池ポエム
ハンス



 気持ち的にはマジですが(綾クロ)

 肩をがっしりと組んだ二人から、ピンク色でハート型なオーラが出てる。場所が場所なので、危険だからなるべく早く回収してほしい。
 風呂上がりっぽい寮の生徒たちが次々と綾那の部屋を訪ね、非常に怯えながらそんな内容を告げていく。来る人来る人ほぼ同じことを言うから、うんざりして最後の方は顔に出てたのかもしれない。ドアを開けた途端、そのまま「失礼しました」と閉めて逃げてしまう人もいた。
 「鬼か、私は」
 あんまりといえばあんまりな同級生のリアクション。が、鏡を見ると確かにそりゃ逃げたくもなるわな、と納得してしまった。鬼っていうか、ナマハゲに近い。もうこれは、包丁の代わりになる物を持って問題の二人をすみやかに撤去するしかない。
 綾那はやりかけのゲームをセーブして、立ち上がった。

 一方、こちらは現場。天地の剣待生寮の、風呂場の前。ここから学年別に分かれて、入り口かいくつかある。まさに分岐点で、学年をまたいで付き合いがある刃友といえども、ここまで来たら別れざるをえない。そんな無情できっちり分類された空間。
 桃色二人組は分岐点でちっとも分岐しないで、隅っこの方で何やら話し合っていた。
 「うううう〜〜〜ん」
 頭のてっぺんに??マークをたくさん浮かべて考え込むはやて。考え事なんて性に合わないらしく、考えているというよりただ唸ってるだけに見える。その横で、順ははやての肩にちゃっかり腕を回した。
 「ほら、今出てきた子なんか1年生なのに大人っぽいよねぇ」
 ほかほか状態の生徒たちを、二人してじっと凝視する。
 綾那は二人からは死角になっている位置に身を潜めて、あやしい二人の様子を観察していた。というか、風呂場に入っていく人や出てくる人を二人揃ってじっと眺めるなんて、あやしすぎる。これは苦情が来ても仕方ないな、と握った釘バットに力を込めた。
 「あの淫魔め……クロに覗きのやり方でも教えてるのか?」
 最近、綾那が目を離した隙に、はやてに何やら吹き込んでいるらしい。それだけならともかく、どうも二人の距離が近い。近いというか、触れている。
 「……ちっ」
 眉間のシワが深く刻み込まれて取れなくなってしまわないうちに、綾那は行動を開始した。二人の真後ろにそっと忍び寄る。はやてはともかく、順が気づきもしないのは前方に夢中になっているせいだ。
 「でもさぁ、じゅんじゅん」
 はやては順の獣の目にまるで気づかず、呑気にまだ悩み続けている。
 「じゅんじゅんが1年生のお風呂に入っても、バレちゃうんじゃない?」
 ズザー。綾那は足取りがもつれて前方へ華麗にスライディング。さすがに気づかれたかと思ったが、まだ二人は後ろで倒れている綾那に気づいていない。
 「チッチッチッ」
 順は人差し指を振ってハードボイルドに語り出した。
 「それが違うんだなぁ。いい?はやてちゃん。はやてちゃんたちは1年生で、あたしらは3年生。つまり、3年生は知らない顔がいたらすぐに他の学年の子が入ってるってわかっちゃう。付き合いが長いから寮内で知らない人なんてそうはいないからね」
 でも、と力強く言い切る。二人の前を、一年生らしき二人組が通過して風呂場へ入っていく。
 「今の子、はやてちゃんは知ってる?」
 順の質問に、はやてはうーうん、と首を振った。
 「見たことある気がするんだけど」
 「ね。一年生なら、自分が知らない人が入ってても、自分が知らないだけなのかもって思うじゃない」
 「そっかー。あたしは転校してきたばっかりだから、余計にわかんないや」
 大体、そこまでの話で順が何を狙っているか察しがついた。
 (バカ、アホ、淫魔!つーかクロもだまされるなっ!単純すぎるぞっ!!)
 心の中で悪態をつきまくる。真後ろで殺気を飛ばす。
 「もし万が一見つかっちゃっても、あたしの久我流早着替えの術で逃げればなんとかなるし」
 「えー!?じゅんじゅん、すごーい!!手品みたいっ!!」
 (見たことないぞっ、アンタのそんな特技っ!)
 はやてと風呂に入ることを狙うこの獣の理屈はいささか強引だった。三年風呂に一年のはやてがいたら、すぐバレてしまう。じゃあ逆に、一年風呂に三年の順がいたら?
 聞くまでもなく無理に決まってるのだが。あまりにも簡単に説得されがちなはやては気づいていない。時々、バカにもわかるように親切な説教をしてやるが、もしかして相手が誰であろうとそれっぽい説得されるとなんとなく納得してしまう性質なのかもしれない。
 綾那は、今後知らない人にはついていかないように厳重に言い含めようと思った。
 (あ、でも順は一応“知らない人”じゃないしな……)
 難しいのは、はやては順のことを信頼しきっているところ。
 (私の言うこと以外は聞くな……って、それはちょっとマズイな)
 端から聞いていると独占欲が強すぎる夫のセリフみたいだ。綾那が一人で赤くなったり青くなったりしていると、はやての邪気のない声がした。
 「それ見せて!その、はやきがえっていうやつ!!」
 「見たい?」
 表情は見えないけど、何か背中からピンクのオーラが増量した。
 「じゃあ特別に実践で教えてあげよっかな〜?」
 「ホント!?」
 これからの展開が読めて、思わず綾那はフルスイングしていた。


