妄言読書日記
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2006年03月27日(月) 『青空の卵』(小)

【坂木司 創元推理文庫】

表紙もタイトルもかわいいです。

坂木氏のデビュー作で、私はこの方の本を初めて読むのですが、感想は、

甘い!

甘い、何もかも甘い!甘いよ小沢さん!と言いたいくらいに甘い!

ところがこの甘さが、短所ではあっても致命的な欠陥にはなりえないという、不思議なバランスの所有者のようです。
何が甘いかというと、まず「名探偵はひきこもり」とう帯がついているから、たいていのひとは推理小説として読み始めるのですが、推理小説としては事件が甘い。殺人事件(もしくは刑事事件)だけが事件じゃないので、まあ、こういう日常のちょっと不思議な出来事を取り扱うのはよいです。
だけれど、ひきこもりの鳥井の推理も甘い!その情報でその結論を引き出すのはあまりに、浅慮と言わずにおれない。
伏線の張り方もあまりに稚拙。

とにかく小説を書く技術的な面で甘さを感じて、けっこう苦笑してました。
だけど技術はね、身についてくるものですから。本人に学ぶ気があれば。
大事なのは、この作者がとても真摯な姿勢で物語を綴ろうとしている、という点。
では、短編集なので一つ一つ感想を。

「夏の終わりの三重奏」

巣田さんの登場した時のクレームのつけかたが、あまりに理路整然かつ、的確すぎて、苦笑。そんなヒステリーの起こし方ありますかい、と思ったのですが、その後、あのセリフには理由があるというのが明かされるんですが、あの推理をするために言わせたセリフ、というのが見え見えで、もう少し上手くと思ったものです。
坂木くんの涙もろさにびっくりしつつ、鳥井との関係にもどうしたもんかと、なんだか色々と戸惑い気味のファーストコンタクトでした。

「秋の足音」

どんだけ狭い街なんだ、と言いたくなる坂木くんと塚田くんの再会ですが、こういう甘いところが、苦笑しつつも、なんとなく作者の人のよさという気がして憎めない。
坂木くんがいい子であるのは疑いようもないけれど、同じ名を持つ作者も絶対悪人じゃないだろうと思うと、いいよいいよ、そのまんまの甘さでいてと最終的に寛容な気持ちにさせられる。
甘さには厳しい私がこんなに寛大になるのも珍しい。
鳥井が坂木に
「存在しているだけで充分だ」
と言うのですが、これ以上の言葉は人と人との間でないよなぁと思う。

「冬の贈り物」

なんだかんだと言っても、鳥井は無礼だと思うよ。やっぱり。
塚田くんも性格の悪さをばりばりと発揮し始め、基本的にいい人しか出てこない印象の本書のなかで、一人性格の悪さを披露しているような気がする。
まあ、性格が悪いだけで悪い人ではないんですが。で、君は、安藤くんのことどうするんだい、という点が気になったりする。
成金=ブランドというのはイメージであって、推理の根拠にはならないと思うんだよ、鳥井君、といいたいんですが、みんながそれで納得してるならいいよいいよ。坂木くんの夢を壊しても可哀相だし。

「春の子供」

坂木くんの本気が垣間見えちゃった回。
なんつーか、二人仲良く末永くお幸せに、と言うしかない。
坂木と鳥井の関係をなんというのだろうね。
お互い相手に、自分の大事なものを預けてしまっているけれど、それを依存と言ってしまうのはなんだか冷たい感じがします。
こういうのもありなんじゃないかなぁと思いますが、そこかしこにこんな二人がいたらいささか薄気味悪い。
相変わらず、鳥井の強引な推理が冴え渡ってますが。

「初夏のひよこ」

魚屋の奥さんが必ずしも料理上手なわけじゃないだろ、と思うのだが、そういう作者の甘い認識、嫌いじゃないよ。
世知辛い世の中で、辛口だったりひねくれてたり厭世的だったりする小説も多いけれど、中にはこんな甘い設定で、人の善意を信じてて、人と人との関わり方できっとよくなっていく、ってそんなことを真っ向から考えて書いてる人ってのがいても良いと思うし貴重にも思う。
先にも書いたけれど、技術は学べるけれど、こういった真っ直ぐな心根は持っている人じゃないと書けないんじゃないかなぁ。

今後も、坂木と鳥井は人間的に成長していくと思うので、それを楽しみにしております。



蒼子 |MAILHomePage

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