| 2008年07月30日(水) |
「キリン」が日本サッカーを滅ぼす |
翳りが見え始めたとえは言え、サッカーの日本代表人気は絶大のようだ。北京五輪日本代表壮行試合(キリンチャレンジカップ)のアルゼンチン戦は超満員。来日したアルゼンチン五輪代表は、OA枠にリケルメらの世界的プレーヤーを擁している、これは一見の価値があるだろう、というファンの心理がわからなくもなない。筆者とて、関心がまったくないわけではない。ウイークデーの7時キックオフとはいえ夏休み。国立競技場が満員になる条件はそろっている、といわれればそれまでかもしれない。
ところで、欧州各国のクラブが、有力選手の五輪行きを拒んでいる、というニュースが報道され始めた。J1の神戸がリーグを優先して、OA枠の大久保の五輪招集を拒んだことはご承知のとおり。日本もやっと欧州並み。クラブ優先の姿勢が徹底してくるのかなと。筆者が神戸の召集拒否を当然と支持したことは、既に当コラムに書いた。急病の遠藤(G大阪)とともに、日本五輪代表チームはOA枠を行使できなかった。
しかし、欧州のクラブは、23歳以下の五輪エイジの召集すら拒否しているが、日本のクラブは、23歳以下の五輪エイジの召集までは拒否していない。欧州側は、五輪サッカーはFIFAの公式行事ではない、という共通認識をもっている。代表サッカーが許容されるのは、ユーロとW杯だけ、欧州サッカーの基本は地域に根ざしたクラブにあり、という理念は覆すことは難しい。
翻って日本のサッカー事情はどうかといえば、Jリーグの人気は二極化していて、地域密着の努力が実ってクラブ運営が軌道にのったところとそうでないところの差が、はっきりと出てきている。二極化現象の主因は、クラブの運営の差であることはそうなのだが、クラブの地域密着を妨げている代表の存在を忘れてはならない。
日本人は国際試合が大好きで、この傾向はサッカーにとどまらない。力道山、G馬場らが率いた黎明期のプロレスは、怪しげな「世界大会」を幾度となく開催した。子供のころ、筆者は、海外からやってきたプロレスラーが、本当にその国を代表する選手だと信じていたものだ。筆者は、国際と冠されると、なんとなくありがたく感じる、ナイーブ(うぶ)な少年だったのだ。
さて、今日の代表サッカーを牽引するのが、「キリン」の冠大会だ。キリンは日本サッカー協会の大スポンサーで、キリン杯、キリンチャレンジカップの名称を独占的に使って、日本代表試合を興行させている。五輪大会前の壮行試合2試合(オーストラリア戦及びアルゼンチン戦)は、日本人の「五輪好き」も手伝って、かなりの盛り上がりを見せた。
しかし、キリン杯、通常の代表戦(キリンチャレンジカップ)は、日程的に無理な場合があり、来日する選手のコンディションが悪く、いかにも「怪しげな国際試合」であることが多い。それでも、代表国際試合は、テレビ視聴率も含め、興行としては悪くないコンテンツとなっている。冒頭に翳りが見え始めたと書いたが、リーグ戦と比べれば、TVの視聴率は高いようだ。
かなり近い将来、日本サッカーが衰退傾向を見せることがあるとしたら、その致命的要因として、「代表優位」の全体傾向を挙げることになるだろう。それは、日本代表がW杯予選で敗退することから始まる。そして、その悪しき波及効果がJリーグ全体に及ぶことになる。最短で4年間、日本サッカーは暗黒時代を迎える。
この暗いシナリオが現実化しないためにはどうしたらいいのかといえば、地域に根ざしたクラブサッカーを鍛え、支えるしかない、という回答以外ない。代表サッカーに投じてくれるキリンは優良なスポンサーであるように見えるが、実は、日本サッカーを根底から蝕む要因の1つを提供しているとも別言できる。キリンが日本代表に投じてくれる宣伝費を、一(いち)弱小クラブに投じてくれたとしたら、日本サッカーの底辺は大いに拡大するのだが。
キリンがクラブのスポンサーになって、それを育ててくれたほうが、どれだけ日本サッカーのためになることか・・・たとえば、どこかの街のJ2のクラブを買収して、世界のスーパースターを集め、J1に昇格して優勝するような筋書きが最高だ。もちろん、そのクラブにキリンの冠はつかない。
欧州の強豪クラブは、富豪がオーナーになっているケースが多い。セリエAのあるクラブは、政治家(首相)がオーナーだし、英国プレミアはタイの亡命政治家がオーナーであったり、ロシアの大富豪がオーナーだったりする。彼らは実質オーナーであるが、クラブは地域住民のものであるという建前は崩していない。
キリンが代表から手を引いて、クラブ経営に切り替えてくれる可能性はゼロだろう。日本サッカーが大手広告代理店にコントロールされている以上、大きなリスクを抱え続ける現実は変わらない。日本の代表サッカー人気は砂上の楼閣に近いのであって、足元(クラブ)を固めるには、欧州と同じくらいの長い年月が必要のようだ。少なくともあと100年かかるか・・・
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