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2007年04月06日(金) アマ野球が抱える大いなる矛盾

MLB(大リーグ)のドラフト会議は、アメリカ合衆国・カナダ・プエルトリコの高校・大学および独立リーグの選手を対象にした新人選手選択会議である。ファースト・イヤーとも呼ばれる。だが、MLBの場合、高校・大学・独立リーグの新人を狙うよりも、全世界に張り巡らされたスカウト網から人材を得るルートがある。たとえば、あまり裕福でない中南米の若者は地元で野球の腕を磨き、MLBのスカウトの目にとまればマイナー契約をしてプロ選手となる。1A、2A等と契約すれば、ドラフトにかからない。

日本プロ野球(NPB)は、MLBに相当するプロ球団は12しかないので、高校生、大学生、社会人のいわゆる「アマチュア野球界」がプロへの人材供給源となる。アマ選手がプロ野球と契約する場合、プロとアマが定めた1種類の規程(もしくは協定)に縛られる。

今回発覚した希望枠と裏金問題、もしくは、プロからアマへの金銭供与の問題については、プロのカネにまみれた汚い手が、純粋なアマをかき回したかのような報道もあったが、そうではないことがこのたびの調査報告で明確になってきた。プロが汚く、アマが純粋であるかのような既成概念では割り切れない。

当コラムで既に書いたとおり、プロもアマも同根の病巣を抱えている。このたびの裏金問題は、本来はアマチュアでない高校・大学・社会人野球界がアマと呼ばれるがゆえに、プロ側から供与される正当な金銭を表立って受け取れないところに起因する。人々は、プロは裏金を支払ったが、それを受け取ったアマがいたことにもっと、関心を示すべきだ。

以前書いたとおり、アマとは建前で、アマ選手は高校・大学・企業の知名度アップや受験生集めに一役買っており、明らかに、高校・大学・企業の利益のために野球をやっている。というよりも、学校経営者が学生に野球をやらせている。アマチュア選手は、現金(=報酬)を受け取っていないが、それに代わる対価(=便宜供与等)を受け取っている。対価の中味としては、学費免除、授業免除、卒業資格免除、寮費免除、スポーツ用具・用品等の供給等々が挙げられるが、なによりも、好きな野球に3年間、ひたすら打ち込める環境提供が一番である。

一方、何度も言うとおり、高校・大学・企業の経営側は、野球部強化によって、校名、企業名がマスコミに報道されることにより、経営上、多大な利益を得る。また、学生野球を報道するマスコミは、アマチュア野球が優良なスポーツコンテンツであるがゆえに、新聞・雑誌の拡販が可能となるばかりか、中継・特番のテレビ視聴率までが稼げる。

プロ球団は、本社からの援助金、チケット販売、放映料、グッズ販売等を収入とし、そのなかから練習場設備等の整備費や選手への報酬を支払う。アマ球界は、入学金、授業料・寄付金等を収入とし、練習場設備の整備費を支払うが、学生である選手に報酬を支払わない。さらに、学生野球を後援するマスコミは、報道するだけで、莫大な(新聞・雑誌等の)売上を上げるが、学生選手には一銭も支払わない。マスコミが学生選手に対価を支払わない理由は、彼らがアマチュアだからだと説明する。アマ野球を楽しむ――たとえば高校野球ファン――は、雑誌や新聞を買い、その対価をマスコミに吸い上げられる。アマ野球、とりわけ、甲子園大会は、マスコミがコストをかけずに莫大な利益を上げる打出の小槌というわけだ。

マスコミは、たとえば高校野球において、新聞・雑誌等の売上を上げるため、野球美談をつくりあげ、年端の行かぬ若者をヒーローとして扱う。さらに、ルックスの良い野球高校生にハンカチ王子、マークン、コーチャン、バンビ・・・(列記するだに恥ずかしいが)と愛称をつけアイドル扱いする。これも新聞雑誌の売上を高める。

さて、学生野球の選手たちは3〜4年で学校を卒業する。有望選手は、プロに入団するのだが、プロ球団にとって、人気野球アイドル高校生は喉から手が出るくらいほしい存在だ。マスコミが付加価値をつけてくれたから、人気先行で実力が後からついてくれば元はとれる。人気高校生が多額の契約金で金満球団と契約するとなると、実力よりも人気の不均衡が生じる。日本では高校生の野球選手の方が大学・社会人よりも人気があるから、まずもって、高校生をドラフトにかけ、大学生、社会人に希望枠を使える制度で全球団が一致をみた。しかし、高校から大学、社会人に進めば3〜4年後に希望枠が使えるわけで、このたびのような裏金が使われるようになった。“3年後よろしくネ”というわけだ。

