銀の鎧細工通信
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2004年09月28日(火) 断崖3(銀土)



自分が半身乗りかかっている体は見た目よりがっしりしている。
熱くなった体にその銀髪の男のぬるい体温は心地よかった。
他人の体が心地よいことなんて滅多とない、これは酔いのせいだ。
嘘だ、酔っていれば尚の事過敏になった神経は他人を受け入れない。
自分が身内と認めたごく一部の人間以外は。

土方は銀時にのしかかったまま半眼でぼんやりとしている。

いつからだ俺はこんなにも理由や言い訳や肩書きがないと立っても
いられなくなったのは。
あの人が、自分の握る剣の重さが、存在理由。
俺を俺として成立させるものは今や組織と副長の肩書きと、
彼の傍に居ること、彼を護る事、剣の重み、血だまり、人殺し、
「多串くん、重いから人の上で寝んなよ」
銀時の不機嫌な声で我にかえった。
「寝てねー・・・」
しんと静まり返った部屋の中で二人の声だけが響く、
外では虫の声がした。
身じろぎもせず土方は銀時の上に乗っている、心臓の鼓動がわずかに
伝わって、自分のそれと重なった。気持ちが悪い。
土方を苛々させる銀時という男の存在の在りようなど訊いた処で
何にもならない、所詮自分には関係のない他人の生き様なのだ。
それが分かっていながらなぜこんなにも目障りなのだろう。

無関係の他人。他人。どう関係すればいいのか何てことも自分は知らない。
「なあ銀髪、斬り合いでもするか」
「はあ!?何をトチ狂ってるんですか多串くん、あんたホントに好きねェ」

銀時が大声を出したので胸が上下し、振動が伝わってきた。
今度はそれが可笑しくって土方はくつくつと喉の奥で笑った。

こんな風に人に触れるのはどれくらいぶりだろう、給料日に隊士が
女を買いに行くのに誘われることもあるが、金を払ってまで知らない女と
体を触れ合わすのなどは億劫で気色が悪い、ので土方は行かない。

近藤さんがばしばしと肩や背中を叩くことはある、あの笑い顔で
「トシはごちゃごちゃ考えすぎなんだ!大丈夫だ!!」と俺に云うんだ。
何が大丈夫なものか、何も大丈夫でなんかない。
総悟とは触れ合うというかド付き合っている、そしてたまに俺が
机に向かって仕事をしているといきなり背中にのしかかって
居眠りしたりする。
そして「土方さんはアレコレ考え過ぎなんでさァ、ハゲのもとですぜ」
と云うんだ。どいつもこいつも単純にできてやがる。

「だァ〜から多串くん寝るなら布団で寝やがれっつうの」
「うるせえ、大人しく枕にでもされてろよてめーなんか」
「何ソレ、多串くん実は寂しがり?!キモッ、瞳孔開いちゃってるのに!」
「何だとォ!?上等だコラァ!」
がばりと跳ね起きて、剣に手を伸ばした、それよりも早く銀時の足が
その剣を部屋の隅へと蹴飛ばした。
「お前ねえ、二言目には斬る斬るって、人の命なんだと思ってんの、
むやみに人殺ししちゃいけませんて小さい頃習わなかったの?」
「習わねーよ。人殺しになんざたまたまなっただけだ」

「ふーん・・・人殺しって自分のこと思ってるんだ」

銀時の声がやや真剣みを帯びたように聞こえたので土方は湯飲みに
酒を注ぎながらその顔を見上げる、死んだ魚のように目は暗いままだった。
酒瓶の横にそっと置かれた彼岸花を手に取り、くるくると回しながら
銀時は土方から目を逸らし

「俺はお前より殺してるよ、いっぱい」
と云った。

湯飲みに口をつけたまま土方は眼だけ上げて、銀時の顔をうかがった。
銀髪が行灯に照らされて橙を帯びている、手には鮮紅の花。
群生をなしてひっそりと人知れず血の沼のように咲くあの花。

「なァ銀髪、お前は何か持ってたか?その頃」
「ダチはねーたくさん居たよ、大体死んじゃったけどな」


「じゃあその場所はてめーを受け入れてくれたのか?」
「受け入れるとか入れねーとかじゃなくて、大事な場所だったねェ」

逆行で表情が良く見えないが銀時は無表情だった、ように土方には見えた。
俯きがちに語ったその場所や人はもう失ったものなのだろう。
もうこの世には無いものなのだろう。
こいつがあの桂と関係のある人物なのは確かだ、
ということは攘夷志士だった。ならば。



自分が今日殺した人間は、こいつの仲間かもしれない。


ざわりと背筋が冷えた。死ぬかと思うほど冷たいものが背中を
駆けて散った。
だけど、それでも、自分は幕府の人間だ。
ああまた理由をつけている。肩書きに自分を挿げ替えている。





本当はただあの人の傍に居続けられれば良いと願っただけだったのに。
それだけだったのに。




「多串くん、これ水に入れてやってよ。どーせ枯れるけど、
それまでは咲いてっから」
顔を上げて土方に向き直った

「・・・多串くん、何泣きそうな顔してんの」

覇気のない表情で自分に手を差し伸べてくる銀時の手のひらから、
どす黒い血がばたばたと滴り落ちている気がした。
土方は進んでそれを頬にあてがい、すり、と目を閉じて手のひらに
頬を滑らせた。

贖罪ではない、それはこの世には存在しない。
土方が死んでも彼が殺した人間への贖いにはならない。


自分が縋り付いて、それのみによって生きている理由、言い訳、
肩書き、組織、仲間、そういった中で
この妙な銀髪男は何も持たず、受け入れてくれるものも無い処から
今まで生きてきたのだ。


この男は対岸に居る、その間には深い深い深い溝があって、
その崖っぷちで男は自分に血濡れの手と花を差し出す。

何かなければ、あの人が居なければ成り立たない自分は、
この銀髪が羨ましいから、目障りなのだろうか。

この男は対岸に居る、その間には深い深い深い溝があって、
その崖っぷちは対岸に自分が居たかもしれない断崖なのだ。


土方は花を受け取った、真っ赤な花を。真っ赤な血濡れの手から。
換わりに酒を注いでやる。銀時はにんまりとしつつ呑む。


土方は、自分がただの一人の人間としてこいつと向かい合えない限り
この苛付きも焦燥も、云いようのない感情すべてがどうにもならないのだと
覚った。


「おい、銀髪」
「何よ」
土方は銀時に覆いかぶさった、口付けて押し倒した。
「やろうぜ」
「別にいーけど、俺挿れられんのはヤだなァ」
「どっちでも構わねェ」
銀時に下から見上げられて、土方はまた云いようのない感情に襲われた。
それを誤魔化すように口付けたら、体を反転されて組み敷かれた。
銀時の髪が首筋にふわふわとかかってくすぐったい。


静かな夜だった。







END


本当は、セックスシーンを書こうと意気込んでいたんですが、
何かもう銀土は物理的なエロとかじゃなくて、精神的エロを求道したい、
とか思って、いえ銀さんはそんなに土方に揺さぶられたりしないと
思うんですけど土方は確実に銀さんに侵食されると、ふと思いました。
何か土方って主体性なくって、自分があまりないように思えました。
まず近藤さんありき過ぎる。真選組ありき過ぎる。
そういう部分は銀さんも目を細めて見るかもしれません。
彼がどういう思いで攘夷戦争に身を投じたかまだ知れませんが。

この二人は侵食し合えばいい。そっと影響し合えばいい。
食いつ食われつすればいい。
断崖越しに。


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