池ポエム
ハンス



 耳鳴り

 部屋の中は静まり返っていた。外からセミの声が止むことなく続く。永遠に鳴き止みそうにないそれが、焼けたコンクリートの壁に反響する。
 気づいたら部長がすぐ後ろに立っていた。
 「なに」
 じわじわと頭の中に音が染み込んでいく。知らぬ間に、深いところに埋められて、いつも終わらない音となって奥で響く。
 「そっちこそ。さっきから呼んでるのに」
 わざと頬を膨らませて拗ねた素振り。もう子供は半分ぐらい卒業しているのに、いつまでも彼女は子供のようにしている。それがなんなのか、知っていてもとても言えない。
 永久に在り続けるようで、実は似たような違うものが生まれ続けている。
 「じーんない」
 シャツの袖を引かれた。
 「だから、用があるならそこで言えば。聞いてるから」
 「本当に聞いてるの」
 空を支配する音に混じって、かすかな雑音のように感じた。空気の隙間をわざわざ一定量で、吹き抜けていく。陣内はもう彼女の方に向き直っていた。
 頭の中がうるさかった。
 部長の瞳が鈍く光る。
 「ねぇ」
 彼女の頭をそっと撫でた。お互い、遠慮がちに手を伸ばしていた。
 夏の教室で。セミの声を聞いて。部長の顔の隅々まで、ピンセットで蝶の標本に触れるみたいに。

2005年07月22日(金)



 続・保健室の用途

 「……うーん」
 「さぁどうしたどうした、静華さんの負けかなぁ?」
 何周しただろう。あらかた出尽くして頭を抱える静華と、対照的に余裕ではやしたてる玄。時刻は先程からきっかり20分経っている。20分続いただけでも上出来だと、静華はついに手を上げた。
 「降参」
 「えー。もうちょっと粘ろうよ。静華さん、諦めよすぎ」
 どうでもいいことに必要以上に粘りを要求される筋合いはない。もう降参と言ったら降参だといわんばかりに、さっき持ってきた麦茶を一気飲みする。
 「朝から余計なことで頭使っちゃった」
 「まぁまぁ」
 「で、全部でいくつ?」
 玄はやり取りを進めながら、さりげなく手元のメモに出た単語を書き付けていた。
 「意外と少ないよ」
 「あんなにかかったのにね。あ、考えてる時間が」
 「うん、長い」
 コンピューター相手の将棋の思考時間の長さ。あれを思い出す。ああいうのに似て、相手を待つ時間は恐ろしく長く感じるのに、自分の時間はどんどん過ぎていくのに気づかない。時計は11時を指した。
 「でもなんだかんだ言って、必死にやったおかげでおもしろい答えが出てる」
 玄の差し出した箇所には、寝る(別の意味)と書かれていた。
 「別の、ってことはこれの前に同じ答えが出てるんだ?」
 しかも協議の末、こちらの「寝る」は前に出た「寝る」とは違うので有効である、と。
 「やっぱさぁ、保健室といったら」
 玄がエロい目をしている。
 「でもさ」
 あえて口で言わなくても以心伝心。静華は目を逸らしつつ、違った角度から考えてみた。
 「普通、保健の先生がいるのに」
 「いないことが多いよね。あれ、不思議。都合よくいなさすぎる」
 もしくは、始めはいるのに、呼ばれて途中で出ていくケース。
 「実際保健の先生がどんだけ保健室にいるかは、わかんないけど」
 「玄でもわからないんだ」
 「そら私だって、24時間張ってるわけじゃないんだよ」
 たまには屋上で昼寝もするし、と笑いながら言った。
 「学園モノなら、絶対保健室あるからどんな作品でも一回は書けるんだよね、このネタで」
 「本編で出てきたことがなくても、か」
 風に吹かれて、メモが床に落ちた。最後の単語は、「かばんを持ってくる」だった。それは用途ではないのでは、と思ったが今更どうでもいいことだ。
 「玄が最近見た保健室ネタは?」
 「ん?」
 腕組みをして、結論に満足したのか深く頷いていた玄が目を開ける。
 「あぁ、あれ、ちゃんと本編公式の保健室で」
 「へぇ」
 「いい感じの二人のやり取りなんだけど、撮影されてんの」
 手がすべって、お盆の上で空のコップがこけた。
 「それ、軽く引っかかりそうだね」
 「訴えられたらね」

 百合姫発売記念っす。しかしまだ買ってない。意外にも置いてなかった、いまじん。どこ行ったらあるのかのぅ(専門店除く)。

2005年07月17日(日)
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