妄言読書日記
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※ネタバレしています
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| 2004年03月18日(木) |
『異域の人・幽鬼 井上靖歴史小説集』(小) |
【井上靖 講談社文芸文庫】
途中まで書いたのを間違って消しちゃいましてね・・・意気消沈してるので、手短にいきます。
「玉碗記」 歴史にロマンを感じるのはどれだけ想像することができるか、によると思います。 千年余りを経て再会するグラス。 その現場立ち会うシーンが印象的。
「異域の人」 いつの間にか西域の人と化していた班超の彷徨が、淡々とした記述の中から鮮明に浮かぶ話でした。
「信松尼記」 一番印象に残っている話し。 氏秀が景虎だと気がつくのが遅すぎる自分に愕然としましたよ。 北条家に生れ、武田信玄・上杉謙信の下で育ったという史実は改めて凄いなと思います。 でも、この話はそんな氏秀に憧れる武田家の娘の話。 戦国の数奇な人間模様が面白く哀しく。
「僧行賀の涙」 「異域の人」とも通ずる話だと思います。 解説には「悲劇」という言葉がありましたが、悲劇なのでしょうかねぇ。 悲劇よりももっと重いものを感じましたが。
「幽鬼」 本能寺へ向かう光秀の話。 波多野の怨霊によって破滅していく話ながら、怪談のような怖さがあるわけでもなく。 本能寺というのは光秀にとって避けえない道だったのだなぁと思わせます。 やっぱり本能寺と光秀って興味深いです。
「平蜘蛛の釜」 久秀というのは、茶器に並々ならぬ執着があったんだと思っていたのですが、この話ではそういう解釈ではなかった。 織田信長というのは人の憎悪や劣等感を掻き立てる人だったんでしょうかねぇ。 やっぱり興味深いです。
「明妃曲」 熱っぽく語られる王昭君の話しが印象的。
「聖者」 昔から伝わる説話として語られ、それをどう受け取るかは最後に読者に委ねられています。 これが全くの作り話ではなく、なにかの史実を含んでいる話であると、やはり考えたくなります。
歴史小説を読む時、作者の歴史への真摯な姿勢や情熱を感じるのが好きです。 この文庫、著者目録が載っているのが嬉しいですね。
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