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■ Light
太陽の光に目をしかめる動物。 途端にまぶしそうな表情をする炎雪を見て、その場にいた全員はそう思った。続いて、視線が何となくその隣に集まる。誰も口に出しては言わないが、説明しろと言っている。普段なら、他人の視線一つで期待に応えたりしない瞑子も、思わず眼鏡を抑えた。 「……太陽の光は好きじゃない、と言ってるわ」 瞑子の通訳に、獣が不機嫌そうに呻く。3つの視線が今度は一斉に窓の外へ向かった。 「今日、曇りですよ」 今朝から一度たりとも顔を出さない、頑なな太陽。光など一分たりとも逃がす隙のないぶ厚い雲が空を覆っている。静久の言葉に、玲と紗枝も頷く。大体、今の話題に上っていたのはお天気ではない。お天気ではなくて、お天気屋な学園の頂点のあの人の話。強大な太陽の光のごとき、あの人。 静久は単純な連想だと思った。太陽のような、静久の刃友。ただ、それは静久一人が感じているイメージであって、全員の共通見解だとまでは自惚れていない。ましてや、生徒会の仲間でありながらいまいち掴めない炎雪のこと。 少々、意外だった。 人より動物に近しい戦闘狂にも、光を感じ取る力はあるらしい。 「まぁあいつは無駄にペカペカしてるからな」 まぶしいって気持ちはわからんでもない、と玲が足を投げ出す。 「神門さん、無駄にペカペカって何ですか!」 「無駄じゃねーか。突っ立ってるだけで目立つんだよ、あいつは」 「無駄じゃありません! あれこそが、会長を会長たらしめている内側からの崇高なオーラと言うものです!!」 玲に反論しながらも、静久はひつぎにはミラーボールが似合いそうだ、などと自分もふとどきな想像を思い巡らすのだった。 「獣は夜活動するものですよ」 玲と静久の口ゲンカに隠れて、まだ会話は続いていた。紗枝が瞑子に視線を送る。 「祈さんは……どちらが好きかしら」 「どちら、とは?」 夜の闇の中でだけ、本性の血が騒ぐ獣。昼の光の中では、牙も引っ込んでしまうのか、退屈そうにぼんやりと虚ろな目をしている。誰よりも獣の側にいる人間であるはずの瞑子のレンズの奥の瞳。日の光を覆い隠すような、暗い影が差して見える。 「さぁ。どうでしょう」 炎雪がつまらなそうにそっぽを向いた。まるで、食欲を失って急に走るのをやめたチーターのようだった。
『わたくしも闇は嫌いじゃないわ』 求めるもののために、いつかはこの人の前に立つ。その少し前。護衛にしておけば心強い刃友から離れた隙に、彼女と遭遇した。廊下を一人で歩く。向こうから、彼女もたった一人で歩いてくる。 目に刺さるような直線的な光が、冷えた廊下を刺し貫いた。暗闇を切り分ける、明確な光。有無をいわさぬ力強い刃物のよう。 『頂点に立つ人のセリフとは思えないわね』 いつまでも、光をまとって立ち続けるのだと思っていた虚像は、予想外に迷いなく言い放つ。 『……氷室さんは、ご存知だと思っていたわ』 『何?』 太陽に祝福される者は、全ての原理を知っている。
その日は、夜が更けても曇りのままだった。暗くなってしまえば、ぶ厚い雲も存在を隠す。廊下を歩く。先行く炎雪は、真っ直ぐに自室へと向かっている。 「あなたは、闇が好きなのね」 だから、自分を選んだ。光を嫌い、闇を好むなら、それ相応の人物が必要だ。炎雪は振り返らない。聞いているのか、いないのか。日本語をどこまで解するようになってしまったのか、時々こうしてテストしては、一人可笑しくなる。 「メイ」 早足を少しも緩めず、ここでは他に聞くことの出来ない発音が耳に届く。 「知っているか」
『光は闇、闇は光だ』
肩を掴もうと手を伸ばしたら、突然駆け足になる。空振りした瞑子の手を、炎雪の熱い手が掴む。 「……違うわ、炎雪」 貴女の国ではそうだとしても、ここでは、この世界では違う。 「光は、光よ」 なぜかあの人を前にした時と同じように。 炎雪は眉をしかめた。
2007年05月08日(火)
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