銀の鎧細工通信
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2005年01月31日(月) さいわひ (陸奥桂)

座った眼つきの時が似ていた。
夜更けの屋根の上で、薄茶の長い髪が少し金灰に光っていた。
ぎくりとする、ただそれだけのこと。



坂本が初めての航海から戻ってきた時に彼女と会った。
もう随分と前のことだ。
「おお、ヅラァ!帰ってきちゅうがよ!」
ぶんぶんと手を振り、大股で歩み寄ってきた坂本の足は、
下駄履きだった。
奴は元来、真冬でも下駄を履く男だった。
それは戦場では到底不可能なこと。
坂本が下駄を履いている事は、心に苦く重い感情を引き起こしたが、
同時に悲しい安堵をもたらし、安堵できる自分にまた安堵し、
俺は奴に「ヅラではない、桂だ」と応えながらクロスカウンターを
かますことが出来たのだった。

忘れることは出来ないし、したくもなかったが過去に縛り付けられてばかり
居ては前に進めもしない。
最早、仲間は散り散りになってそれぞれの道を進んだ、
それが単純な不幸ではなく、新しい可能性なのだと思えることに
俺は安堵できた。鼻血を吹きながら倒れていく坂本の後ろに、
小柄な彼女の姿が初めて見えた。

異形、そう感じた。
銀時の髪も異形の者の其れに違いないが、彼女はその対極の
金灰の髪と、緑と金の混じった瞳をしていた。
柔らかな光りを放つ銀時の其れとは違う、怜悧な光だった。
生き物には違い無いのだが、それが何千年も生きている獰猛な獣の
ようだったことを今も覚えている。
じっとこちらを見据えながら、口は開かない。
「うう・・・相変わらずじゃのう、おんしゃ・・・。
あ、これは陸奥ゆうがじゃ、わしの懐刀ぜよ」
地べたから上半身だけ起こして坂本が云うと、其の陸奥なる女性は
つかつかと歩み寄り、坂本の腹に踵から容赦無い蹴りを入れ、
「これ、じゃと?おまん何様のつもりきにゃ」
と高くも低くも無い、抑揚の無い口調で云うと、ようやく菅笠を
取り、美しい会釈をして
「陸奥じゃ。毛玉が世話ばかけとるちゅうて、噂は聞いとったがじゃ、
おんしが、其の桂殿がか」
と云った。坂本が口血まで流して昏倒しているのを、襟巻きを
掴んで引き摺りながら、
「いったん船ば戻らしてもらうきにゃ、毛玉に用があったら
此処に来たらんしゃい」
とメモ書きの地図をよこした。


旧友との久々の再会は疾風怒濤の流血沙汰と成り果て、
積もる話もあることと、夜に船を訪れた。
初めての航海で、船もまだ余りにちっぽけで、人員も少なかった。
坂本を「裏切り者」と見る者もまだ多かった中でも、船に集った
者たちは奴の展望を信頼していた。
酒が切れたので取りに行く、ついでに厠にも行く、と云って
千鳥足の坂本が出て行き、俺は酔い覚ましに甲板へと出た。
地球では、この船も海に底をつけている。

「あ、陸奥、殿」
ゆらりゆらりと波に乗る甲板では陸奥が一人佇んで空を見ていた。
月に照らされると、燐光を放つかの様だった。
「桂殿、あいつに付きあっちゅうと、胃袋が破れるまで
呑まされるぜよ」
一度も部屋を訪れて居ないにもかかわらず、見通したことを云う。
「ふふ、違いない」
彼女には夜の方が似合った、昼に見る違和感が薄れる。
呑み過ぎていた所為もあったのかも知れない。
「初めての航海じゃったきに、あいつも難渋しちょった。
地球で戦友と再会ばできゆうて余程嬉しいんじゃろ」


彼女が余りにも事も無げに口にした「戦友」という言葉に
瞬間的に顔を上げた。
そうだ、坂本も銀時も闘いを止めた訳ではなかった。
報われない戦地を去ったことは、闘いを放棄した訳ではない。
奴らは奴らなりの道で闘う事を選んだのだ。
闘っているんだ、走っているんだ、今も。


常に気を張っていた。ぎりぎりの処でもう長い間。
去っていった奴らの分まで闘い続けなければならないと思っていた。
死んでいった奴らの分まで最後まで闘わねばならないと思っていた。
自分だけは最期までこの場所で、独りになってでも、と。


自然に涙が一筋流れ落ちた。
見られまいと海の方へ顔を向けたが、彼女には誤魔化しが通用しない。
喉の奥でくつくつと笑いながら(しかし表情はあまり変わらない)、
側に来ると髪を引っ掴んで顔を下に向けられ、その涙を舐め取られた。
「甘いきにゃ」
また笑われる。


