銀の鎧細工通信
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2004年10月07日(木) 白の深いの黒の淡いの(沖土+真選組)

「総悟!総悟ォ!」

よく磨かれた隊舎内の廊下をどかどかと荒く歩いているのは
土方が不機嫌な証拠だ。
三角巾に後ろで少し長めの髪をひとつにくくった山崎が
雑巾がけをしながらその土方と眼を合わさない様にしていると、
がしい、と首根っこを掴まれる。
「おい山崎、総悟の奴知らねえか」
土方とてむやみやたらと八つ当たりをし、隊士に暴力を振るうほど
頭の疎かな人間ではない。

しかし、怖いものは、怖い。

そろそろと振り返り、覗き込まれた眼は瞳孔が開いて怒気に満ちている。

「た、隊長ですか?今日は見てないです・・・」
「そうか」
ぱ、と後ろ襟首を離され山崎は寿命が7時間ほど縮まった気になる。
元々緊張感のある引き締まった顔だが、その分それが緩むと
えもいわれぬ愛嬌があるのに・・・と思った矢先に土方の表情が緩む。

「近藤さん!総悟見なかったか!」

庭先で隊士に竹刀で稽古を付けてやっている近藤に呼びかける、
その土方の表情には素直な感情が表に出ている。
「おーうトシ、総悟かァ〜見てねえなあ。何だ巡察か?」
「そうなんだよ、アイツまた雲隠れしやがった」
そういう土方の苦々しい表情も近藤の前では活き活きとしているのだ。
高く澄んだ秋の空が近藤の笑顔の向こうでひたすらに、青い。
「ははは!仕方のねェ奴だ!」
「あんたがそんな風に甘いから、あの野郎好き放題しやがるんだ」

ぱっと見は無愛想な事に変わりは無い土方の表情、山崎はそこに生じる
小さな変化に見入っていた。今度はすねる子供のようだ。
ふ、と自分の頬が緩むのを感じた、すると背後から冷気が身を掠める。

「何ですかい、ガタガタうるせェお人ですねい土方さんは」

人を小ばかにしたやや高めの声、けれどその気配は全く感じさせない。
この人はこの人で全く読めないな・・・山崎は雑巾がけを続けた。
今日は非番で、何と云っても天気がよくて、掃除洗濯布団干し日和なのだ。

「総悟!てめー今日は巡察担当だろうが!」
「アンタは今宿題やろうとしてた子供に”宿題早くやりなさいよ!”って
怒鳴りつけてやる気をそぐ教育ママですかィ」
「てめーなァ!そのなめたアイマスクのっけて巡察行く処だったなんざ
ほざくなよ!!」
「いーじゃねえかトシ。何もそんな急ぐこたねえんだ」
「・・・ちっ」
土方は煙草を取り出して火を点ける。
「はーあ・・・土方さんは全く単純で困りまさァ」
「んだと、どういう意味だ」
「さっさと行きやしょうぜ」
いつの間にかアイマスクを外し(おそらくポケットにいつも仕舞われて
いるのだ)刀を差して腕組みしている。準備万端だと云わんばかりの
仕草の沖田に今真意を問いただしても仕方が無い。


「いーい天気ですねィ、昼寝日和だ」
「まだ寝るのかてめーは・・・」
きらきらと日差しを浴びて輝く河原の芝に沖田の目が奪われている。
「土方さんには趣味が無いから分からないんでしょーよ」
「趣味は惰眠です、よかマシだ」
「趣味という趣味も無くやることは喫煙だけです、なんて公害人間に
云われたかないですぜ」
「てめっ・・・!全国の愛煙家に詫びろ!」
沖田のスカーフを引っつかんで怒鳴ると足元を払われて河原に
沖田諸共転がり落ちた。
「あ・・・いって・・・何なんだ突然てめーは」
土方が身を起こす間もなく、沖田がその眼を手で覆って隠す。
芝が首筋にちくちくと当たっている。
「何だ、総悟・・・」
「何が見えやすか」
土方の言葉を遮って問うた。
「あ?何も見えねーよ」

「いや、ちゃんと見てくだせェ、絶対見えるから」

「・・・・・・」

「見えやしたか」

「淡くぼやーっと黒くって・・・総悟の指の端が中の血で赤い」


ぱっ、と素早く手が離される、飛び込んできた光に土方が眼を眇めた。


「今度は、何が見えやしたかィ」


「見えるも何も真っ白だぜ・・・眼が眩んでやがる」



「黒ってのァ案外淡いもんで、白い色のが深くて深くて、
 言葉を奪うんですぜ。知らなかったでしょう、土方さん」



「知らねーな、これはお前の趣味で発見したことか?」

沖田には特に表情の変化が無い、奇矯な言動も珍しくは無い、
土方はしばしばする眼で煙草に火を点けた、深く吸い込む。





「いや。黒が淡けりゃ案外見える、白が深いと何も見えない。
土方さん、アンタを見てて発見したんでさァ」



丁度吐き出した煙で、沖田の表情は、土方には見えなかった。

「白が深いと、何も見えない・・・まさに今のてめーだな・・・」
思わず口にした土方に、沖田は噴出して答えた。




「白くしてるのは、誰ですかィ」






END


抽象的なんですけど。
土方の表情は暗くっても淡くっても見える。
でも沖田の表情や変化は、たぶん真っ白で深くって何も見えない。
それは沖田がピュア★っ子とか云う意味でなくて、色が無いのは
孤独なことと思いました。

沖田にしてみれば土方は黒く見せてるけど淡いので、見えるわけですよ、
近藤が大好きなことや銀時が気になることや真選組バカなことが。
そこでその土方に「白が深いので見えない」って云われちゃったら、
沖田としてはもう笑うしかない。別に彼自身は自分が白いとか深いとかは
思ってないと思いますが。
沖田には色が無い。執着や情念が見えない、私のそういう思いのSSです。


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