| 2004年10月19日(火) |
ソフトバンクの売名行為 |
ソフトバンクが18日、福岡ダイエーホークスの買収に正式に名乗りをあげた。ダイエー本社が産業再生機構に支援要請し、球団を売却する可能性が出てきたためで、来季からの参入を目指すという。 同社の孫社長は、「一昨年前から球団については、水面下で非公式にコンタクトをとっていた。われわれは福岡が創業の地。球団を所有するなら九州のホークス1本に絞っていた」と言うが、本当だろうか。 保有資産2兆円、現有預金5000億円という豊富な資金力を有する同社は、今年8月に3400億円で日本テレコムを買収。球団買収には200億円程度が必要で、年間10億円の赤字を計上する。 孫社長の思惑は、今後の新事業計画の円滑な推進のためには、球団保有による、ブランド(企業)イメージアップ、知名度アップが重要との認識がある。ホークス買収表明を日本のメディアが一斉に報じたことにより、孫社長の思惑通りになった。 報道によると、ダイエー本社や球団に話をしないままの記者会見で、しかも、球団買収に名乗りをあげた以外は「これから」と歯切れの悪い応答に終始したという。専門家によると、孫社長が球団を手に入れるには、産業再生機構が公募したスポンサー企業がダイエーホークス球団を売却することが前提になり、日程的には来季参入は不可能というのが一般的な見方だ。 プロ野球球団が企業の名前を冠する限り、こうした、「球団買います」騒ぎは続く。前にも書いたとおり、プロ野球球団が公共財でない理由は、「球団買います」と名乗りを上げた球団がマスコミに大々的に報じられ、名乗りを上げた球団に注目が集まり知名度が上がるからだ。そうであるかぎり、プロ野球球団は、企業の宣伝媒体という役割から逃れられない。 さて、ここで改めてマーケティングの基礎を復習しておこう。消費者が商品を購入する段階(構造)を公式化して、「AIDMAの法則」と呼ぶ。Attention(知名)→Interesting(理解)→Desire(確信)→Memory(記憶)→Action(行為)の頭文字をとったものだ。人は知名度だけでモノを買うわけではない。高額の商品ならば、カタログを熟読したり、セールスマンの説明を聞いたりする。そうして、理解・確信を深めるわけだ。しかし、消費者の購買行動を決定するファクターとして、Attention(知名)の力は大きい。人が小売店でモノを買うとき、同じ環境に陳列されていれば、名前を知っている商品を買う確率が高いし、名前を知っている企業に問い合わや資料請求をすることが多い。だから、企業は商品名・企業名を連呼するCMを毎日毎日テレビで流す。 CMは一般に広告(有料)と呼ぶが、新聞、テレビがニュース記事や番組で商品・企業を紹介してくれることがある。これをパブリシティーと呼ぶ。パブリシティーは記事、番組なので、広告料はいらないし、パブリシティーは広告よりも消費者に信頼感を与えるので、パブリシティーを装う広告が企画される場合もある。 日本のプロ野球の球団名には、企業名が付いている。それをマスコミが報じる以上、プロ野球球団は、マーケティング戦略に規定された価値である。だから、何度も記述するように、それを公共財と呼ばない。 ここで本題に戻ろう。孫氏がダイエーホークス買収声明を出したのは、日本シリーズ開催中の移動日。JリーグやサッカーW杯予選もない月曜だった。その夜のテレビのスポーツニュースや翌日火曜日の朝刊のスポーツネタは希薄だ。そんな日に買収声明を出せば、マスコミは動く。しかも、前述したように、専門家によれば、ソフトバンクが来シーズン、ホークスを保有することは日程的に不可能に近いらしい。孫氏ほどの経営のプロが、そんなことを知らないはずがない。ということは、孫氏は手に入らないものを買いたい、と言ったに過ぎない。そんなことはだれでも言えることで、報道されれば、言った者勝ちだ。 孫氏のようなパブリシティー狙いが許されてしまう背景には、プロ野球球団を手放す企業(経営者)を「悪玉」、反対にそれを買収する企業(経営者)を「善玉」と断じ、しかも、マーケティング戦略の一ツールにすぎないプロ野球球団を「文化」だとか、「庶民の夢」だとか美化してみせる日本のマスコミの誤った価値観・報道姿勢がある。何度も繰り返すが、企業名の冠されたプロ野球球団は、公共財ではなく、それを所有する企業の私財にすぎない。私財である以上、それを譲渡、買収する自由がある。 スポーツ評論家のN氏がテレビ番組で、大リーグでは球団の売買は自由であり頻繁にあり、それが騒動になることは少ない、という意味のコメントを出していたが、まったくその通りだと思う。資本主義の米国にあって、プロ野球球団は公共財だとする観点から、オーナーやスポンサー企業を球団名に冠することはない。だから、孫氏のようなパブリシティー狙いの買収声明が出る余地がない。 私は日本のプロ野球が、建前上はともかく、企業の宣伝媒体として球団運営を行うというのなら、それも1つの方法だと思う。孫氏のような売名行為も織り込み済みという姿勢も構わない。その方法でいくのならば、公共財と規定せず、球団所有のマーケティング上の価値を掲げ、売買・撤退により活力を維持すればいい。アダルトサイトだろうが、大新聞社だろうが、鉄道会社だろうが、業種など問わなくていい。へんな規制を設けないで、宣伝に必要だという企業に自由にやらせればいい。 企業活動(市場)が本来善なのか悪なのかは、私にはわからない。アダムスミスが「神の手」と言うのなら、自由な経済活動の結果、神の手が、最高のプロ野球リーグを日本に“おつくり給ふ”に違いない。
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