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■ 君が好きで
気づいたら夕方になっていた。部屋から出ようとドアに近づく。手がノブに触れようとして、一瞬何か嫌な予感がした。明らかに尋常でない足音が向こう側に響いている。 そして、全身に大きなものが体当たりしてきて、部屋から出るどころか奥のソファまで吹っ飛ばされて今に至る。その大きなものは自分にしっかりまとわりついて離れない。そろそろ帰りたい。素直に口に出したかったが、この状況では憚られた。録画するのを忘れたテレビ番組のことなんかが頭を過ぎる。 熱く、柔らかい彼女の体はどこか遠い出来事よう。 「ねぇ」 一時間ほどそうしていて、初めて声をかけた。 彼女は顔を上げない。泣いているのは最初から知っていた。猛然と部屋に飛び込んできた時、すでに瞳は濡れていた。 「ごめん。ほんと、ごめん」 何を言ったらいいものか、この部屋で半日ほど考えたけど、気の利いたことは思いつかなかった。謝ることしかできない。自分よりずっと大きな体で抱きしめてくるから、全身彼女に覆われているようで、もうそんな資格はないのに、申し訳なくなる。 「……とに、どうしたら、うちは」 鼻をすする合間から途切れ途切れが本音が零れた。 「普通なんだよ。すごく、普通なの。私は」 使い慣れない昔の話し方は、全てが終わったことをより一層はっきりさせる。言わなければよかった、と後悔する。せめていつもみたいに言っていれば辛さは半減したのに。 「もう、行かせて」 指をひとつひとつほどいて、力を無くした彼女の腕はだらりとソファに垂れた。夕日もあらかた沈んでいた。薄暗い部屋に泣く彼女を残して、自分は行かなければ。ここで、振り返って、嘘だよって言ってうるさいぐらい笑って、泣いてる彼女は笑い、バカヤローってどつき合って、また何も変わらない明日が来ればいいのに。 テレビのニュースはこの可能性を全てかき消して、現実だけを映している。
2005年04月16日(土)
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