銀の鎧細工通信
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| 2004年12月30日(木) |
茨の覚悟 (土→近) |
自分の考えを自分で信じられなくなったら終わりだ。
覚悟せよ。 心を決めよ。 それでいいのだと。 それが間違ってはいないのだと、 正しくは無くても。 正しくは無くても。
近藤さんが帰ってきた。 記憶を一時失くしていたそうだが、 すっかり元通り、いつものぴかぴかの笑顔で帰ってきた。 「いや〜お妙さんの玉子焼きを食ってから記憶がさっぱり無いんだわ、 幸せすぎて天国行っちまったのかなあ、俺」 ああ、ぴかぴかの笑顔。 「しっかりしてくれよ、あんたがそんなじゃあ示しがつかねェ」 すまんなトシ、と云って破顔した。 多分今俺は苦い顔で笑ったな、と思った途端にいたたまれなくなった。 近藤に背を向けて部屋を後にした、早足で自分の部屋に駆け込む。
「・・・っつ・・・う。っく・・・ふ」 帰ってきた、近藤さんが帰ってきた。 俺のところに戻ってきた。 後ろ手で襖を閉めた途端に一気にこみ上げる。 片手で口をきつく押さえつけても、嗚咽がこぼれた。 ぼろり、と溢れた涙は止まらない。 そのままずるり、と座り込むと背中で襖がガタリと音を立てた。 土方は目を見開いて、自分で自分の口を封じて泣いた、 片方の手で立てた膝の部分を強く強く握り締める。 「はあっ・・・、ふ・・・う・・・く・・・」 手までが震え始め、土方は頭を抱えて唇を噛み締めた。 更にぎゅうと掴んだ膝に力を込める。 もう、戻らないんじゃないか。 そう思うことがしばしばある。 そんな筈が無い。 そうも強く思う。 でも、でも、でももう、戻ってこないんじゃないか。 「・・・ゥあ・・・あぁっ・・・」 自分で自分の考えに恐怖して、更に涙があふれ出た。 どうかしてる、帰ってきただろうが近藤さんは。
でも、今度は? 次は?
「・・・うーーーーーっ」 両手のひらで目を押さえた、まるで迷子の子どものようだ。 不安で不安でしょうがない。 あの人が無茶ばっかりするから?あの人が桁外れのお人好しだから? あの人が優しすぎるから?あの人がいつも先を走っているから? 違う。 あの人の背中を見続けることを選んだのは自分だ。 俺が、近藤さんを、好きだから好きでどうしようもないから、 想っても想っても焦げ付くばかりで、ただ好きだから、 だから俺が不安で不安でしょうがないんだ。 近藤さんが心配なんじゃなくって自分のことが心配なんだ。 あの人が愛されることが心配なんだ。 あの人が愛することが心配なんだ。 俺が、痛いから。苦しいから辛いから悲しいから悔しいから。
「ううっ、・・・・・・ひっく」 泣きじゃくって酸欠になって、頭までがガンガンしてきやがった。 無様すぎる。 ずび、と鼻を啜って「っはーーーーー・・・」一息深くつく。 「・・・はぁ」 目蓋が熱い。 立てた両膝の間に俯いた頬からはまだ涙が伝ってぱたぱたと畳みに 染みをつくる。
最悪だ。
側に居られればそれでいいと決めたんだろう。 側に居れば、いつか、そのうち、自分を見てくれる、 自分を想ってくれる、そんな期待をしていたのか? 肩を並べて闘うことを選んだつもりが、下心では待っているのか? 側で待っていれば、いつも近くに居れば、何とかなるとでも? 側に居さえすればどうにかなるとでも?叶うとでも?
ただ、側に居られさえすればいいって、思って、 それで俺は。決心したつもりが。 もしかしてそれは口実で、ただどうにもならないことを先延ばしにして、 待ってれば何とかなるって、思ってたのか?
また止まった涙がじわりと滲んで来る。 嘘だろう? そんな・・・そんなこと・・・嘘だろ。 「・・・いやだ・・・」 小さく低く呟いたのは、そんな自分が嫌なのか、 それとも結局やっぱり近藤さんが誰かと愛し愛される関係を結ぶのを 見るのが嫌なのか、解らなくて尚のこと鋭く重く突き刺さった。 「わからない」と「いやだ」がぐるぐるして、惨めな気持ちばかりが 鮮明になってくる。 こんな執着など自分ごと消えてしまえばいいのに。 自分の考えを自分で信じられなくなったら終わりだ。
何を信じればいいんだろう? 自分しか無いだろう? なのにそれが信じられないんだ、本当なのか嘘なのか判らないんだ。 どうすればいいんだろう? どうしたらいいのだろう。
虚脱状態でどれくらいの時間が過ぎたのか。 外はもう暗くなっている。 何も答えは出ない、何も確かなものが見つからない。
「土方さーん、飯の時間ですぜィ」 すこし遠くから総悟が声をかけてきた、もうそんな時間か。 近藤さんが戻ってきたんだ、揃って飯、そして会議。 出ないわけにはいかない。 ここにいる以上は。
あああ、もうそれしか確かではない。 ここにいる以上、居続けようと思っている以上、 やらなければならないことがある。 それだけが確かだ。
覚悟せよ。 心を決めよ。 それでいいのだと。 それが間違ってはいないのだと、 正しくは無くても。 正しくは無くても。
確かでは無くても。 自分ひとりの想いがどうであれ、なる様にしかならない。 自分を疑いだしたらきりが無い。
信じるしか、出来ない。 何があっても最終的には大丈夫な自分を。
洗面所に寄って顔を洗う。 横の厠から出てきた総悟が「土方さん」と云って 自分の頬をちょいちょいと指差してきた。 土方は片眉だけを吊り上げてから鏡を見ると、嗚咽を封じるために 押さえつけていた自分の指の跡がうっすら赤く残っていた。
鏡に向って、小さく鼻で笑ってから 「総悟、飯食いに行くぞ」とだけ答えた。
「へいへい、土方さんが干乾びないように俺が茶を淹れてあげまさァ」 土方は返事をしなかった。 薄暗い廊下を、きしりと小さな音を立てて踏み出す。
それしか、出来ない。
END
今度のジャンプで無事に近藤さんが記憶を取り戻して隊に帰るか わかりませんが。 土方(私の中では三十路越え)がわんわん泣いてますが、 恋は人の心を剥き出しにしますから、いいんです。(開き直り) 辛いよなァ・・・好きな男と生活共にして、帰ってこない夜とか、 昨日と同じ服とか、知りたくも無い変化に気付かされたりとか、 耐えられないよなあ・・・。
桂書くとか云ってごめんなさい。 先にこっちが浮かんでしまったので忘れないうちに。 明日は桂で締めさせて頂きます。大晦日。
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