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■ 花泥棒
じーっと。生徒会室の来客用のソファに自分の刃友を寝かせて、その正面にしゃがんでいる生徒会長が一人。 「何やってんだ?アンタ」 暇つぶしに訪ねてみたら、広い空間の片隅に緑がかった金髪が見えて、玲は近寄った。 真後ろに誰が立ったか振り向かずに察知した会長は、そのまま片手を上げる。あいさつとも取れるし、それ以上近づくなと制したようでもある。 背中越しに、ソファに寝ている人物の顔が見えた。トレードマークのハチマキがないのはめったに見れない貴重な姿。そのハチマキをきれいに畳んでテーブルの端に置いた犯人は、突然振り返って玲の視界を塞いだ。 「見えねーだろが」 「当然です。見せたくないのだもの」 「何?」 相変わらず訳のわからないことを真顔で言う。背は向こうの方がわずかに高い。無意味に力強い視線を合わされて、玲は根負けした。 腹いせに会長がしゃがむ隣のソファに、どかっと座ってやる。 「宮本なんて見飽きてんじゃねーのか?」 何せ付き合いは古く、八年前に遡る。この二人のことは色々と調べた。わかったのは異常なまでの絆の強さ。 「神門さん、ご飯はお好き?」 「は?」 食べるのは好きか、と聞いているのかと思った。 「いや、改めて聞かれると……」 「わたくしは好きよ。やはり日本人の心の故郷なのかしらね」 日本人離れした顔が言うセリフとは思えない。ミスマッチなその言葉に、玲はようやく質問の意図がわかった。 「米、か」 「えぇ。生まれてこの方、毎日食べても飽きないのは不思議ね」 飽きない。会長が言いたかったのは、その四文字に尽きるらしい。もったいつけた言い回し。玲の口は自然への字になる。 「……ノロケるんなら、壁に向かってでもやってくれ」 眠れる姫を見つめる瞳は、穏やかで優しい。 「疲れてんのか?宮本」 「無理をし過ぎるのが玉に瑕です」 会長は静久を、玲はそんな会長の珍しい顔をまじまじと見る。剣を持った時の闘気に満ちた顔や、大勢の前に立つ凛とした顔とは違って。 (そういう顔してりゃ、少しはマシなのにな) みんなのこの人だから、それは無理な申し出というものだけど。 「間が悪い……いえ、むしろ絶妙と言うべきかしら」 「ん?」 できるだけ声を潜める。悪いことをしてる訳ではないのに、何やら後ろめたい。目を覚ましたら、静久は仰天するだろう。少し怒られるかもしれない。 「わたくしの為を思うなら、退室してくださらない?」 また、意図の掴めないことを言う。玲が?マークを浮かべていると、静久を指して、 「二人きりにして、と言ったらわかるかしら」 「なっ!」 今度ははっきりきっぱりわかった。 「何する気だよ……」 この部屋に入った時、帯刀もおらず、静寂の中に二人がいた。一人は眠る人で、一人は起きている人で。 「宮本もおちおち寝てられねーな」 「そうでもないわ」 野獣の前でいつまで大切に保存されたままでいられるのか。皮肉とイヤがらせを込めて、立ち上がらずに座り続ける。会長は、玲を見て、また視線を戻す。 「わたくしはこれでも、逡巡していたのよ」 逡巡。考えを巡らすこと。エサを前に、何事か考える。獣ではなく、人間だと訴えたいのか。 「……アンタが手ェ出せない物もあるとはな」 「この世と限定するなら、ほぼ唯一の者でしょうね」 「自分で言うなよ」 王の心を縛る花は、何も知らずに眠り続ける。玲は、傍らの王様が急に可愛く思えた。 「ご大層な花にしてんのは、アンタの気の持ちようなんじゃねぇの?」 花が花であるように、王が王であるように。この二人は、当人同士がそう望んだ。だからタチが悪い。 「摘まれたって構うかよ。ずっと、そう思ってるぜ、こいつは」 「……随分、大胆な発言ね」 視線は花に釘付けになる。 「良い意見をありがとう」 「言っとくが、応援なんかしてねーからな」 常日頃、異様に決断の早い人間がガラにもなくグズグズしているところを見たくないだけだ。我ながら変な理屈だと思った。 「今日は、特別だ」 喉の奥から飛び出しそうな言葉を、ぐっと飲み込んだ。
2006年11月10日(金)
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