銀の鎧細工通信
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2004年12月24日(金) エラン・ヴィタール (TRIGUN・ウルフウッド)


守るために捨てたんだ、
奪うためじゃない、失くすためじゃない、
ああ自分はどうなったっていい、
命以外はどれだけ奪われても奪っても失くしても
殺しても殺しても殺しても、
傷付いても血反吐はいても、
恨まれても呪われても罵られても唾吐きかけられても、




選ばなければならない。
守れればいい。
それだけのこと、簡単なこと。
辛くなんかない。






「ワイのことは忘れてや」
「ワイのことは忘れてや」
「幸せになり。世の中ロクなもんやないけど、
おんどれらのために何でもするさかい」
「約束守れんでごめんな、リンダは器量よしや、
うまく生きて渡るんやんで」
「あんまりおばちゃん困らせたらアカンで」
「元気に大きゅうなりや」
「強くなって、ガキどものこと頼むで。
・・・強なってもワイと同じ様な目には誰も、もう
誰も合わせんから、安心して強くなりいな」
仕度の日の晩に一人一人のベッドを回って
頭を撫でて呟いた。
「メラニィおばちゃん、ホンマにありがとうな、
いっくら感謝しても足りひんわ。ワイの命で返すさかい、
此処で笑ってて・・・此処だけは安心して居られる
場所で・・・」
闇夜に目だけがぎらぎら輝く。
どんなことでも耐えてやる、
こんなことは繰り返させない、ワイで仕舞いや。
ぎりり、と唇と拳を握る。
「ニコラス、行くぞ」

「さよならや、みんな・・・」

もう二度と会うことはないやろう、会ってもワイやとわからんやろう。
分からん方がええわ。
異形の化け物、同じ空気を吸うことすら許されない、
汚れきったドグサレ殺人マシンにワイはなるんやから。
許されなくていい、
許されなくていい、
許されなくていい、
もう十分だ。十分笑いかけてもろた。包んでもろた。
許してもろたわ、これ以上何を望む?
「借りは返すで、ドタマひとつになってもおんどれらを
脅かす者は噛み殺したる」
守るために捨てるんだ、人間であること。
許されなくていい。
どんな姿になっても、後悔はしない。
誰も自分だと分からなくても、
もう誰も自分には笑いかけてくれなくても、
人間でなくてもいい、守りたいんや。




のたうちまわりながら生き延びて、殺して逃げて、
血と砂煙、爆風に硝煙、呻き声、
出会った赤い悪魔。人間台風。天災並みの脅威。
ああ、ワイには似合いや。

不吉の象徴、それだけが笑いかけてくる。

「ほらウルフウッド、煙草ばっかりじゃなくてドーナツでも
食べてみなって」
へらへらしよって、おんどれに石投げつける奴ばっかりで
笑いかける奴なんぞ滅多に居らん癖に。
それでも守る云うんか、誰も殺さんで。
守る云うんか、ドグサレも人殺しも強盗も強姦魔もジジイも
ばあさんも姉ちゃんも野郎もチビどもも、皆全部。
さすが天災は規模がケタ違いなんやな、ワイには理解できひん。
死なん化け物とは違うからな。

死ななくても、痛いのに違いは無い。
死ななくても、痛いものは痛い。

理解したらワイは終わりや。感化されたらワイは終わりや。
死んだらあかんねや。何が何でも死ぬ訳にはいかんのや。


明け方に悪夢で眼が覚める。
洗面台に吐き戻す、顔を上げて目に入る鏡の中の自分。
「はっ、老けたもんやでホンマ。・・・ワイは本当は幾つなんやろな」
正視できない自分の姿、見ないで済むようにサングラスをかけた。

