 |
 |
■■■
■■
■ 綾那争奪戦6
ケース6「はやてと綾那の場合」
広場に死屍累々と剣待生たちが倒れ伏している。その中央に、はやてと綾那の姿はあった。死闘の終わりを告げる鐘の音が響く。 肩で息をしながら、綾那は刀を収めた。 「ったく、なんで私がこんなことを……」 「あやなが連れて来たんだよ……」 いつもは元気爆発でピンピンしているはやても、横でどべーっとひっくり返っている。二人の今いるところはBエリアの外れの方の原っぱ。ここまで追っ手を適度に倒しながらたどり着くという作戦は、なんとかうまくいった。 「でもやったね」 はやてが倒れたまま、片手だけでガッツポーズをする。 鐘が鳴った直後、綾那とはやてはBエリアまでダッシュで移動し、その後を綾那捕獲団体のBランカーたちが追いかけるという妙な構図だった。走りながら、綾那は大変なことに気づいた。 「まずいな」 しかし冷静に、一人呟く綾那。先にダーッと駆けていくはやてはその小さな呟きを耳にして、綾那の真横まで近づいて顔を覗き込む。 「何がまずいの」 「あぁ」 一つ呼吸を置いて、後ろの追撃者たちに聞えないように囁いた。 「刀がない」 二人の足が、Bエリアに入った。
追撃者たちの地の剣が一斉に綾那に向かって振り下ろされた。 「聞こえたかっ」 素早く身を翻して全ての刃をかわす。綾那がはやてを見ると、ニッと余裕の笑みを見せた。 「クロッ、そういう訳だからアンタはさっさと星を奪れ、できるだけ多く」 天の星が奪られない限り、勝負は負けにはならない。今日の綾那は誕生日だ。刀さえなければ、はやて以外の誰かと強制的に組まされる心配もない。何しろ刀がなければ話にならない。 「それであやな、刀を置いてきたの?」 はやてはニッコリ笑って、綾那を見た。なぜか悠長に構えて、抜刀しないまま。 「あぁ、そうだ。というか、本当は手近になくて」 頭突きのダメージから回復して起き上がった時、真っ先に探したのは眼鏡、次は刀。少し見回しても見当たらなかったから、刀を置いていくという選択肢を思いついたのだ。 会話している間にも、次々と剣待生が襲い掛かってくる。 「何してるんだ、さっさと刀を抜け」 綾那がはやての方に気をとられた隙に、剣待生Aが背後で振りかぶる影が映った。 「呑気にお話なんてしてる暇あるの?」 「くっ!」 剣待生Aが綾那を捕える。逆サイドに剣待生Bが現れ、さすがにかわしきれない。散々人に組ませろとストーキングしておいて、標的になった狙い打ち。 「ろくでもないルールだな」 地の星を諦めかけたその時、はやてがあるものを放り投げた。しっかりしたストレートで剣待生Bの後頭部にヒットする。そのままバウンドして、いい具合に綾那の手に収まった。 「クロッ、あんたが持ってたの」 「ごめん。あやなの刀持ってたかったんだ、今日は」 受け取ったばかりの刀には、いつものようにしげ美がぶら下がっている。綾那を囲んでいた剣待生たちが一気に動いた。間髪なく刀が抜かれて、目の前にあった地の星を四つ奪う。激しい打撃音がして、人の輪が崩れ地面に人が転がる。 「さて、散々人のこと弄んでくれたから、お返ししようか」 Bエリアでの死闘が始まった。夢中を剣を奮ううち、目の端でダンボールを脱ぎ捨てるはやての姿が見えた。 そのダンボールも今は踏まれてベコベコのヘロヘロになっている。 「まさかその下に刀持ってたなんてね」 綾那も呆れ顔になっている。 「ごめん、あやな」 はやては起き上がってバツの悪そうな顔をした。刃友の刀を持っていること。それが何となく不安な今日を守ってくれる気がして、順に聞いてみたのだ。彼女は、後で綾那に言っておくよ、と承諾してくれた。 「そっか」 珍しく小さく縮こまるはやてを見て、綾那は珍しくバイオレンスな気分にはならなかった。それどころか、小柄な刃友に優しくしたい。変な自分。そう心では思いながら、はやての手をそっと取った。 「心配しなくても、私はあんた以外と組みたいとは思わないから」 前はゆかりと組んでいた。唯一無二の、他にはいない自分だけの刃友だと思った。相手もそう思ってくれていると、勝手に思い込んでいた。絶対なんて事、世の中にはそうはない。あの頃より年を取って、成長したのか達観したのかわからない。まだ諦める事はできなくて、焦りながら無様に前へ進むことを考えている。 はやての手を握る。 「どこにもいかない。最初に付き合うって約束したでしょ」 せめて目の前の相手の行く末を見届けるまでは、まだ。 「あやな、誕生日おめでとう」 はやてが腰にしっかり抱きついてきて、きつく抱きしめられた。
2005年09月25日(日)
|
|
 |