女性と性交するのは初めてだった。
陸奥は何度か「甘い甘い」と云っていた。






その後も顔は合わせたが、身体は一度もあわせていない。
お互いそんな気も無い。
ただ、やはり自分の弱さを見られた事もあり、彼女の何もかも見透かす様な
力に気圧されては、いつもぎくりとする。





「幾松殿、醤油と塩ひとつずつ」
「はいよ!」
よく通る、凛とした声が心地よい。
感情が昂ぶると涙が出る性質らしいが、弱音は吐かず、
悲しみだけの涙も決して流さない。それ位だったら笑うのだ。

あのひねくれた腹の真っ黒い真選組の小僧は、
ひねくれている余りか、むしろ関係性が露見しなかったのか、
俺がまた此処にたまに潜伏させてもらいに来ることを、
それを理由に彼女に会いに来ることに気付いていない。

唯一厄介だったのは、たまたま此処で銀時と鉢合わせした時だった。
あいつのあのニタァ、という笑いは見慣れている。
幾松殿とは顔馴染みだったらしく、あいつはニタァの後には
「おうヅラァ、バイト?偉いね〜。そういやこないだお前んトコの
アレ、あの気持ち悪いの見たぜ」
などと云っただけだったので、何も仕込んでいないチャーハンを
押し付け「エリザベスだ。気持ち悪くなど無い、いいんだ、エリザベスは
たまに何処かへ行ってまた戻ってくるんだ」と答えた。
幾松殿が「何だい、エリザベスって」
と云うので、事細かに語り倒したら「是非逢ってみたいもんだね、そりゃ」
と、また明るく美しく笑うのだった。


暖簾を下ろし、「では」と云って店を後にする時に
「ああ、またね」と云う幾松殿に一瞬彼女の影がよぎって掻き消える。
陸奥の影は悠然と笑んで、背中を向けて去って消える。


時も場合も違う、状況も何もかも違う、少しも
似てもいないが、けれど、それは幸いの結節点だった。

さいわひ、すくひ。





END


はーい!レスです!
28日山土!監察らしい有能さを発揮して長期戦の構え…のアナタ様!
嬉しいです、何か山崎ねちっこい?な気もしていたので、「よかったです!」なんて云って頂けちゃって安心しましたよう。
メッセージありがとうございます!これからもよろしくお願いしますvv

同じく28日!山土愛好のアナタ様!全然オーケイでしたか!?
良かったァ〜。もっとへなちょこ君にしたいんですけど、
>ある日突然ここで引いたら男がすたる!とか思っちゃって頑張るんですよ
って私も思っててまして、彼のそういうイイ男な処をつい書いてしまいます。ヒイキです、ヒイキ。笑。実はかなりヒイキしてます私。
ありがとうございました!山土でいいネタ浮かんだら教えてやってくださいませvv

29日!高そよ読んで下さったアナタ様!うれしいです!!!!
有難うございます!高そよ、お好きですか?私もまた書いてみたい二人です。近藤と高杉とそよちゃんという、丸で妄想丸出しな近高そよ、を
考えたりしています。笑ってやってくださいまし。

30日!Y子嬢、貴女のネタから今週のジャンプを絡めての陸奥桂を
産みましたよアタイ。素的な案を有難う!陸奥桂は一夜のメモリーです。
そんでエリヅラ幾です。
どいつもこいつも三つ巴。沖→土→近・銀といい近高そよといい。
実はそういうのが好きです。

30日!土方が可愛いと云って下さったアナタ様!可愛かったでしょうか、
えへへ、嬉しいなあ。やっぱり土方への可愛さフィルターが強いワタクシ
なので、格好いい土方も書ける様になりたいんですけども。
嬉しかったです!有難うございましたvv

でもって1日!!!!ノーマル話をお褒め下さったアナタ様!
すっごく嬉しかったです。私はとにかく銀魂が、そして空知が好きで
好きで仕方が無いので、もう何でも書きたい状態なのですが、
いいんかなあ、コレ・・・誰が楽しいんだ?と不安がちなんです、苦笑。
アナタ様のお言葉で今回もノーマル話を産めました、有難うございました!

皆様暖かく、熱いお言葉を本当に有難うございます!
はくすってイイネ!反応が見えるって嬉しいね!私幸せモンだね!
光栄だね!色々思いながら、今後も書きたいものを書きたい時に、
お届けできたら幸いです。

では陸奥ヅラ、ヅラ一人称でした。狂乱の貴公子って目茶苦茶意味不明で
かなりツボでしたわー・・・。空知ったら、ちゃんと幕末勉強してる
じゃないのさ!でれでれ。彼の史実キャラのアレンジの仕方に、アタイ
ホントにめろめろよ。

BGM:天野月子『シャロンストーンズ』



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