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■ 早起きは16文キック体験記
教室で玲が読んでいる本の表紙を見て、とりあえずギョッとした。 「またあやしげなモン読んで」 横から本を取り上げてやったら、玲が不機嫌そうにこっちを向いた。カラフルな表紙には、ピンク髪の小っさいのと怒らせたら怖そうな眼鏡の少女が描かれている。 「5巻出たってのに、今更4巻?」 「いーじゃねーか、復習は大切だぞ」 何の復習なんだか、と玲が開いていたページに目を落とす。「よっす!」とか軽快にあいさつしてそうな相方のプロフィールがばばーんと載っていた。 「玲……みのりにそんなに興味あったんだ?」 「バーカ。ンなわけねーだろ。たまたまだ、たまたま」 「どうせなら私のページでも熟読したら?」 「なおさらゴメンだね」 さらりと失礼なことを言う。冗談半分の言葉通り、半分は本気だったので少しだけカチンときた。素振りに出すと悔しいから言わないけど。 「気になるっていやあ」 興味がないと言い切った割に、玲の手が本に伸びる。ページを二人で覗きこむ格好になって、玲はある部分を指さした。 「これってどーゆー意味だ?」 みのりの好きな言葉、早起きは16文キック。 「よく聞かれるのよねー」 「なら注釈でもつけとけ。いちいち気になるだろーが」 本人に直接聞いても的確な答えが返って来ない気がみんなするのか、紅愛のところにこの質問は集中した。みのりのことならなんでも把握してると思われているらしい。 「行ってみりゃわかるわ」 「どこへ?」 「早起き」
と、いうわけで。早朝5時。玲は今、みのりの部屋の前にいる。横で紅愛が目をこすりながら突っ立っている。声を潜めて、マイク片手に突撃。するはずなのに覇気がない。 「ったく、なんであたしが野生児の寝起きなんかわざわざ拝みに来なきゃなんねーんだ」 「あら、結構かわいいわよ」 さっきまで起きてるのか寝てるのかわからないような状態だった紅愛から、急にはっきりした声が飛んできた。言ってることもなんか変だ。普段なら、他人に面と向かってのろけたりしないのに。やっぱりまだ脳が眠っているのか。 ドアノブに手をかける。 「じゃ、適当にがんばってね〜。危なくなったら骨は拾うから」 「すでに最終段階かよっ!」
室内潜入成功。ちなみに、みのりのルームメイトには話をつけてあって、何があっても危険はないから安心して寝てていいよと言ってある。 「お、いたいた」 下のベッドで、自分の巣で丸くなってるタヌキみたいな生き物発見。持ってきたペンライトでデコを照らしてみる。起きる気配はない。 「……こいつの目ってどうなってんだ?」 好きな言葉と同じくらい、疑問を抱かれているだろうみのりアイ。寝てても起きててもあんまり変わりはない。授業中、寝てても起きてるのと勘違いされて怒られずに済むかもな、とちょっとうらやましくなる。その逆もありうるけど。 おもいきってまぶたを引っ張ってみようとしたら、指を近づけた途端に。 「うおっ!」 口がカパッと開いて、特徴的な八重歯が覗く。そのまま手近な玲の指に襲い掛かった。 「マジで犬みてーなやつだな」 うかつに手出しするのは危険だ。みのりで遊ぶのはやめにして、そろそろ本題に入ろう。 「おい、起きろ」 ゆさゆさと力いっぱい揺すってみる。十分騒ぎすぎたのか、二階のルームメイトがぼーっとした眼差しでこっちを見下ろしていた。 「悪ィ。朝から騒いじまって」 「いいけど……みのりならお腹空いたら自然に起きるよ」 裏を返せば、それ以外ではしぶといよ、と言いたいらしい。ちっとも起きる様子がないので、玲は無理やり体を縦にしようと手を伸ばした。その時。取材班は見た! ヒュォッ!! 玲の顔の2センチ横を、空気の刃が通過した。ツー、とお約束のように薄皮一枚が切れて、線のように細い血がぽっかり浮かび上がる。手で拭って確かにそれが血であることを確認。慌てて距離を取る。 「な……」 「見たでしょ、今の」 「うわあっ!」 いつの間にか隣に紅愛が座り込んでいる。 「お、お前もどっから現れた……??」 「それはともかく、アレがみのりの隠し必殺技『16文キック』よ」 朝早くに起こそうとすると襲い掛かる、かまいたちより速い蹴り技。小柄でも強靭な足腰を持つみのりならではの、しなやかなバネが制御不能の睡眠状態に暴走した時だけ放たれる、らしい。 「つーことは、“早起き(させようとするヤツに)は16文キック”ってことか?」 「包み隠さず全部言うとね」 「最初から口で言えよ。物騒なモン体験させんな」 「玲なら死なないと思って」 その後、紅愛が近づいてってドーナッツで釣ったら半睡眠状態にもかかわらず、みのりはばっちり食いついてきて無事起床。 玲はこの二人には二度と関わるまい、と心に決めたのでした。めでたしめでたし。
絶対こんな由来じゃない
2006年08月21日(月)
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