イソップ物語に、ロバを担いだ親子の話がある。ロバを引きながら歩いていると、通りかかった人が「ロバに乗らないで歩いているなんて、なんて馬鹿な親子なんだ」と笑われた。そこで子供がロバに乗ってしばらくあるいていると、「おやおや、年老いた親を歩かせて子供がロバに乗っているなんて、なんて親不孝な子供なのだろう」といわれた。そこで親がロバに乗って子供が歩いていると、「幼い子供を歩かせて、親がロバに乗るなんて、なんて酷い親なんでしょう」となじられた。困った親子は考えた結果、2人でロバを担いで歩き始めたのだが、ロバの重さに耐えかねて、橋から転がって川に落ちて溺れてしまった・・・という話だ。
教訓は、「信念を持たずに、人の意見ばかりを聞きすぎると、結果は散々」というものだ。いままさに、岡田ジャパンはロバを担ぎつつある。当初、接近・展開・連続のラグビー理論を持ち出したのだが、サイド攻撃、サイドチェンジ、前線を追い越す走り・・・といったスペースを広く使うモダンサッカーの原則論から批判を受けると、ラグビー理論を引っ込めた。併せて、狭いスペースにおける速くて小さなパスまわしを標榜したが、実戦(親善試合)で相手に強いプレスをかけられて上手くいかず、これも引っ込めた。また、就任以来中盤ダイヤモンドの1ボランチを採用したものの、タイ戦(公式戦)で中央からミドルシュートを決められ、サッカー評論家から中央の守備の手薄さを指摘されて、2ボランチに戻そうとしている。
現在の岡田ジャパンをサッカー評論家のI氏は、「ヒデ、俊輔不在のジーコジャパン」と評したのだが、誠に的確な表現だと感心した。ジーコジャパンは守備に規律がなく、中盤とバックラインのマークの受け渡しが曖昧だった。相手の攻撃に対して、常に守備者を余らせるという約束事もなかった。だから、なんとなくゾーンで守っているというイメージはあったものの、混戦状態、スピードのある切り崩しに弱かった。W杯ドイツ大会初戦の豪州戦では、後半スタミナ切れした日本DFが相手をマークしきれず、混戦で押し込まれて失点し、さらに試合の経過とともにMF・DFの動きが悪くなり、最終ラインでマークを振り切られて2失点し、合計3点を取られた。
オシムジャパンでも、日本の守備の弱点は克服されなかった。昨年のアジア杯準決勝サウジアラビア戦では、スピードのあるサウジ攻撃陣に日本DFがマークを振り切られ失点した。4バックのCB阿部・中澤がついていけなかったわけだが、阿部はユーティリティーで読みの良い選手だが、「最後の最後」の応対のスピードがない。筆者は阿部のCBに不安を抱いている。
このたびの東アジア選手権は、日本代表の守備を仕上げる絶好の機会だ。DFは実戦を積み上げることで強固になる。しかるに、遠征直前になって坪井が代表引退を表明したのは残念、というよりも、あってはならないタイミングの「代表引退」だった。坪井はレギュラーではないが、代表選手の一人だ。代表引退の意思表示はもっと早くあるべきだった。この先、いま現在のレギュラーの中澤・阿部が全試合出場できる保証はない。2人とも欠場もあり得る。東アジア選手権の3試合で異なる組合せによるDFテストを行う選択肢もある。日本代表監督の岡田は、DFの組合せについて、どのような危機管理意識をもっているのか問いたい。
さて、当たりまえの話だけれど、W杯アジア3次予選で注意すべきはアウエーの3試合、中で最も危険なのが6月14日に敵地で対決するタイ戦だと筆者は思っている。初戦(日本ホーム)は、試合直前にタイの主力2人が累積警告で出場停止が判明し、しかも、当日は厳寒の雪中試合というタイにとって悪条件が重なり、タイは本来の力が出せなかった。
昨年のアジア杯では、タイは開催国の一国として、その役割を十分に果たした。戦績は、優勝国のイラクと引分け、オマーンに勝って勝点4で豪州に並んだものの、その豪州に負けてグループ3位となり、決勝トーナメントに進出できなかった。
6月、日本はタイ戦の前にオマーンとの2試合(2日:日本・ホーム、7日:オマーン・ホーム)があり、この2試合の1試合を負けもしくは引分けた場合、14日のアウエーのタイ戦はかなりプレッシャーがかかる。厳冬の日本で本来の力が出せなかったタイは、酷暑の母国でリベンジを誓ってくる。そればかりではない。日本代表のレギュラーの何人かがケガ、サスペンションで出場できない可能性が最も高いばかりか、疲労が溜まるのもこのころの日程に当たる。
このたびの東アジア選手権(公式戦)は、いい機会なのだ。オフ時間も敵サポーターに囲まれたアウエーの公式戦は、日本代表各選手に精神的結束を促す。合宿以上に、チームワークを形成する絶好の機会であり、3次予選を戦い抜く上で最上の日程が組まれたといって言いすぎでない。だから、代表の選手・スタッフは、この遠征を無駄にしてはいけない。
結果を問わない、という前提は負けてもいい、ということではない。目的意識をもって試行をしたが、結果がついてこなかった場合も容認するという意味だ。ところが、こういう前提ほど難しいことはない。何を試行すべきかという目的意識を全員が共有しないと、緊張して試合に臨めなくなる。その緩みを防ぐため、代表監督は選手に過酷な任務を課すこともある。
なお、繰り返しになるが、日本代表の弱点はFWだといわれるが、アキレス腱は最終ラインなのだ。先述したようにその最も重要な最終ラインの一人が代表を去った。そのことを含めて、東アジア選手権は岡田の手腕を見定めるいい機会となろう。
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