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■ 空白の一日
「浅葱、行ってくれるかな」 間接的な言い回しをする子供、なんてあまり可愛いものではない。窓を背景に、腕を組んで物憂げに話す十代前半なんてもっといやだ。 浅葱はあからさまに従姉妹を睨んだ。 「そんな怖い顔しないでよ。まだ慣れないけど、一応社長なんだよ」 「わかってる。これは癖だ。気にするな」 「気になるんだってば。浅葱、目つききついから」 余計な一言を加えたので、さらに目を細めてやった。 「陸路のところに」 「断る」 目の前にいるのは、五つ下の従姉妹。一族内でも可愛いと評判の、整っていてなおかつ愛嬌のある顔で、それなりに小柄でいたいけな容姿。しかし、浅葱は可愛いと思ったことはあっても認めたことは一度もない。そう、お願いされても総却下。 今まではそうしてきた。 「頼むよー」 数ヶ月前に社長になって、慣れない正装をしてウロウロ歩き回るようになってからも、関係は変わるはずもない。いきなり立場の差ができても、向こうもこちらも以前と同じだった。 「それは、社長としてだろう?」 子供っぽい顔つきが、一瞬にして引き締まる。真剣な顔になると、瞳は猫の目のようで、人を真っ直ぐに射る。 嫌いな顔だ。 「そうだね」 彼女の母親もそうだった。明るい顔と、怖い顔。落差の激しいところ、そのどちらも本当でしかないところがあまり好きになれない。 「怖い声で、命令してもいいんだけど」 奥のドアが軋んだ。すぐに飛び出してこれるよう、控えているのだ。それだけ用意周到なのに、隙だらけのふりをする。 「アニーだよ。アニー以外は誰もいない。本当だよ。知ってるだろ」 忠実な下僕を一人側に置いて、後は誰もいない。厳重に見えて、空っぽの部屋。それが社長室。先代のやり方を踏襲しているらしい。 「アニーか」 お互い、少しため息をついた。 「陸路は、やっぱりいないとダメなんじゃないかな」 「それは全体の意見か」 「ううん、私の」
2004年05月17日(月)
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