銀の鎧細工通信
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2004年12月05日(日) そこにあった(銀さん回顧)


昔、そこにあった。
いつもそこにあった。
手を伸ばせば届く距離に。



今は、もう、無い。
過ぎ去ったもの、戻らない時間、愛しくて愛しくて、
それでも、それでも、ああ自分は。
先に進まねばならないのだ。
もう、戻らないから。時間も人も何もかも。
先に進む以外に、何が出来るだろう。
終わったんだ、帰ってこないんだ、
終わったんだ、失くしたんだ。
終わったんだ、終わったんだ、終わったんだ、
仕方ないんだ。

当たり前の様に触れていたものが目の前から無くなる。
居なくなる。
当たり前の様に触れていたものに触れられなくなる。
伸ばした手の先に何も無い、誰も居ない。
もういない。



真夜中に眼が覚める。
静まり返った部屋、そこに独り。
驚いた後、そうだったと気が付く。
自分が捨ててきたのだと。
してきたことの無価値さ、残されることの悲しさ。
もう捨てるしかなかった。
でなければ生き続けられなかった。
あまりにも悲しくて。
あまりにも苦しくて。
あまりにも重くて。ただただ重くて。
そのことが更に悲しくて。
意味があると思っていた、価値があると思っていた、
譲れないと思っていた、でも、でも、手放せるものだった。
あんなにも必死でしがみついていたのに。
悲しい。
それでも自分は生きていける。
しがみついていたことは嘘じゃない、かけがえが無かった。
代わりなんて無かった。
けれど、失くしてしまった。
けれど、生きていくしかなかった。
失くしても生き続けていくしかなかった。


嗚呼、嗚呼、恋しい。
今はただ恋しい。
恋しいんだ。
恋しいんだ。
恋しいんだ。
恋しいんだ。
恋しいんだ。
死んだ者、逃げた者、去った者、帰らない者、
信じて走ってきた日々。

当たり前の様に触れられていたのに、
もう触れられないんだ。
もう、触れることが出来ないんだ。


笑顔、温かさ、力強さ、安心、希望、勇気、励まし、心のよりどころ、
涙、怒り、苛立ち、不安、腹立たしさ、優しさ、悲しさ、虚しさ、
意味、無意味。
不条理。



別のものに触れられるだろう、人でも物でも思想でも。
自分は、生きているから。
まだ生きているから。



でもそれが、本当に幸せなのか分からない。
不幸せでも、苦しくても、破滅しかなくても、滅びるしかなくても、
それでも、
それでも、
それでも、
俺はそれを信じていた。
すがっていた。
しがみついていた。
それが良いことなのか悪いことなのかなんて分からなかったし、
問題じゃなかった。
でも、やっぱり悪いことだったのだと、失ったことが叫ぶ。


手放せば何て容易い。
あまりにもあっさりと。
容易いことだった、信じていたのに。



恋しい。悲しい。



そこにあった。
昔そこにあった。
いつもそこにあった。
俺たちはそこに生きていた。
生きていたんだ、間違いなく。
間違いであっても、生きていたんだ。


昔。
もう昔。
今は、違う。




真夜中に眼が覚めて、
また眠る。







END


高杉にばかり過去を振り返らせているので、銀さんにも
振り返ってもらいました。
かなり自分を投影していますけど。
戦線離脱の直後を想定。
お荷物と出会うのはまだ、先の話。


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