銀の鎧細工通信
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| 2004年12月31日(金) |
KMU (エリヅラ大晦日) |
「っつ・・・!」
桂が顔を顰めた。 長い髪の毛先が、ファスナーに噛まれてしまった。 黒い髪が一房ファスナーにぴんと引っ張られている。
エリザベスは時々、その皮(着ぐるみ)だけ脱ぎ捨てて、 何処かへ消える。 そういう時に桂は部屋に残った抜け殻を洗濯するのだ。
その日も午前中に用事を終えて一旦食事を摂りに、借りている長屋 へと戻ったら日のあたる縁側に抜け殻があった。 この長屋は江戸での活動が本腰を入れたものになった際に 借りた物だ。ちょくちょくねぐらは変えるので家具は無い。 簡単な調理器具と食器、寝具などが無造作に置かれている。
ふ、と桂は息をついて縁側の皮を拾い上げて空を見上げた。 よく晴れている。直ぐに洗濯をすれば夕方には乾くかもしれないな、 大晦日だし、きれいな皮で新年を迎えるのも気持ちがいいだろう。 そう考えてから直ぐに共同の井戸にタライと洗濯板を持って表に出た。 自分の昼食は後回しだ。
時々洗い場で謎の着ぐるみを洗濯している桂の事を、 日頃着ぐるみで働いている青年だとご近所は思っている。 こんな美青年が着ぐるみで顔を隠して働いているなんて・・・!と その奥ゆかしさにドキドキしているおば様連中は非常に親切だった。 「あら佐藤さん、今日で仕事納め?大晦日までよく働いて、 偉いわねえ、お疲れ様だこと」 何処へいっても偽名を使う、今は佐藤だ。 桂は曖昧に微笑み、それがまたおば様の「まあホントに照れ屋で おくゆかしいこと・・・!」と乙女心をくすぐるのだった。 「佐藤さんコレ使ったら?柔軟剤いりだから」 別の中年女性が洗剤を手渡してくれると、桂は顔を輝かせ、 「いいのですか?有難うございます」 と溌剌として受け取り、それでせっせと皮を洗濯する。 言葉遣いが丁寧で、長屋にそぐわない気品もおば様方を騒がせた。 「きっと元はお武家さまの子なのよ」 「廃刀で御家は没落、それで一家離散して勤労青年なんだわ」 などと陰ではいわれている事を、勿論桂は知らない。 さながら隣の国の有名俳優である。 「あとでお節持っていってあげるよ」 そう云って肩をぽんと叩かれると、桂ははにかんで 「済みません、皆様にはいつも色々頂くばかりで・・・」 と少し俯いて応えた。 その様におば様方はきゅん・・・と胸を詰まらせる。 「いいのよいいのよ、もう!」 顔を赤らめて皆でまた洗濯の作業に取り掛かった。
エリザベスは長屋の外には姿を出さない。 いつも縁側から表に出る。 なので桂は一人暮らしだと思われているのだ、 一緒に帰宅する時も長屋の手前でエリザベスは道を反れ、 縁側の方から回って家に入る。 外出時も縁側から出て、少し離れたところで桂を待っている。 「エリザベス・・・俺がお尋ね者なばっかりにお前に要らぬ気遣いばかり させてしまって・・・済まないな。お前は本当に優しい・・・」 桂は目を潤ませて、いつもそんなエリザベスを労うのだった。
洗濯を終えて縁側の外にある小さな小さな庭にある物干し竿に 皮を丁寧に掛けた。 皺を一つ一つ伸ばして、ぱんぱんと手でならす。 さて昼飯だ、と踵を返したときに髪が引っ張られたのだ。 桂はそっと背中のファスナーから髪を外した。 こういう時のエリザベスは桂が居ない隙に、若しくは居ても ちょっと目を離した間にいつも通りの姿になって帰ってきている。 なので桂は皮の中身のエリザベスを知らない。 テレビ出演の際に見た姿はショックのあまり記憶に無かった。 「エリザベス・・・」 だらりと干された皮に向かって呼び掛ける。 この切なげな表情を見たら、卒倒するおば様がいること請け合いだった。
味噌汁と炒め物、タクアンで昼食を済ませると、 干物を焼いてちゃぶ台に茶碗とお椀をひっくり返して並べ、 手ぬぐいを上にかけ、さらさらと「帰りが遅くなるかもしれないので これを食べなさい」とエリザベスに書置きする。 はた、と思い起こして書き足す。 「川島さんがお節を持って来てくれるといっていたので、戸口を見て おいてくれ」
「よし、と」 桂は筆ペンに蓋をすると立ち上がり、羽織とマフラーを手にして 出かけた。これから呼び込みのバイトで、それが終わったら会議だ。 「年が明けるまでには家に戻りたいな・・・」 そう思いながらマフラーを巻く。
「ただいま」 がらりと引き戸を開けると簡単な台所とトイレと風呂があり、 そこからもう一つふすまを開けるとエリザベスが明かりの中で ちょこんと座っている。 そして小さな灯油ストーブが部屋を暖めていた。 「エリザベス・・・お前コレ・・・」 と驚いて呟くとエリザベスはこくりと頷いた。 ヒートアイランド現象で、熱気のこもった都心部とはいえやはり冷える、 「・・・っつ」桂は驚きと歓喜で目を潤ませた。 「お前・・・何と優しい・・・」 と漏れるように口にすると、エリザベスはすっくと立ち上がり、 台所へ出て行くと小さな備え付けの冷蔵庫からお節の重箱と、 熨斗の巻紙付きの酒瓶を持ってきた。お屠蘇だ。
桂がはらりと涙をこぼすと、遠くからごおん・・・と余韻を残す 除夜の鐘が聞こえてきた。 はらはらと涙を流しながら「あ、あけましておめでとう、エリザベス」 と深深と頭を下げた。エリザベスも窮屈そうに深深と身をかがめた。
川島さんのお節と、エリザベスの買ってきてくれたお屠蘇をつつき、 暖かい部屋で二人は眠った。 ひとつのセンベイ布団で眠るエリザベスからはお日様の匂いがした。 「明日は帰り道に買ってきた餅でお雑煮を作ってやるからな・・・」 桂はエリザベスをそっと撫でて云うと、目をつむった。
END
あっははははは!!ぶあははははははは!! すいません、すごく楽しいです私!!!! 何だコレ、一杯の掛蕎麦か?!清貧な新婚か?! も、ラッブラブ! 出だしは髪の長い友人がカバンのチャックに髪を挟んだ処から 生まれたMOEエピソードですが、ここで情事の後の銀さんないし坂本の 服にはさまるとかじゃないんですよ、それで書こうかとも思ったんですが、
やっぱりアタシ、エリヅラなの・・・・!!!
桂カップリはこれしか考えられません。 尽くし合い想い合い、相思相愛のエリヅラ。 タイトルは「清く貧しく美しく」の略です。だってぴったりなんですもの。 あー楽しい。うっくっく。 私と上記友人の二人しか楽しくないSSかも知れません、 ヅラブ!な方是非コメント下さい。 銀迦ちゃんのお友達は山崎スキーかヅラブ、と聞いているので。 勿論それ以外の方も。
というわけで桂で今年は締めくくり。皆様良いお年を。愛を込めて。 来年も宜しくお願いいたします。 かなり単純にリクエストにはお応えしますので、せいぜい遊んでやって下さい。
銀鉄火
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