日本の野球高校生のうち数人は、プロに入ってすぐ一軍でプレーできる。アマのレベルが極めて高いのである。つまり、高校野球は、NPBのマイナーリーグに対応する。大雑把に言えば、NPBをMLBにたとえるならば、イースタン・ウエスタンが3A、社会人・大学・高校が2Aというわけだ。筆者から見れば、社会人・大学・高校は実態上プロ選手なのだから、プロ同士、自由な契約でかまわないと思うのだが、とりあえず。建前のアマチュアを尊重して、完全ウエーバーにすればいいと思う。

繰り返しになるが、そんなことよりもっと重要なのは、NPBがマイナーリーグを整備することなのだ。若い優秀な野球選手は、甲子園大会を目指すことなどせずに、マイナーリーグのプロ球団とプロ契約し、プロとして活躍すればいい。たとえば、高野連に加盟しない高校の野球選手が、高校に通学しながらプロとして野球ができれば理想的だ。高校に行かない若いプロ選手が、たとえば、アメリカの2A、3Aのような日本のマイナーリーグで腕を磨ければいい。冒頭に書いたように、MLBのドラフト会議対象者は、米国、カナダ、プエルトリコの3ヵ国のアマチュア選手であって、メキシコ、パナマ、ドミニカ等の中南米アマチュア選手は対象とならない。MLBのレギュラー選手は、3国以外の、ドラフト会議の対象とならない国籍の選手で占められつつあるように筆者には思える(統計的根拠はないのだが・・・)。

MLBにおいては、選手供給源としてのドラフト会議の重要度は低下(まったくなくなったとは思わないが)したように思う。世界中に張り巡らせたスカウト網を使って優秀な若者を発掘し、自前のマイナー組織で鍛え上げ、MLBに昇格させるシステムへと変わったのではないか。

NPBは、選手育成システムをアマ側に委託し、優秀なアマ選手獲得に当たっては、指導者・関係者に報道されない対価を支払い、高校生本人に契約金という対価を支払う。契約金は、アマチュア時代、無償でプレーしてきたことの功労金のようなものだ。良識あるスポーツコメンテーター諸氏は、「活躍できるかどうかわからない高校生に多額の契約金を支払うのはばかげている」と言うが、筆者は、そうは思わない。プロが支払う契約金は、アマチュア選手がこれまで行ってきた無償のプレーの数々を精算するという意味で、概ね妥当な金額なのだ。アンバランスなのは、選手は契約金で一気に報われるが、アマ側の指導者・関係者への正当な対価が支払われないことだ。アマでしこたま儲けるマスコミは、アマ野球で儲けながらカネを出さなばかりか、アマの純潔・純粋ばかりを強調する。だから、指導者・関係者は表だってカネを受け取れなくなってしまう。そこで、裏ガネの授受が発生することになる。

結論を言えば(繰り返しになるが)、日本で野球をするアマチュア選手がプロ球団に入る経路に制約が多すぎることが問題なのだ。日本にはプロ球団が大都市偏在の12球団しかない。地域に根を張ったマイナーリーグが実力順に段階的に設立され、マイナー契約の選手がそこで自由に腕を磨けるようになればいい。高校・大学・社会人という巨大な「アマチュア野球」(実はプロ野球)とNPBというプロ野球が高い壁で仕切られていて、選手の流動性を妨げている。MPBからマイナーへの降格や、マイナーからMPBへの昇格が頻繁に行われるようになれば、選手の実力も上がる。

そればかりではない。優秀な高校生が仕方なく大学野球、社会人野球に進むのは才能の浪費だ。また、優秀な高校生で高校を卒業する意思のない者は、すぐプロ契約をして高い報酬を得るべきだ。もちろん、高校に行きながらプロ選手であってもかまわない。

日本のプロ野球レベルが高いのは、高校野球のレベルの高さゆえである。だが、高校野球の世界は欺瞞に満ちており、新聞社(マスコミ)が利益を独占するシステムとして完成し、高校野球関係者・指導者は、その利益から排除されている。

西武球団の裏ガネ問題調査報告から、日本のアマチュア野球が抱える矛盾が見えている。とはいえ、マスコミが自ら築き上げた収益機会を簡単に手放すはずがない。マスコミにはこの問題を解決する意欲もなければ、反省する気配すらない。悪いのはプロ、で一丁上がりか・・・


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