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■ 夜の鳥、枝を打つ
闇に紛れるには、まぶしすぎる。夜の黒の中に異物が混じった。窓の外をふと見て、視界にその色が映る。鼓動を抑えつける。心臓に悪い色は月明かりに似ていて、いやな条件反射が染み込んでしまったのを思い知る。 「バカか、あいつは」 窓を叩きもしない。やっと昇ってきたはずなのに、入れてくれと懇願もしないで木の枝に潜んでいる。でかいコウモリだ。少々、派手な。 「風邪ひくぞ」 声は聞こえないが口パクで、できるだけはっきりと伝えた。ギョロリと、コウモリの目だけが不自然に輝いて見えた。貪欲な光が、窓の向こうに鎮座していた。 入れてくれって言えよ。頼めよ。そうしたらすぐに開けてやる。 理事で学園長で生徒会長。建物も、生徒だって、全て自分のものなんだろう?夜にこそこそと寮に不法侵入するなんてどうかしている。自分の学校にこっそり潜り込む理由がどこにあるのか。誰の目から逃れようとしているのか。 (だからこそ、だけどな) 手を出せばすぐにあらゆる方面に知れてしまう。上に立つ者に自由な行動などないに等しい。天真爛漫に振る舞っているようで、あれほど不自由な身分もない。 上から眺めるばかりなのは、どれほど歯痒いことだろう。下から見上げる立場だから、想像もつかない。下から見上げる歯痒さを知らない彼女は、上から眺めるばかりで手を差し出せないから、こんな風に世間の目を逃れてやって来る。 迷惑だ、と最初は言った。態度にも示した。自分たちは、こんなところで逢引していい間柄ではない。隣の部屋には紗枝がいる。輝ける星が、一向に上がって来ない一剣待生を特別に思うのは、罪。 まだ窓の外には、コウモリがいる。そろそろガラスを破られそうだ。壊しておきながら、きっとあいつは素知らぬ顔して帰る。翌朝、呼び出しを受けるのは面倒なので、そろそろ折れてやるか。どうして尋ねて来る方が偉そうなのか、心底わからない。彼女が生まれつき王者だから、と言う理由で無理矢理納得しておく。 「バカか、アンタは」 白い息がわっと外へ溢れた。 「風邪ひくぞ」 かさかさと木の葉が風に揺れる。寒い。すぐさまこのコウモリを部屋に引っ張り込んで、窓を閉めなければ。 「心配してくれるのね」 「アンタに風邪ひかれたら、あたしが色んなヤツから怒られるんだよ」 過保護もいいとこの、ハチマキ娘とかに。 「責任取って」 腕を掴んでコウモリを捕獲した。冷えて髪が冷たい。足を滑らせるようなマヌケはしないだろうが、鈍重に体を寄せられて少し焦る。 「バッ、こんなとこでふざけんな!落ちるだろーが」 「神門さんは手を離さないわ」 「そうだとしても、人目があんだろーが。さっさと中入れ!!」 暗闇にすっと、赤い頬のひつぎの顔が浮かんで、次の瞬間とても重いものに飛びつかれて後ろ向きに引っくり返っていた。 頭を強く打った。 「痛い……重い……」 背丈も体重も、どれだけそっちの方が重いと思ってるんだ。しかも、その左足。 本人はお構いなしで、人の上に乗ってふんぞり返っている。 「もう来んな。二度と来んな」 「いやよ」 偉そうに、王様の一言を言い放つと身をかがめて、何かを探り出す。抵抗しても、王様には逆らえない。指先は冷たくて、正直触ってほしくなかった。やがて、したいことが見つかったのか両頬を手で掴まれる。どこもかしこも冷えているのに、ひつぎの唇は熱い。熱が移ったのか顔が熱くなる。何も言えなくなる。息を吐いたら、白くはないけど燃えるように熱かった。 「何がしたいんだ……アンタ」 夜中に尋ねてくるのは、いつか落とすはずの星。 「わたくしのこと、忘れて欲しくないだけよ」 星の方が人を求めるなんて話、聞いたことあるか。 「アンタはあたしの理由だ。忘れるかよ」 最高の褒め言葉を言ったつもりなのに、見上げた彼女はなぜか泣きそうな顔をしていた。
2007年11月23日(金)
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