妄言読書日記
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2003年01月15日(水) 『法月綸太郎の新冒険』(小)

【法月綸太郎 講談社文庫】

まず、私がこれから「法月氏」とか「法月」とか「法月綸太郎」とか書いた場合は、作者を指します。
「綸太郎」とか「綸太郎くん」とかとにかく、下の名前のみで呼んだ場合は、作中の名探偵を指します。
ややこしいから、まずは明確に。
あと、定番ですけどネタバレしますよ。犯人も、そのものズバリ書きますからね。

万年スランプ作家、法月氏の久々の著作。
この人の作品は、どうもいっぱいいっぱいの感じがして、痛々しいというか、辛いんだね、という気持ちになる。
もうちょっと遊び心があるのが、推理小説なんじゃないかと思うのですが。綸太郎に作者自身が重なりすぎるのもまたいかんのでしょうね。
実際の作者と綸太郎というキャラが、まったく違う物であったとしても、読み手は混同せずにはいられないものですし。

まあ、それはさておき前作の『法月綸太郎の冒険』にて、「図書館の自由」と「図書館司書の倫理項目」を学んだ法月氏ではありますが、今回はそれを踏まえて書かれたことが顕著な作品が目立ちました。
「背信の交点」と「リターン・ザ・ギフト」。
私の印象としては、図書館司書の倫理を強調してくれるのはいいのですが、いささかやり過ぎというか、もうちょっと自然に盛り込めなかったものかと思います。
元々、とかく引用好きな法月氏で、私はそういうところが鼻について嫌いなんですけど、わざわざ二本もの小説に盛り込むべき事柄ではないように思います。そもそも、前作のあとがきの考察で私は充分だったと思いますし。
だいたい、小説は小説でフィクションなわけですから、そんなこといったら、警察が通りすがりの民間人に事件の説明などするわけがないんですから、推理小説が成り立たなくなります。
だから、やり過ぎだと言うんです。

内容の方へ行きますか。

「イントロダクション」
こういうお遊び的な、文章が面白くないというのが、法月氏が万年スランプに陥る要因なんじゃないかと・・・・。

「背信の交点」
一番面白かったです。
トリックもよくできていたかと。

「世界の神秘を解く男」
印象が薄いです。

「身投げ女のブルース」
どうせなら、葛城刑事が最後まで解決してくれた方がよほど異色作。
だって、出てこないとは言え解決したのは綸太郎ですから。
葛城刑事が犯人でもいいから、例えばパパさんが解決するでも良かったと思うのですが。
私は葛城刑事、好きでしたけどね。

「現場から生中継」
内容は特に言うことは無いんですが、携帯を時計代わりにすることは別に悪かないと思います。
時計を持たない、携帯マナーが悪い、携帯依存、これらは別ものでしょう。
私は腕時計持ちますけれど、御手洗潔は持ちませんよ(どういう比較だ)。

「リターン・ザ・ギフト」
動機をきれいにまとめすぎて、鼻につくような。
それにしても、綸太郎という探偵がどうしても好きになれませんね。
親父さんは好きなんですが。
あと、久能刑事に「どういう関係なんです?」と聞かれ「さあ、僕の方が聞きたいくらいだ」というやり取りが、作中で一番気が利いていたように思います。

なんで、法月綸太郎に対してこんない辛口なんだろうか。
妙に頭が固い人だと思うんですよ。法月氏って。
親父さんと綸太郎の会話がもっと軽口めいていたっていいと思うし、穂波はもっと丸い部分があってもいいと思う。
トリックだけで推理小説が成り立つなら、推理クイズ本だって小説になってしまうじゃないですか。

要するにもう少し遊びをいれて欲しいな、ということです。



蒼子 |MAILHomePage

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