銀の鎧細工通信
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2004年11月26日(金) 雪龍(高杉)


吐く息が白い。
けれど今まで身を置いていた京の街よりも、寒さが柔らかい。
もうあの街では深々と冷え切った空気が大気を侵している筈だ。


ああ、でも自分はこの場所で闘っていたんだ。
昔の話。











「高杉、大丈夫か」

白い息とともに銀の髪が薄く光る。
「ああ、大したことねえ。かすっただけだ」
身を起こそうとした高杉にきつい制止の声が飛ぶ。
「莫迦野郎!肺をやられるところだったんだぞ!!
坂本が医者を連れてくるまで動くな!」
桂が大声を出した。
冷静沈着ぶっている人間ほど、精神状態が荒んでくると
それが露骨に表に出る。
苛付を隠せないようにあばら家の戸口で刀を構えている。

銀時が軽く肩をすくめて「だとよ。まあ寝てろや、血ィ足りてねえだろ」
と高杉の顔の前で両手をかざした。


高杉の小さな舌打ちが、火の気の無いあばら家の温度を更に低くする。


状況は最悪だった。仲間内では死人が後を絶たず、
絶望と疲弊から戦線を離れる者も少なくなかった。
前にも後ろにも戻れない、口にこそ出さないが皆そう感じていた。
高杉は首をめぐらして窓の外の空を見た。
重い雲が雪を運んできそうな、冬空だった。
重くて重くて、暗くて、押し潰されそうな空の色。

3人とも口を開かない。
今、何が云えるのか。誰もそれを知らない。





「高杉ィ!生きちょるかー!」
坂本が息を切らして駆け込んできた。
後ろにいる馴染みの医者の顔を見て、桂の表情が緩んだのが分かった。

「おお、真っ青な顔して。こりゃいかんぜよ」
そういう坂本こそ蒼白で、高杉の顔に触れた手は氷のように
冷え切っていた。
坂本は、じき戦場を、否地球を離れて別の方法を取る、と云っていた。
桂はまた追い詰まった表情で外を見張っている、
刀を握り締めすぎた指先が白い。横顔が、白い。
銀時は傷口の処置を施されている高杉の胸の傷を暗い瞳で見ている。
戦場で銀髪を血で染めるごとに銀時の眼は暗くなってゆく。

溜息をついたら、

それで崩れてしまいそうだった。
何もかもが。


だから高杉はまた空を見上げた。
失血のせいか霞んだ視界に、真っ白な龍が天を横切っていくのが見えた。
白い刃のような鋭い鱗を光らせて、太い胴をくねらせ、
カギ爪を開いて、白い龍が真っ白な線となって駆けて行った。
西の方だ。
西の方だ。


「お、雪だ。道理で冷えるな」
銀時がぽつりと誰とも無しに云った。
「・・・もう・・・冬だな」
桂がそれに答えた。




高杉は鬼兵隊が壊滅した後西へ行った。京へ。







夜の河原で煙管を吹かしていると、かつて見た龍のような白い筋が
目の前を流れて消えていく。

「小せえな」

ぽつりと呟いても川音に消えるだけ。
この河原に仲間の晒し首が並んだ時にも呟きはざわめきに消えた。
叫びは喉を刺しただけで口には出なかった。



あの時、あの崩壊間際の戦場で血を流していた自分の眼に映った、
白い残酷な龍は冬を背負い雪を従えるものだったのだろうか。

それとも潰れる願いを連れ去る夢の龍だったのか。
絶望の夢龍。強く白く圧倒的な。





高杉は空を見上げた。
もう、何も見えない。







END

高杉を書くとどうしても回顧的になります。
彼が過去から離れられないから。
また出てきてくれないと、妄想ばかりが膨らんでしまうヨ!




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