銀の鎧細工通信
目次


2004年11月02日(火) 奏で(銀土)


歌を奏でよう
声を奏でよう
音を奏でよう
あの人に届くまで
あの人に聞こえるまで
あの人が気付くまで



もうあの人がこの世にいなくとも
もうあの人にこの世で届かなくても




かさりと紙のパッケージから一本の煙草を抜き取り、
銀時は火をつけた。
土方は横目でそれをちらりと見たが何も云わない。


割った鬼の面は、彼の本当の顔であり、もう捨てた顔であり、
それでもやはり彼の顔のひとつだった。
子どもたちが何であれ慕った顔も彼の顔のひとつだった。
仮面なんて皆いくらでも持っている。
そうやって生きている。
偽者でもなく本物でもなくひとつひとつの顔が自分を作る。
それの何が嘘だと、一体誰が咎められる?
今時分の横で横たわるこの男も、仮面をかぶって生きている。
立場、想い、ああ何て非常に少ない仮面だ。
こういう正直な人間は珍しい。銀時は土方のそういうところを好ましく
思い、同時に嫌気もさしている。
ばかめ
口に出さずつぶやく。
土方は銀時と二人で過ごす時は無口だ。
今日は尚更だった。
同情でも慰めでもなくただ喋らない。
銀時は救われたようで、もどかしくもあった。
何か云えよ
また口内で呟いた。本当は言葉なんて欲しくなかった。
自分はこの男になにを求めているのだろう。
何も
自分の足りないものをこの男は持っている?
自分の無くしたものをこの男は持っている?
ばかだ
音にならない呟きは誰に向けてのものなのか、
銀時自身明らかには判別できない。
ただ人が死ぬのはやりきれない。
もういい、十分だ、もう死ぬな。もう殺すな。もう殺されるな。
死なないでくれ。
銀時は立ち上る煙草の煙を目で追いながら祈るように、
悔やむように、思いをめぐらせた。
忘れない、許さない、曲げない。
そして自分が護れるものの少なさよ。


自分のみを全て貫く一本の芯、折れてはならない其れ。
莫迦げているなどと云う資格なんてなかった。
土方自身、そういう芯を支えに生きている。
浮かんでは消える人の顔。ああ。ああ。
いくらでも仮面をかぶろう、あの人のために。
横で人の煙草をふかす男は押し黙っている。
ばかめ
声にしない呟き。
無駄に首を突っ込んで人をも巻き込んで。
そこで組織を動かしてしまう自分も愚かだ。
総悟、うらむぜ
弔い合戦なんて辛気臭い喧嘩は嫌いだ。
帰らないのに、何も。
残された者の自己満足なのに。
この男も分かっているはずだ。
この男はそれでも優しいのだ。優しすぎるのだ。
失うことなどよく分かっている、そんな仮面をかぶりながら
何にも期待しないで、それでも自分以外の人間が傷付くことを恐れて。
ばかめ
ばかめ
ばかめ
けれど呟きは声にならなかった。
土方は溜息をついてごろりと寝返りを打って仰向けになった。
布団の上で掛け布団無しで過ごすには、もう寒い季節になった。
理由なんて後からいくらでもつけられる。
近藤さん、すまねェ
目を閉じて思った。
彼は自分を責めないだろう。だからこそ詫びた。
真選組は目をつけられただろう。
ばかだ
土方は目を閉じた。
自分は薄汚い。それでも護ろう、何があっても譲れないものを。


「多串くん」
ささやいて土方の顔を覗き込んだ銀時の表情は軋んでいた。

情事の時も仮面はかぶったままだ、お互い。
さらしてどうなる、素顔なんて。
意味が無い。

覆いかぶさってきた銀時の背中に手を回し、
土方は天井を睨みつけた。
銀時の体温が心地よかった。
目を細める。


生きている。
生きている。
生きていて。
生きていて。
生きていて。



締め切った窓の外では子どもたちの歌声が聞こえてくる。


歌を奏でよう
声を奏でよう
音を奏でよう
あの人に届くまで
あの人に聞こえるまで
あの人が気付くまで



もうあの人がこの世にいなくとも
もうあの人にこの世で届かなくても
もうこれが鎮魂歌でも






END




人が死ぬのは嫌いです。


















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