銀の鎧細工通信
目次|前|次
| 2005年01月09日(日) |
天女 (陸奥坂陸奥) |
それは男性器にして女性器。 全てを内包し快楽へ引き摺り込む。 逆巻く轟音。砂煙上げて飛び立て。
地上の詰まらない事に等興味は無い。
「陸奥、おまんまた此処に居ちゅうがか」 「・・・なんぞ用がかや」
陸奥は船の底にある一番大きな窓(主に離着陸の際に目視担当が 使うか、あるいは定刻の巡回時に用いられる物だ)に ぺたりと寄り掛かり、暗い暗い宇宙を眺め続ける。 元々人気の無い所ではあるが、よりにもよって陸奥が ぼんやりと、しかし一心に窓外を眺めている様は、 平時とは違った意味で声がかけ難かった。
如何なる時でも彼女には隙が無い。 攘夷戦争末期に坂本が宇宙へ行くことを決めた際、 いつの間にか彼女の姿が在った。 戦線を共にしていた訳では無いらしく、船員の誰も 彼女の来歴を知らない。 その胆の据わり具合と、並ならぬ統率力、小柄な細腕からは考えられない 戦闘能力の高さ、知識量、全てが只ならぬ出自を語り得るには十分だった。 そんな彼女は独りでよくその大窓に寄り添っているのだった。 船員が皆知りながら、そっとしておく。 構わず擦り寄り、拳骨で左フックを喰らって追い出されるのは 坂本だけだった。
元来無口で物静かな陸奥と、元来饒舌で落ち着きの無い坂本、 この正反対の二人組みはそれぞれが暗黙の内に互いを補い合い、 船員と商い、船旅を取り仕切っていた。 恋仲が噂されることも稀にあるが、大概が「まっさかなァ」と 一笑に付される。 まさか陸奥が坂本を相手にするとは思えない、の「まさか」である。 勿論皆坂本を尊敬し、その人柄と展望に惹かれて集っているのだから、 彼の良さと人徳は評価しているが、何せ陸奥が人間離れしている。
金灰色の細い髪に透ける頬は、一度も日に当たったことの無いかの様に 白く、眼は金がかった緑色。気品に満ちた気高い山猫の様な女だ。 この国で、天人以外で黒や茶色の色素を持たない人間は珍しい。
「用は別に無いがよー」 「ほんなら何処ぞ行け」 あっけらかんと答えながら、陸奥の背後に回りこみ、 陸奥の身体に手をまわす。小柄な彼女は大柄の坂本にすっぽりと 包まれてしまう。 「何をしゆうがか」 素っ気無い声で云いながらも陸奥は外を見たままだ。 白い頬に暗い宇宙の紺色が映る。 「ほがぁに空ばっかり見ちゅうと、気になって仕方ないがぜよ」 愛嬌をこめて坂本が囁いても陸奥は気にも留めない、振り向きもしない。 身体だけ坂本に繋ぎとめられて、心は窓の外の広大な宇宙に拡がっている。 「陸奥」 「何じゃ」 返事だけは直ぐにする。 「拗ねるなち、寂しいがよ」 「何も拗ねちょらんきに、放っとおせ」 珍しく柔和な口調に、坂本は陸奥を見た。 けれど長身の彼から見ても、陸奥の形のよい頭しか見ること出来ない。 仕方が無いので窓硝子に写った陸奥を見てみる、 額を窓につけて、少し俯きがちにじっと外を見ている。 付した目の、金の睫毛が柔らかい影を作っている。 「じゃあ何怒っちゅう」 坂本は背中を丸めて陸奥の頭の上にあごをそっと乗せる。 「わしゃあ腹が減っとるがよ」 陸奥がポツリと呟いた。 「腹ぁ?!」 「人の頭の上で大声出しゆうな」 云うが早いか陸奥が肘を坂本の鳩尾に叩き込む。 「ゥげほっ!」衝撃でサングラスがずれた。 「メシは上に来りゃああるが」 けほ、と咽ながら云っても陸奥は聞いているのかいないのか。 「まっこと人の云うこと聞かんがじゃ、陸奥は」 「おまんに云われとおないきに」
ようやく陸奥が身体の向きを変え、窓に背中をくっつけて坂本の方を見た、 真っ直ぐな髪がさらりと音でも立てそうに動きに合わせて揺れる。 「宇宙は広い、果てまで見せられたらどれだけええじゃろう、 そうおまんが云いよったがじゃ」 あごを上げて、目線だけ下げて坂本を見下して云う。 「おんしゃあ、宇宙を食うがか」 懐かしい話に坂本が表情をほころばせながら応えた。 「・・・足りんがやき・・・」 無表情のまま陸奥は呟く。
「くっ・・・あっはっは!こりゃいかんにゃあ、もっと高く、 もっと遠くまで行かんきにゃ」 「そうじゃろ」 陸奥が嫣然と口角を上げて笑む。
「ここいらには何べんも来ゆう、もう喰うもんが無いがぜよ」 「そうじゃ、そうじゃなあ陸奥、おまんは飢えちゅうな」 意思が伝わったことに満足したのか、陸奥はまた坂本に背を向けて 窓の外を見始めた。
「まあ今回は地球を出たばっかりがやき。遠くまでは行かれんきに 窮屈じゃ思うが、見たこと無いモンもあるがかも知れんぜよ」 坂本の下駄がかろり、と鳴る。 「おんしゃあ、知っちゅうろ?・・・呼んじょる」 ひたり、と陸奥が手のひらを硝子に当てて振り返る。 彼女は呼ばれている。 陸奥の背後の暗い宇宙。 彼女の眼や髪に良く似た金の星が瞬いている。 その奥に、月が大きい。陸奥の髪と同化する。
「喰えるき、慌てるな」 坂本の言葉にふっと笑うと陸奥は音も無く窓辺を立ち去った、 その後姿に「陸奥、好いちゅう」と声をかけると 「ぬかせ」とあっさりと返された。
うちの天女さまは地球の男じゃ満足など出来ないのかも知れない。 硬い髪をわしわし掻き回し、坂本はにいっと笑った。 それぐらいじゃないと面白くない。
END
はい、明けましたおめでとうございます! ようやくの新年一発目は陸奥と坂本です。 大好きな二人です。 あー陸奥出てこないかなー・・・すっごいドリー夢見てるよ。 ある意味高杉よりも凄いです。「陸奥はアッシュ(・リンクス)だ」 とか友達に云い出してますからね。なんじゃそりゃー!笑。
てことでお目出度い感じで天女様な陸奥ではつはるをお祝い。 皆様に幸い多からんこと切に願って。 本年も宜しくお付き合いくださいませ。
BGM:倉橋ヨエコ「モダンガール」 素的な素的なシャバダ歌謡。「シャバダバスキャットやさぐれ女、 イカれたピアノに恋の花」。一押し。
|