、刀を握り締めすぎた 白い手を大きな掌で包む。
「行き場もやり場も、どうしようも無ェかも知れないけど、 お前、一人じゃない。絶対に一人じゃあない、高杉」 細い髪に顔を埋めて云う。 「・・・畜生、あのガキ、俺とアイツが同じだって・・・?」 か細く呟いた。 (ああ、やっぱり何処かで二人は遭っている・・・) どんな状況で、どんな遣り取りをしたのかは知る由も無い、 けれどそれは酷く近藤の胸を痛ませ悲しくさせるものだった。 「そんなのはよ、救いにもなりゃしないだろうが、痛い思い してんのはお前だけじゃないんだよ、解ってんだろう?」 「知った事かよ・・・そんなのに何で・・・俺が構わなきゃ ならねェんだ・・・知らねーよ・・・」 脱力仕掛けた身体を支える様に、抱きしめる腕を強めた。 「・・・っもう凍るな、もう燃やすな、自分が痛いだけだろうが・・・! だからってそよ姫みたいに寂しく笑っても欲しくねェ・・・ああ!もう 俺、何云ってんだ!畜生・・・!」 ぎゅう、と高杉を抱きしめたまま近藤が呻く。 「・・・ほんっと莫迦だな、てめー・・・」 ぼそりと呟かれて近藤が手を緩める、高杉が近藤の涙のにじんだ目を 見て噴出した。 「近藤、酒買ってこうぜ。俺、出て来る時に蹴っちまった」 すん、と鼻をすすって近藤が「ああ」と云って高杉の横に並んだ。
どうすればいいのかなんて、誰も解らないから。
ただ並んで夜道を歩いたりする。
END
ちょっとレスからいかせて頂きます。 8日、沖土大好物のアナタ様! あああ嬉しい!早速にメッセージを有難うございます!しかも体調不良の 土方も好物でらっしゃいますか・・・うふふ、むふふ。 いいですよね、ぐったりした土方って。 安心しました!お優しい言葉まで頂いてしまって・・・本当に有難う ございます、お陰様で銀鉄火ほぼ完治です! また沖土、宜しかったら召し上がってくださいねv
で、ですね、えーと・・・ごめんなさい。 すげえ楽しかったです。近高そよ。もうなんだそりゃ、と云いたい カップリングですが、書き手の脳が腐っていると、それなりに形に なってしまうもので。え、なってない? おかしいなあ、私の中では結構こういうことになっています。 私の頭がちょっとおかしいのですね。アハ★ 何か、ツッコミでも罵倒でも、ご感想頂けたら幸いです。 長いのを読んでくださり有難うございました!ラブ!
BGM:鬼束ちひろ「育つ雑草」
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