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2008年12月02日(火) 浦和よ、闘莉王を放出せよ

第33節にG大阪に負け、6位に後退した浦和。その浦和の今季を象徴するキーワードは、「混乱」だと思う。そのことをよく象徴していたのが第32節――浦和が清水に1−2で負けた試合だった。

筆者は、闘莉王が浦和の“癌”だと指摘し続けてきた。この試合においても、闘莉王の規律(バランス、役割、約束等をいう。)を無視したプレーが目立った。

清水に先制された後の浦和は、闘莉王が前線にしばしば飛び出し、シュートや決定的パスを出し続け得点機会をつくった。彼がJリーグにあって格別の運動能力をもった選手であることを認めよう。だが、彼の存在は、草野球や高校野球レベルにおける「エースで4番」にたとえられる。いくらJリーグのレベルが低いとはいえ、DFが自力でボールを相手ゴール付近まで運んで得点に至るケースは稀である。4バックでCBの2人のうち一人が前に出れば最終ラインは1人となることは当たり前で、極めて危険な状態を招く可能性がある。闘莉王が上がることによって、ディフェンシブな選手の負担が重くなる。時間経過とともに、チームとしての攻守の切り替えのスピードは落ちる。

さて、モダンサッカーでは得点に結びつく攻撃機会は、サイドから生じることが多い。サイドから供給されたクロスはDFにとって守りづらく、マークをはずしやすい。ところが、この試合を失えばリーグ戦優勝の目がなくなる大事な試合、浦和は4バックの右SBに磯貝を入れた。筆者は磯貝がSBに適正があるとは考えないが、これがエンゲルスの選択である。左SBには平川。磯貝は、今シーズン、守備的中盤にあって能力を発揮してきたにもかかわらず、この試合に限って彼の定位置を崩す必然性が見当たらない。もちろん、彼が決勝ゴールを叩き出した試合もあった。

しかし、必然性の伴わない結果ばかりを求めてはいけない。エンゲルスの選手起用は、偶然のナイスショットを出展する素人写真家を大家だと確信してしまう写真批評家に似ている。意図した写真を撮影できるのがプロなのであって、偶然のナイスショットに依存するのがアマである。もちろん、アマがいい写真を撮ることもあるが、写真で生活はできない。

そればかりではない。先発の攻撃陣には、ワントップ=田中達、左=相馬、右=エスクデロ、トップ下=ポンセ、一方、ベンチにはエジミウソン、高原、永井の豪華FW陣。素人には、控えと先発が入れ替わったように見える。

浦和がアジリティ、スピードを攻撃のコンセプトとしてチームづくりをするつもりならば、選手補強をその線に沿って進め、シーズン最初からそのようなコンセプトで試合をしなければいけない。今シーズンの浦和は、そういうチームづくりをしてこなかったはずだ。これを「混乱」という。

浦和は、シーズンで最も重要な試合の1つにこれまで結果が出ていないとはいえ、実績のあるFWをベンチに置き、左右の攻撃陣に、カタールで快勝した日本代表の陣形にならったような選手を起用した。ところが、このにわか・即席・日本代表もどき・の攻撃陣がまったく機能しない。そこで、前述のとおり、業を煮やした闘莉王が前に出て攻撃を仕掛けるに至ってしまう。

さらに不可解なのは、リードされた80〜90分(タイムアップ)までの時間帯に、なぜパワープレーを選択しなかったのか。ハイボールのターゲットは闘莉王1人という選択肢もあるし、阿部を加えた2人という考え方もある。とにかく、残り10分はスクランブルでゴールに迫るべき時間帯のように思える。なぜならば、浦和がこの試合を失えば、優勝の可能性はゼロに近づくのだから。

もちろん、パワープレーはバランスを崩すから一切採用しないという哲学もあるが、浦和は、闘莉王の攻撃参加というバランス無視の攻撃を持ち味としているチームではないか。

しかし、浦和のアンバランスというのは、先制されると、とにかく追いつかなければという(闘莉王の)本能に基づく前進にすぎず、チーム戦術でないところが問題なのだ。昨シーズンの浦和のACL制覇は、FWワシントンという個人に負っていた。ワシントンが退団した今シーズン、前で得点が取れなくなると、闘莉王の本能だけで得点を奪おうとする。結局、チームとしての戦い方が2年間を通じて追求できなかったのだ。

いまの浦和は、闘莉王を放出することによって、本脳依存からら頭脳(知性)重視のオーソドックスなサッカーチームに変身できる。そのうえで、攻撃と守備のバランス及び運動量を追求すれば、田中達、エスクデロ、相馬、平川らの選手が生きるし、鈴木、磯貝、梅崎らの中盤も安定度を増す。また、高原、永井、エジミュウソンのだれを残し、だれを放出するかも明確になる。もちろん、既存の選手にこだわらない、まったく新しい攻撃陣を補強するという方向性も出てくる。

闘莉王のいない、ACL出場権を失った浦和の来シーズンは、リーグ戦をじっくり戦いながら、常勝軍団の基礎をつくる絶好の機会だ。「本能から頭脳へ」が、浦和のコンセプトだ。


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