 血染めの風呂場前事件。
 後に剣待生寮で伝説となった。伝説の妖怪、釘バットを持ったナマハゲは、他学年の風呂に入ろうとする生徒を見つけると、手にしたバットでロビーが血に染まるまで殴り続けるという。
 こうして、他学年の風呂に入ってはいけない、というルールは一層強固なものになったらしい。
 多分。

2006年11月19日(日)



 ひつぎさんウィーク終幕

 額がぶつかり合うほど近い。目の前で頬を紅潮させて熱弁を奮う姿は、微笑ましくて思わずじっと見つめてしまう。口元が緩んでしまいそうで、さりげなく顎に手をやった。幸いにも、正面の静久は玲の様子など気にもかけずに、アルバムを指していかにひつぎが可愛いかを語っている。
 「これが9歳の誕生日で、こっちが10歳。その隣が11歳……」
 「わかるかっ!!」
 細かな違いをわかれを言う方がどうかしている。玲に怒鳴られて、静久は目をパチパチさせた。
 「え……これほど成長の過程がはっきりわかる写真はありませんよ?」
 「どれもほとんど変わんねーだろ」
 子供の成長は変化が早いとはいうが、ほぼ同じシチュエーションで1歳2歳違うだけの写真を見せられたって、わかるのはひつぎバカの静久ぐらいだろう。もう一人、ひつぎバカはいるけど多分そいつもわかるに違いない。が、玲はひつぎバカではないのだ。どっちかと言うと関心はあるけど好意のバロメータは低い。
 「可愛らしい会長が、次第に大人っぽく凛々しくなっていく様子が神門さんにはわからないんですか?」
 まるで珍獣でも見るような目つき。どっちか珍獣なんだか。
 「お前がひつぎのこと、どういう目で見てんだか考えると頭痛ェ……」
 とてつもない色眼鏡もあったもんだ。写真の中の金髪の子供は、頬にひっかき傷なんか作って、元気いっぱいに笑っている。他の写真では腕や足に絆創膏を貼っているのが見えた。
 「こいつは本当にひつぎかよ?」
 今の姿からは、少々、いや大幅にイメージが異なる。
 「面影があるでしょう?」
 「そうかぁ?」
 静久は、思い出の中の刃友に目を細めた。その表情で、確かに写真の子供が傍若無人な天災生徒会長の子供時代だとわかる。静久は今も昔も、彼女にしかそんな顔を見せないのだから。
 写真のひつぎの隣には、必ず赤みがかった黒髪の少女が一緒に収まっている。玲は、そっちの方は誰だかすぐに察しがついた。
 「こっちはお前だろ」
 「はい。……私はわかるんですね」
 「あぁ。全然変わってねーから」
 「……」
 上目遣いで、睨まれた気がする。不服そうに口を尖らせて、下を向く。
 「?何だよ」
 ひつぎの隣で、もしくは隣にいなくても写真の中のひつぎはきっと近くにいるだろう静久に向かって笑っているのだ。この笑顔は全部静久のもの。今も昔も。
 「あたしは誘拐するならお前にするけどな」
 「はぁ!?」
 なぜか不機嫌になってしまった静久を励まそうとしたら、変な言い方になってしまった。
 「やめてくださいよ、物騒な例えは」
 「いや、そうじゃなくてだな……なんつーか」
 言いたかったことはそうじゃないのに、うまく言葉が見つからない。
 「ひつぎのヤツはガキのくせに一筋縄じゃいかねーって言うか」
 「私が単純だってことですか?」
 いかにもやんちゃそうなひつぎに肩を抱かれて、困惑しつつもカメラに向かって微笑む静久。玲は、その写真だけは脳に焼付けようと思った。
 「あ、あれだ。お前の方が可愛い……!」
 やっと想いに照準が合う言葉が出た。つい身を乗り出してしまう。静久と目が合って、二人して同時に息を飲む。その瞬間、何かとんでもないことを言ってしまった予感がどっと押し寄せた。
 「……今、なんて」
 「あ、その、そうじゃなくて」
 耳のいい静久が、至近距離で聞き逃すはずもなく。耳たぶが赤くなっているのですぐわかる。玲は口を開けたまま、言葉が出ない。
 気まずい沈黙が生徒会室に流れた。
 「私も誘拐するなら、静久にするわね」
 「うん、あたしも紅愛にさんせー」
 どこから聞いていたのか、紅愛とみのりが現れて静久誘拐派が3名になる。その後、紗枝が顔を出して4名。最終的にはひつぎ当人が加わって5名。
 わいわいするうちに、玲と静久の間に流れた変な空気は霧散していた。6人の騒ぎの影で、玲はひっそりと息を吐く。
 「……ライバルが多すぎんだよ」



 あれ、ひつぎさんの誕生日を祝うはずが、玲静風味で幕引きとなってしまいました。オレらの総大将、ひつぎさんを今後も担ぎ上げていく気満々で、これにておしまいといたします。

2006年11月11日(土)
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