| 2007年07月29日(日) |
さあ、どうするオシム監督 |
アジア杯は、イラクがサウジアラビアをくだして初優勝。この結果を予想したサッカー評論家は、おそらく、少数だろう。観客席の“Peace for Iraq”の看板がまぶしい。イラクチームの団結力、選手の精神力の賜物だ。イラク代表に最大の敬意を払おう。
優勝候補ナンバーワンの日本は韓国にPK戦で敗れて、4位に終わった。この試合、準々決勝のオーストラリア戦と同様、相手が退場で1人少なくなったにもかかわらず、日本は勝ちきれなかった。イラク選手の爪の垢でも・・・と言いたくなるような、ふがいない試合だった。日本代表の弱点は、精神力の弱さだ。選手に勝つ気力がみなぎっていない。もう一つは、選手が萎縮していることだ。シュートをためらうのは、監督に怒られるからだろう。決定的とはいわないまでも、シュートを打てばボックス内で何が起こるかわからなくなることもある。それでもパスにこだわるのは、形にこだわって、点をとるというサッカーの本質を忘れているからではないか。
準決勝の相手・今回の韓国チームは、ベストメンバーではなかった。韓国の海外組はケガ等を理由に大会に参加しなかった。韓国のFW及び中盤の攻撃陣の中心は、現役JリーガーもしくはJリーグ経験者。一方、守備陣はW杯ドイツ大会に出ていない若手で構成されている。若手守備陣が安定した守りで失点せず、あまり強力でないベテラン攻撃陣の得点力不足を補ってきた。この試合はその典型で、1人多い日本の攻撃陣を完封した。
今回のアジア杯では、主要国の代表メンバーの方向性が見えていないことが共通事項(イラクはわからないが)だった。W杯ドイツ大会のメンバーのまま参加したオーストラリアしかり。また、日韓は似た状況にあり、新旧の交代に窮している。イランも同じだ。ただ一国、W杯メンバーと新戦力のバランスがとれているのがサウジアラビア。選手の資質とチームの方向性が同調している。ここから3年間かけてこのチームが新戦力を加え、チームを仕上げていくに違いない。
さて、日本4位の結果を受けて、日本のスポーツジャーナリズムの風向きが変わってきた。これまでのオシム神格化が後退して、オシム采配のミスを批判する論調が支配的になってきた。筆者はアジア杯を通じて、“オシムジャパン”に疑問を投げかけてきたが、その立脚点は日本のスポーツジャーナリズムと異なる。筆者は日本代表がアジア杯で4位に終わった責任を、オシム監督に負わせようとは思っていない。アジア杯の覇者は一国に限られるが、W杯出場は4カ国まで許される。アジア杯はW杯に至るステップなのだから、3年後を見越した総括が必要なのだ。
直前の当コラムの記述と重なるが、アジア杯終了時点における最重要課題は、代表チームの今後の顔ぶれだ。W杯ドイツ大会の代表メンバーのFW高原、MF中村俊、DF駒野、加地、中澤、GK川口を南アフリカ大会までの中軸とするのか、今回で見切るのか・・・
アジア杯3位決定戦の直前、オシム監督は控え組の起用をほのめかしながら、結局はそうしなかった。韓国戦の先発メンバーが意味するものをどのように解読するかによって、この先の日本代表のイメージも変わってくる。
解釈は以下、3つある。第一は、韓国戦に起用したメンバーがこの先も日本代表の中心なのだというもの。勝っても負けても関係ない。第二は、主力メンバーで韓国に勝ったら、日本代表チームに改造を加えないが、韓国に負けたらいまの主力を見切り、アジア杯以降、代表メンバーを一新する。第三は、勝っても負けても、代表メンバーを一新する。
筆者の希望としては、ここで主力を入れ替え大幅な若返りを果たすべく、大改造を行ってほしい。まず、チームの中心を中村俊から阿部に切り替える。同時に阿部をCBではなく、中盤に上げる。FWは高原依存を脱し、巻、佐藤、矢野に限らず、Jリーグで活躍するFWを逐次抜擢する。中盤では、中村俊輔、山岸、遠藤、スーパーサブの羽生を一度代表から外し、U20、U22、五輪代表候補を含め、3年後、力のピークに達するであろう若手をチームの中核に据える。現在の主軸で残るのは、ボランチの鈴木、CBからボランチにまわる阿部以外は白紙に戻す。もちろん、今回のアジア杯代表メンバーでまったく試合に出なかった――太田、水野、伊野波は代表に最も近い選手であることは間違いないが。それだけではない。中盤にはウインガータイプのレフティーを新戦力として加えるべきだろう。
DFはトゥーリオ(=ケガで欠場)、中澤、駒野、加地を残し、伊野波、今野を最有力候補としながら、Jリーガーから新しい才能を育てる。新しい才能の具体的なメンバーの名をあげるのは、もう少し時間がかかる。
流行語の1つとなっている“再チャレンジ”でいえば、鹿島のMF小笠原、FW柳沢、ザルツブルクに移籍したMF三都主、DF中田浩、フランスリーグで活躍するMF松井、トルコからドイツに移籍した稲本・・・らを思い出すが、彼らはおそらく代表に呼ばれることはあるまい。
いずれにしても、アジア杯でわかったことは、日本の実力はアジアで10位以内であること。必死で代表強化に努めなければ、W杯アジア地区予選で敗北する可能性の方が高いくらいだ。強敵のサウジアラビア、イラン、そして困難な国情を背景にもちながら、潜在能力の高さを見せつけた優勝国・イラク、しぶとい韓国、個人技で日本を上回るオーストラリアが当面のライバルだけれど、北京五輪強化で弾みをつけるであろう中国、オイルマネーを使って、選手帰化による超法規的強化を図るカタール・・・が、日本といずれ肩を並べるだろう。日本がアジア予選を勝ち抜ける保証はなにもない。
さあ、どうする、オシム監督。
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