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■ 君の背を計りたい
いつものように、並んで町を歩く。何かいいことあったのだろうか。隣にいる君は機嫌がよさそう。そんな風に思っていると、全然そうでもなかったりする。自分の予想は当たらない。特に、君に関しては。
二、三日町での仕事が続いたから、余計な洗濯物や怪我が増えなくて嬉しいんだろう。そんなぐらいに考えていた。 「何か、いいことあった?」 気になることは直接聞くに限る。職業柄、調べ物は日常茶飯事だが、そんな時も百聞は一見に如かず、だ。師匠同然の白熊男の口癖だった。 アレコレ推測するのは性に合わない。前にそう言ったら、同じ仕事をしている知人に呆れた顔をされた。 「どうして?」 彼女は質問に真っ直ぐ答えることはあまりない。知りたいことはいつもはぐらかされて、気づいたらよくわからない所に落ち着いている。それでもいいのは、自分が驚くほど忘れっぽいから。 「さぁ。なんか嬉しそうだから」 「嬉しそうだなんて」 一言も言ってないでしょ。気持ちを先読みしても、この一言で返される。言われてしまうと返す言葉もない。確かに何も言ってない。 でもいつも思う。言った事だけが本当だろうか。 「見てりゃわかるよ」 眼で見ることは、何よりも大事だ。それだけでわかる情報は多い。仕事で縁のある中年女性の集団なんか、会うたびに誰でもそう言う。眼を磨け、と。 中年女性の集団の顔を一人一人思い出していたら、並んでいたはずの彼女は少し後ろに下がっていた。2メートルぐらい距離ができる。 「どうした」 「アンタ、背伸びたね」 「ん?」 なんとなく、手を頭に当てる。ゴーグルで2センチは嵩増ししているだろうといつもからかわれる頭も、今日は何もつけていない。正真正銘、自分の身長。改めて見ると、二人の視線はぶつからなかった。 そういえば出会ってからどれだけ経っただろう。 「今、いくつあるの」 身長なんて、もう何年も計っていなかった。大体身長を計る道具は、現場で使ってる巻尺ぐらいしかない。 「アリッサはいくつ?」 「さぁ」 知らないのはお互い様だった。 「さぁって、それじゃわかんねぇよ」 相手の身長を目安にして、プラス3センチぐらいしようと思っていたのに。 「よし、久々に計るか」 そう言ったら、彼女の瞳が少しだけ大きく開かれた。 「計るものなんて」 「だいじょーぶ」 ポケットからとっておきの道具を取り出す。計るといえば、これしかない。 「15センチ定規で人間計れるわけないでしょっ!このバカ!!」 「いって!!」 みぞおちに思い切り定規が突き刺さった。素早く奪い取られて刺されたらしい。 「竹だぞ、それ」 素材を自慢したら、頭に定規が飛んできた。 竹は他のものより使い勝手がいい。これは本当。 「おーい、じゃどうするんだよ」 「せめて巻尺使いなさいよっ」 足早に立ち去っていく彼女の背中を追いかける。背が変わっても、年が変わっても、後姿は変わってなかった。 巻尺でもなんでもいいから、帰ったら計ってやろう。
2005年09月06日(火)
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