戻れない、眩しい光の庭。たくさんの光。あふれる。
救いようのない世界で、救いなんてそこにも無いけど、
それでも誰も何も捨てなかった、全部受け入れた。
家族なんだ。
会わす顔なんてとうに失くしてしまった。
今自分がその中に入ったら、目が潰れるか、体が灰にでもなるか、
さもなくば「天罰ちゅうもんでも落ちるんかな」
ベッドサイドで自嘲気味に呟けば

「落ちないよ、ウルフウッド」

「タヌキ寝入りとはええ趣味しとるわ」
「じゃあ洗面所で君の背中でも擦ってあげれば良かった?」
ベッドにもぐっているトンガリは真顔だった。
「じゃかしいわ」
「サングラス、取りなよ」
「ほっとけ」
「いいから」
「寝ろや」
トンガリはもそもそと起き上がって手を伸ばしてきた。
傷だらけの歪んだ身体。いびつな腕。
サングラスを取られて、蔓をきちんと畳まれて
サイドテーブルにそっと置かれた。

「見てて、痛いから
・・・・・・もう少し賢く立ち回ってよ」

語尾は消えそうに小さなか細い声だった。
シャワーの後の髪ごと項垂れている。
「おんどれだけにゃ云われたないで、ホンマに」
「じゃあ眼は開けててよ、見ない振りするの止めてよ」
「それもおんどれよりは現実見とるがな」
「わからずや」
「アホガキ」
「あ、ウルフウッド、外。ほら月」
青白い満月が真っ黒の穴の開いたままで、
落ちてきそうになりながら闇夜にしがみついている。
ヴァッシュは立ち上がってベッドに腰掛けるウルフウッドを抱きしめた。
「おんどれのごっつい身体の方がよっぽど痛いわい」
こめかみにビスが当たる、頬に鉄板が当たる、
こいつは人間と違うけれど、生きている。痛みにのたうちながら。
「そうかな、お互い様だよ。僕ら」
「一緒にすんな」
「ふふ」
「気持ち悪い奴やな」
「ねえ、ウルフウッド」
「なんや」

「どんな姿でも構わないから、生きていてよ」

顔を上げたら金髪が頬にさらりと落ちた。
その中で碧青の眼がじっとワイを見とった。
「死ぬわけにいかへんのや云うとるやろ」
「うん。だからさ、死なないでね。
その姿で、呼吸をすることを続けて。君が何でも構わないから」
抱きしめている身体が震えている。
本当に本当に底抜けにバカだ。



もう向き合えない、美しくなんてあれる筈も無いし、
優しくしてやる手だって血まみれ、声は煙草と酒と叫びでひび割れてる、
地獄みたいな目ェして、徘徊するケダモノと同じかそれ以下。
許されなくていい、そう思って選んだんや。

ワイが何でも構わない?
おんどれは人殺しのワイを憎んどるやないか。
ああ、それでもいつも血ィ流れる勢いで怒るだけで、ワイのことを
突き放しはせんかったな。
逃げたんはいつもワイや。いつも先に逃げたんは。







「ワイのことは忘れてや」

守るために捨てたんだ。
守るために捨てるんだ。
いくらでも。
ベッドで眠りこけているヴァッシュに口の中だけで呟いて、
髪を撫でて、ウルフウッドは服を着て出て行った。


「ムジナの喰らいあい、つきあう事はあらへん」

「・・・お別れや  トンガリ」










END


エラン・ヴィタールとはフランスのアンリ・ベルクソンの哲学用語です。
エランは跳躍、ヴィタールは生命、んで「生の躍動」。仏語。
銀迦ちゃんも日記で書いてて、私が大分前に沖土で使った
「ヴィタール」という塚本晋也の映画の元々のタイトルです。

クリスマスイブ、「生の躍動」、・・・27日に10巻11巻同時発売を
記念して8巻ラストの前のウルフウッド。
好き過ぎて書けなかった彼、初書きです。
ヴァッシュ×ウルフウッドですけどね。
ていうかTRIGUN読んでる人が此処読んでくれてる人の中に
どれだけいるんだろう・・・。おすすめですよ。


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