銀の鎧細工通信
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2004年11月18日(木) 鮫(沖土)

グロテスクな本音を縫い合わせたあなたの傷痕、を敢えてなぞる。
何でも無い振りをしている表情の裏にあるあなたの攻撃性の正体は。

ああ、ああ、あなたを頭から噛み砕ければぶちまけられるものなのか。
そうすれば



「楽になるでしょう、土方さん」

ぺろりと手についた精液を舐め取り、沖田は顔をあげた。
「莫迦云え、トチ狂いやがって。どういうつもりだ」
土方は上気した頬と荒い息で、それでも虚勢を張り続ける。
「鬱屈した顔されてちゃ迷惑なんでさ」
「俺がどんな顔してようとてめーには関係ない、さっさと退け総悟」
土方は自分の足の間にかがんでいる沖田の肩を押した。
「へェ、無かったことにするんですかい」
「忘れてやる、って云ってんだ」
ぎろりと睨みつける土方の眼にはどこか苦いものがちらつく。

沖田はそれを見るのが楽しくて仕方が無い。
土方がサディスティック星からやってきた皇子だとか云うのも
道理かもしれない。こんな嗜虐性。
幼稚だとも云えるのかも知れない、攻撃によって、傷付けることによって、
自分を忘れないようにと振り回すのだ。



何の意味も無い。
相手は離れていくばかりなのに。



「でも、もうやっちまったモンはしょうがねえ、ねえ土方さん?」
言い訳のように土方に問いかけた。
彼は眉を寄せて顔を背けた。



この人は、人の言葉を決して無視しない。
こんな時でさえ。
無理に押し倒して欲情を暴力的に煽った。
押し問答は覚えてもいない。
この人は、他人のことを無視しない、できないのだ。
飲み下した土方の精液が喉の奥で熱いような気がした。


いちいち俺に影響されれば好い。
いちいち俺に振り回されれば好い。
せいぜい俺のことを考えろ。
せいぜい俺のことを想え。
止められないのだ、この愚かな我侭を。
ならばいっそ傷付けてやろう、他人を無視できないあなたを。

違う、違う。
本当はこの人の眼にちらちらする苦いものが気にかかるのだ。
自分にはどうすることもできない苦いものが。
この人も報われないと分かっている苦いものが。
気になってどうにもならないのだこの人のことが。


そう云えば「総悟は昔いつも気になる娘をいじめていた」
と未だに近藤さんに酒の席で云われることがある。
一歩も進んでいないのか、自分は。


沖田は呆然と土方から離れた。


「総悟・・・?」

無視してさっさと何処かへ行けばいいものを。


だから俺はあなたに絡めとられたまま動けない。
あなたと同じように何処にも行けない。
ここから離れられない。
ただ攻撃し、喰らい、回遊し続けている同じところを。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
それでも傍にいることに何か意味があるのだろうか。
いつか土方という網を喰い破って離れられるのだろうか、でも何処へ?


沖田は静まり返った屯所の一室を無言で、土方を見返りもしないで
出て行った。音も無く、ひっそりと。
苦い。


云えないということは、どんなにか苦い。
云えないまま傍に居るという事は、本当に苦い。

傷付けたいのは本当で本当ではない。
でも他に表現のし様がない。


グロテスクな本音を縫い合わせた傷痕、を敢えてなぞっている、自分の。
何でも無い振りをしている表情の裏にある俺の攻撃性の正体は。
想っているということなのか。
幼稚だということなのか。
振り切れない網、忘れられないこと。


ああ、ああ、俺を頭から噛み砕けばぶちまけられるものなのか。
そうすれば






END

タイトルは天野月子の「鮫」から。
沖田が10代だったショック記念SS。
青臭いのはどちらもどちら。
時間の流れに身を任す。



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