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2008年05月28日(水) パラグアイの底力

日本vsパラグアイは0−0のスコアレスドロー。先のコートジボワールに1−0で辛勝した日本がキリン杯で優勝した。

優勝したのだから「岡田ジャパン」は強くなった、なんて思っている人は日本中に一人もいないとは思うけれど、この状態では、来月のW杯第3次予選に暗雲が立ち込めたどころではない。最終予選前に日本敗退の可能性が強まった。日本代表のW杯出場は危ない。

日本代表には、海外組の中村俊、松井、長谷部が合流し、現時点でほぼ最強メンバー。一方のパラグアイ代表は英国プレミアでプレーするサンタクルスはじめ、有力選手不在の「代表」で、もちろんアウエー。日本が勝って当たり前のマッチメークのはずだ。

試合内容についてはご覧のとおり。前半は日本のパス回しが順調で、日本やや有利だったものの、得点はもちろん、決定的場面を創出するに至らなかった。後半は松井、長谷部の海外組に高原を投入。ピッチ上に3人の海外組とドイツ帰りの高原が勢揃いしたが、局面打開に至らず、これまた、得点の雰囲気さえつくれなかった。

岡田采配に対する疑問は、阿部の右SBでの先発起用だ。阿部は確かにユーティリティーな能力をもった選手。だがしかし、この試合で阿部の右SBをテストする必要があったのだろうか。テストするなら、本番・オマーン戦のシミュレーション――俊輔を軸とした、攻守のコンビネーションを実戦で深めることではなかったか。

この試合、巻をワントップに先発起用したのだから、彼の高さを生かす作戦だろう。当然、左右に攻撃の基点をつくるため、SBがライン沿いを駆け上がり、巻をターゲットにしたセンターリング(クロス)で、彼の直接シュートか、もしくは落しから、バイタルエリアに入ってきた選手のシュートをイメージしているのだと思う。

そこで阿部だが、彼には、サイドライン沿いを駆け抜ける走力(速度)はない。彼の能力は、攻守にわたる読みの深さ、危機察知能力、カバーリング等であって、適所は、3バックの中央(リベロ)もしくはボランチだ。彼はもちろん、CBから攻撃的MFの仕事もできるが、SBは難しいと筆者は以前から思っている。

日本代表の弱点は、オシム時代から変わらない。まずもって、レフティーの左SBの不在だ。世界的トレンドとして、右ききが左SBを務めることは多い。だが、基本はレフティーによる、左足の正確なクロスによる攻撃だろう。日本にとって、有効な攻撃がスピードであることは異論がないのだから、ライン沿いに長い距離を走り、左足で正確なクロスが上げられる左SBを代表に定着させなければ嘘だ。

阿部の右SB先発起用の意図を推測すると、岡田の消極的な「専守防衛」の思想からだと筆者は考える。得点を与えない4バック――左SBの長友が上がり目で、闘莉王、寺田、阿部の3人で守るというフォーメーションだ。攻撃的中盤は、中村俊、中村憲、長友の3人、守備的中盤(ボランチ)に遠藤、鈴木、FWに巻、山瀬ならば、3−5−2に落ち着き、実質は5バックで守る。

さて、こんなことを書いても仕方ないけれど、パラグアイの守備を見ていると、「ああー、歴史の差だなー」と思ってしまう。パラグアは、面積においてもサッカーの実力においても、強大なブラジルとアルゼンチンの二つの大国に囲まれた小国。その小国のしたたかさ――予選を勝ち抜くノウハウ――は、経済大国日本の資本力をもってしても短期間では具備できないもののようだ。来日した「パラグアイ代表」は国内選手による急造代表チームだと推測され、ホームの日本代表に勝ちきる力はなかったけれど、日本に得点を奪われることもなかった。どんな状況であっても、自分たちのプライドだけは失わない――そんな、伝統の力というものを感じてしまった。

一方、先のW杯3次予選で、日本がアウエーで小国バーレーンに負けたのは、パラグアイにあって日本にないもの、すなわち、簡単に負けないしたたかさを日本代表選手が持ち合わせていないためではなかろうか。あの試合はGK川口の軽率なプレーから失点したのだけれど、その失点を跳ね返す攻撃もなかった。

サッカーだから負けることはある。それは仕方がないことだ。でも、希望のないまま、もてる力を発揮せずして敗退することだけは避けたい。6月決戦(3次予選)では、ホーム・アウエーを問わず、日本代表に全勝してほしい。


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