銀の鎧細工通信
目次|前|次
目が覚めて。 目蓋が重い。と思ったらそれは頭で、 布団から上半身を起こした時点でぐらりと傾いだ。 ぼわんぼわんと鼓膜の中で脳みそが揺れているのが 反響しているようだった。 吐く息が熱い。 身体も、額も、耳の後ろも、口の中も、全部が酷く熱い。
(やべェ・・・これ風邪か?インフルエンザか?)
後者だとすればこの大所帯、蚊の天人だけで総崩れになった くらいだ、広める訳にはいかない。 よろよろと手を伸ばして引っ掴んだ煙草に火を点ける、 味が全くしない、それどころか吐き気すら込み上げて来るようだった。 鼻も詰まっていて煙草の香りも感じられず、 喉ばかりが酷く痛む。唾液すら飲み下すのに眉を顰めるほどだ。
屯所にはかかり付けの医者がいたが、今日は日曜で、隊士たちには 関係が無いが医者は非番だった。
(呼びゃあ、来るだろうが・・・それは) ちょっと情けないし恥ずかしくもある。 そして面倒くさい。
幸い今日は土方は非番だった。 やらなければならない事務仕事も有るが、それはまだ期限があった。
(まだマシだったな・・・)
そう思って布団に戻るが、だるさと熱であまりに苦しく、 眠れそうにも無い。 土方は弱弱しく舌打ちをすると、電話帳を繰って近場の救急外来の 病院を探した。隊支給の携帯電話でかけてみるが繋がらない。 別のところにかけてみる、「診察は出来ますけど、検査室が休み なのでインフルエンザだったりしても検査は出来ませんよ」と 非常にぶっきらぼうに対応される。 これだけで土方はぐったりとし、「何なんだよ・・・」とか細く呻いた。 次にかけたのは少し離れた大病院、話中が何度か続き、ようやく つながったら「2時間ほどこちらでお待ち頂く事になりますが」 と云われる。 「・・・っくそ」 体温計は手近に無いが、熱はますます上がっている気がする。 救急隊にかけてもずっと話中だ。 だからといって救急車を呼ぶなんて冗談じゃない。 土方は電話を放り投げ、くらくらする身体も布団に倒れこませた。
襖が豪快かつ無遠慮に開け放たれ、 「土方さん、朝飯ですぜーィ、何たらたらしてるんでさァ」 と呑気な声がした。 咄嗟に土方は身を硬くする(しまった・・・!もうそんな時間か!) 土方が荒い息を吐きつつ布団の上に転がっているのを見て、沖田は きょとん、とした後に底意地の悪い笑みを浮かべながら襖を閉めて 部屋に入ってきた。 「風邪ですかィ?随分苦しそうじゃあ、ねえですかい」 云いながら土方を覗き込む。 じろりと睨むことは出来ても身体はさっぱり云うことを聞かない。 土方の額にぺたりと掌を当てて「38.8℃って処ですかねェ」と やたらとリアルな数字を述べた。 「山崎に粥でも作らせてきやすよ」 すっくと立ち上がり部屋を出て行こうとする沖田に、 「総悟」 と掠れた声を振り絞る。 「いつもの二日酔いだって云っておきまさァ、そうすりゃ土方さんが 機嫌もわりーと思って誰も近付きゃしませんぜ」 いつもの、だとか機嫌も悪い、だとか、気になる単語は吐かれたが、 土方の『誰にも云うな』という意思は汲んでいる。 ふ、と土方は強張らせた身体を布団に埋めて、手だけで沖田を追った。
朦朧とする頭に、外の音だけが入ってくる。 異世界のような違和感を持って。 障子紙を通した日差しはうすらぼんやりと部屋を照らし、ますます 現実感が希薄になっていく。 どの位時間が経ったのか、眠るに眠れない夢うつつで居たら、 今度は静かに襖が開けられた。 沖田が盆に1人用の土鍋と大きな水差し、湯飲みを載せて立っている。 そしてもう一方の手には、バケツ。 しかも手の筋の浮かび方からして大量の水が入っている。 土方が怪訝な表情をしたのに気が付いたのか、 「ああ、部屋が乾燥すると喉が辛いじゃねェかと思いやしてね」 と沖田は云った。 山崎手製の雑炊には緑黄色野菜に大根、ネギ、生姜が入って味噌で 味付けがされており、とても『二日酔い』の人間に向けて作られた物 ではなかった。奴は二日酔いの際には出汁をきかせた粥に梅干を潰した ものと鰹節を混ぜる。 土鍋の蓋を開けるなり、不機嫌な表情で 「総悟、てめえ他の奴に云ったか」 と問うと、 「ああ、これはたまたま俺が薬箱から解熱剤を出してるのを 見られちまって、そしたら山崎が何も云わずに作ったもんでさ。奴ァ 本当に監察としてもハウスキーパーとしても有能だぜい」 と事も無げに答えた。
