Sports Enthusiast_1

2006年07月03日(月) ヒデ引退を冷静に受け止めてほしい

サッカー日本代表の中心選手・中田英(ヒデ)が引退を表明した。引退があり得ないとは筆者は思っていなかった。だから驚いてはいない。それよりも、中田英引退のセンチメンタルなテレビ報道を見て愕然とした。中田英のホームページに書いてあるという「引退宣言」が嘘だというのではない。それも偽らざる中田英の心境だと思う。けれど、中田英の引退宣言をそのまま受け止めるというのは、あまりにもナイーブすぎないか?
29歳という年齢は、今大会のジダン(フランス)やフィーゴ(ポルトガル)らのベテラン選手の活躍ぶりを見れば、早すぎという見方があるが、この二人は一度、現役引退こそ表明しなかったものの、代表引退を表明したことがあった。二人は、自国代表がいい成績をあげられなかった現実を見て、復帰を決意したといわれている。
筆者は、当コラムにおいて、W杯のことを一度登ったことのある高い山に喩えたことがある。W杯出場選手を果たし、海外クラブからオファーをもらい、高額の契約金で海外クラブに移籍する。そこでレギュラーを得てさらに上の有名クラブへ移籍する・・・というステップアップは、プロサッカー選手ならだれだって憧れ、夢見るコースに違いない。中田英はそれを実現した数少ない、いや、いまのところただ一人の日本人選手だ。ところが、W杯で日本代表が一次リーグで敗退したとき、中田英にとって、その上のステップアップの道は閉ざされた。
ジダンやフィーゴは、代表引退を表明しても、世界最強レベルのクラブのレギュラーを確保できる力をもっている。この二人は、代表を引退しても、それ以上のサッカーを所属するクラブで実現できる環境にある。一方、中田英はセリエAのローマ入団を頂点とし、その後、下り坂にある。ドイツ大会直前のボルトン(英国プレミア)では、彼は満足な結果を残していない。
ドイツ大会において、中田英が所属する日本代表は、一次リーグで敗退した。中田英は日本代表の敗退と共に、欧州サッカー市場から消えなければならない運命にある。日本代表の敗退とともに、中田英が海外クラブから誘われる可能性が喪失した、と換言できる。中田英がボルトンからステップアップするには、ドイツで日本代表が勝ち進み、欧州サッカー市場が彼の商品価値を再認識する以外になかったのだ。
中田英のこうした野心を、「ヒデさんは、自分を高く売ることしか考えていない」と批判した同僚もいたという。この批判は当たっている部分がないとはいえないが、やはり間違っている。代表選手は、国やサポーターのためだけに戦っているのではない。サッカー選手ならば、代表選手という地位を利用して、自分を高く売ることを考えて当然だ。
では、ジダンはどうなんだ、ジダンはフランスのために復帰したではないか――という見方もあろう。筆者は、ジダンがフランスのために復帰し戦っているという半面、日韓大会の屈辱を晴らすという個人の誇りの回復をモチベーションにしているかもしれない、と考えている。ジダンのことは、ジダンに聞いてみなければわからない。
さて、中田英だが、繰り返して言えば、彼のHP上の「引退宣言」を冷静に受け止めれば、彼の引退理由はいろいろ考えられという以外にない。物事の結果は複合的な要因による。要因の1つだけ抜き出して美学的に語ることは可能だし、それが「感動的な」物語を紡ぐこともある。人々が信じたい物語として、語り継がれることもあろう。しかし、そうは考えずに別の要因を探ることもできる。他人様の行為について、1つだけをもってそれが真意だと断言することはだれにもできない。


 < 過去  INDEX  未来 >


tram