銀の鎧細工通信
目次|前|次
| 2004年12月12日(日) |
タリヨンの原理/存在の耐えられない軽さ (高そよ) |
生きてきた場所が違う、見てきたものが違う、 感じたことが違う、してきたことが違う、 何もかもが違う。 生きていることにすら違いがある。
落魄、という言葉が高杉の頭をよぎった。 自分は落ちぶれた。この娘は落ちぶれるものならそうしたい。 虚しい。
胸のうちで燃える憎悪も踏み躙られて灰屑となる。 この娘が産まれた時に、どれだけ、どういう人間が死んでいったのか、 なんて、知る由もないことなのだ。 誇り、そう胸に輝いていた誇りもこいつらに踏み躙られて、 命も体も魂も全部ゴミ屑になった。誇りごと全部。 守ろうとしたものに突き放されることの無惨さ。 だから俺は復讐しようと思った。 持ってたもの全部失ったから、失わせようと思った。 殺されたから、殺そうと思った。 憎まれたから、憎もうと思った。 嘲笑われたから、嘲笑ってやろうと思った。 すごく悲しかったから、すごく悲しませてやりたかった。
「何にも帰ってこねーよ」 いつか俺に銀時が云った。
・・・それは知ってる。
夜が明け始めた、薄ら青い中にふたり立ち尽くす。 稜線の上に雲が立ちこめ、細い日の光が指し始める、 空気までが青く染まったような中で、薄紫の空を背負って、 二人は立ち尽くす。
「・・・お名前は、何と仰るんですか」 「・・・高杉晋助」
呆けている高杉は酷く傷付いた表情で、包帯と髪で隠された 片目からは血と涙が流れ続けているように見えた。
知らないで済ませられたら、誰かがこんな風に血を流し、 泣くことなどない。
そよは自分の胸までもが激しく痛むのを感じた。 私が知らない知らない、何も知らないと喚いている間に、 今もこんなに、こんなにも傷付いている人間が居る。 他所の国の昔話で読んだ。 王は、自らが父親を殺し母親と性交したことを知って、 目を刺して、盲目となって国を去った。 私はそれでも、まだ何も知らないと思う。 この人はほんの一人に過ぎない、他にも、どれほど血と涙に溺れる 人間が居るだろうか、・・・想像もつかない。 本当に私は、あさましいだけで、私というものを知らない。 立場だけが一人歩きし、それだけが何よりも優先された。
「高杉さん、私を行かせてください。 私には自分の立場の責任を取る資格すら在りません」
声が震えていた。まだ15の小娘に、それを認めることは 自分の存在の可能性よりも、閉ざされた可能性のほうが 大きいということを告白することだ。 高杉はゆっくりと顔を上げた。 生きている意味も死ぬ意味もないと告白することだ。
決して交わらない線の上で、それぞれが存在の凶暴な軽さに苛まれている。
ひょっとすると殺すよりも残酷な枷をこの小娘に科したかも知れない。 自分自身の無意味さという枷。 自分自身に何もないという枷。 俺に科せられ、そして生きろと命じる枷。
「お前・・・悲しいか?」
何が、とは高杉は云わなかった。
「はい」
「それでも、俺はお前たちを許さない。死んでも許さない」 もうそよに何を云っても自分に跳ね返ってくることは高杉には 分かっていた。何もかもが違うのに、それだけが違う意味の上で 自分に跳ね返って、血を流させる。
それでも、俺は俺を許さない。死んでも許さない。
「行けよ、俺の前に二度と姿を見せんな」
「はい。 ・・・でも私忘れません、高杉さんに突き付けられた刃のことを。 私には殺される価値もないということを知らせた、刃のこと」
「うるせェ、さっさと何処へでも行け」
すれ違い様、そよは云った。 「ありがとうございます、高杉さん」 小さな声だった。
目には目を、歯に歯を。 悲しみには悲しみを、枷には枷を。 痛い。存在の耐えられない軽さが。
同じことを思っても、二人は決して相容れない。
END
カフカの次はクンデラです!しかもオイディプスです! 我ながら阿呆です、分不相応にもほどがあるよ・・・。
えーこの後そよちゃんは神楽ちゃんと会います。 そういう小細工だけはオタクの真髄(妄想)として描いていますよ、 描いていますとも! は〜・・・高杉とそよちゃん、本当に噛み合いません。全く。 そこが何よりも妄想をかきたてる。 これが高そよなのかと追求されたら・・・取り敢えず泣いてみます。
誰か感想・・・頂戴・・・。
|