妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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| 2005年02月02日(水) |
『暗いところで待ち合わせ』(小) |
【乙一 幻冬舎】
とても久しぶりの乙一小説。 意外なことに、まだ二冊目です。 読者の中では一番と評判の本書ですが、こんな怖い表紙でなければもっと読まれるだろうに。どうしてこんなに、ホラーな表紙なのだろう。 この表紙と、あらすじが相俟って、非常に怖そうな本に見えてしまいます。
読んでみれば、盲目のミチルと、社会のどこにも見の置き場を見つけられないアキヒロの気持ち、徐々に歩み寄るさまが丹念に書かれています。 見た目の印象と違って、血なまぐさくも陰惨でもありません。 むしろ穏やかとすらいえる印象。
以下、ネタバレの話しになります。ご注意。
私は純粋に、殺人犯であるアキヒロとミチルの交流話なんだと思っていたから、実はアキヒロは殺していませんでしたということがわかって、なんだか肩透かしを食ったような気分です。 なぜかといえば、話の半ば辺りでアキヒロが
これから、生きかたを変えることはできるだろうか。他人と接することから逃げずに暮らす、そんな人間になれるだろうか。警察に追われてこの家の中に隠れ潜む自分に、もしもそれが可能なら、どんなにいいだろう。
と思う場面があります。 ミチルがアキヒロの存在に気がつき、彼の分まで食事を作るようになったころのことです。 ここで、アキヒロの取り返しのつかない罪の事を思って、せつなーくなったわけです。きっと、悲しいラストなんだーと。 そしたら、殺してないと。 肩透かしのような、ほっとしたような、なんとも微妙な気分になりました。 ハッピーエンドすきなので、まあ、これはこれでいいのですが。 実はハルミが犯人でした、というちょっとしたどんでん返しも必要だったのかどうか、少々疑問。
まだ二作品しか読んでいませんが、少数派の人に対して不思議な優しさを持った作家のように思います。 社会に溶け込めなくてもいいんだよ、ということを言うわけではなく、かといって積極的に変化を促すでもなく。 ひょっとしたら乙一自身がまだ模索中なのかも。 それがあの自虐系なあとがきやら雑文に現れているのでしょうか。
間違いなくよい作品でありました。 あとがきが相変わらずです。 ダイエットの秘訣は「死を恐れてはいけない」。わかりました!
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