(仕方が無い、山崎は後で自分が痛い目に合うようなことは決して 触れ回らないし、大丈夫だ) 土方は開き直って雑炊に口をつける。 ようやっとの思いで粗方食べ終えると、沖田が湯飲みに注いだ水と薬を 差し出す、無言で受け取ってそれを飲んだ。 それをじっと見た後に「よし」と沖田は云うと、土方の自室の押入れを 開け、何やらごそごそやりだす。 「・・・てめえ何してやがる・・・」 「へ?着替え、出してやりまさあ」 「汗かいてねえ」 「だから、これからかいて、熱下げるんですぜい」 そう云うと先ず掛け布団をもう一枚出し、土方の上に重ねた、 そうして今度はタオルを首に巻く。 「コレ、何だ」 「汗を吸うためと、保温でさ」 枕元に浴衣を一式並べ、満足げにする。 はた、と障子に目を遣ると、雨戸を閉め始めた。 薄く隙間だけで明かりを取った部屋は暗くなり、夕刻の様になった。 「これで良し」 と云うと沖田は土方の脇に寝そべった。 「んで、お前は何だ」 「何って、見舞いですぜィ。変なこと訊かねェでくだせえよ」 もふもふと布団に埋まり、首タオルの風邪ひき状態丸出しで土方が 「さぼる気だろ、んな事云って」と凄む。 「生憎、俺も今日は非番です」と目だけ笑っていないにこり、で沖田が 切り返す。
「・・・うつるかも知れねえんだぞ」 ぼそぼそと呟くと 「あれ?いつも土方さん、俺に莫迦って云うじゃねえですか」 「莫迦野郎、莫迦でも風邪ひくときゃひくんだよ」 云いながら土方は体がぽかぽかしてきたのを感じた。 熱による苦しい朦朧が、眩暈が、柔らかなまどろみになりつつある。 土方の声が小さくなりつつなるのを聞いて、沖田は目を細める。 「アンタ、五月蝿いからもう寝てくだせえ」 そう云うと、少し汗ばんだ土方の額にキスをした。 反応が返ってこないのを見ると、眠ったようだ。 沖田は満足げにもこもこの土方の寝顔を堪能し、(この姿、写真でも 撮っておけば後で脅し放題だな)などと考えながらも、布団に差し入れて 握った土方の手を放さない。
部屋の前で声がすると出て行って、 「今、あんお人に近付くと危ないぜィ」 と殺気のこもった笑みを浮かべた。 見る人が見れば、それはどれだけ満足げなものか。
土方は暗い森の夢を見た。 薄暗いけれど、暖かい森の中、誰かが自分の手をずっとひいている夢。
END
風邪をひいていたのは私です。この話の土方の状態はほぼ私の丸写しです。 HA・TU・NE・TU!ドカン。 まじで日曜日に具合悪くなると焦りますね。電話は通じないし混んでるし、 ホント泣きました。皆様どうぞお気をつけ下さいね。 病み上がりなので、誤字脱字には目を瞑ってやって下さい・・・。
沖田の対処は、風邪の日の過ごし方を人が教えてくれたものを使用。 バケツでは無く、加湿器をお土産に見舞いに来てくれた人が居ました、 感謝感謝。
つーわけで「側に来ると危ない」ネタ第3弾、沖土ラブラブでした。 案外、私の沖土には反響が無いのですが、皆さんあんまり食指が のびませんか?私、好きなんですが・・・。
★レス★ 4日じりじりもやもや・・・のアナタ様! 一番は別って知りながら持て余す関係!その言葉自体たまりません私! いいですよねえ、トキメキますよねえ。うふふ。 良かったです、煮え切らないけど気に成り合う銀土派の方がいらして。 安心しました、うれしかったです。有難うございました!!
5日Y子嬢 ふふ・・・早速書かせてもらいましたよ、陸奥桂。しかも出さねば なるまい幾松さん!ってな訳で、14日(前後)にエリヅラを 考えているのですが、幾松さんというイイオンナの登場に波乱含みの エリヅラです。ありがとうね、感想。ラブ!
BGM:鬼束ちひろ『インソムニア』
|