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■ 終わりの日は始まりの日
テレビには、電飾で彩られた羽根を広げて、せりあがっていく歌手が映し出されている。個室内のキッチンからは湯気が昇り、中から醤油のいい香りがした。 テレビも匂いも年末ならでは。玲は体をかばいながら、ベッドから起き上がる。だいぶ痛みが和らいできたが、骨が完全にくっつくまで油断はできない。くだらない理由で(主に原因はクソチビ)確実に悪化したこともあったが、この調子なら年明けには外出できそうだ。 いつまでもじっとしている訳にはいかない。焦る気持ちとは裏腹に、冬休み中の寮内はひどくのんびりした空気。一人イライラしているのもバカらしくなる。 部屋に篭もる玲を心配してか、ケガしてからというもの、紗枝がほぼ毎日部屋に来る。包帯を替えたり、お茶を入れてくれたり。仕舞には玲の部屋に歯ブラシやタオルまで置きだして、誰の部屋だかわからなくなってしまった。 (ま……いいか) ありがたいことには代わりないのだから。 方向が少しずつずれてきているような気はするが、玲には修正する気力はない。 「もうそろそろ終わり?」 片手に菜箸を持った紗枝が、キッチンから顔を覗かせた。 「あぁ、そうなんじゃねーか?」 「曖昧ねぇ。ずっと見てたんじゃないの?」 「なんとなくぼーっと見るもんだろ、こういうのは」 一年の最後の、恒例のお祭り騒ぎ。最初から最後までじーっと真剣に見つめるようなものではない、と玲は思う。今年一年流行ったものの集大成が、数時間の間に集約されていた。 (色々あった……のか?) 長かったような、短かったような。過ぎてしまえば思い出せなくなるような瑣末なことで、この一年は満たされていた。 「できたわよ」 どんぶりを二人分持って紗枝が隣に座った。薄緑色のエプロンなんかつけている。 「どうしたの?早く食べないと伸びちゃうわよ」 「あぁ」 隣り合わせでそばを啜るのが今年の最後だなんて、思いもしなかったな。 「紗枝」 最後は白組が勝ったらしい。いよいよ今年も終わる。 「何?」 来年は、きっといい年だ。一年後は、もう紗枝と並んでそばを食べられないとしても。 「……いや。美味いよ、これ」 「あら、ありがと」 番組は切り替わって、全国各地のお寺の様子が映し出されていた。
2007年10月14日(日)
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