池ポエム
ハンス



 大人会議

 「でもさぁ、千歳さんいきなり思春期の子供を持つ親になったねぇ」
 「そうだなぁ。まさか産む前に10代の子持ちになるとは思わなかった」
 「千歳さんの、親?っていうのかな。三鞍さんもそうだったんでしょ」
 「うん。確か、19ぐらいだったって言ってた」
 「そういうとこはそっくりなんだ」
 「別に意識してたわけじゃないんだけどな」
 「子は親に似るもんだよ。無意識のうちに」
 「じゃあ、佑が私に似るのかな」
 「うわ、それはかわいそう」
 「何で」
 バー泥舟?
 「千歳さん、いくつだった?」
 「えーっと、13ぐらい。陸ちゃんは」
 「おんなじくらい。きっと佑ももうじきだよ」
 「子供が生める体に、ってやつか」
 「そんな言い方もあるねぇ」
 「もし、さ」
 「ん」
 「佑がそういうことに興味持って、色々やったりしたらどうすりゃいいのかな」
 「そういうことって、何」
 「平たくいうと恋愛にまつわるアレコレ」
 「あぁ、そういうことか。どうすりゃいいったって、わかんないよ。子供育てた経験なんてないんだから。自分を振り返るしかないんじゃないの?」
 「……過激派だな」
 「やっぱ訂正。千歳さんと佑じゃ人が違いすぎる。参考にならないかも」
 「あぁ、今から心配になってきた」
 「早っ!気が早いなぁ」
 「見てるだけしかできないのかな」
 「それでいいんじゃない。見てれば」
 「そうかな」
 「特に、佑とは長い付き合いがあるわけでも、血がつながってるわけでもないし」
 「よし。じゃあ見てる。見るなって言われても見続けよう」
 「いや、やっぱある程度ほっといてほしい年頃かもしれないよ……」


2003年08月14日(木)



 年月・修理

 「直りそう?」
 古い型のビデオデッキを前に、二人の人がしゃがみこんでいる。
 「なんとかなる」
 左手から配線コードのようなものが出ている奇妙な義手の持ち主。ドライバーを握りながら、表情ひとつ変えずに答える。
 「陣田さんがいてよかったよ、ほんと」
 数年前に最愛の人から譲り受けたそれは、古い割には普通に動き、四年あまり千歳の生活を豊かにしてくれた。壊れるようなこともほとんどなかった。元々、拾ってきたものだというのがウソみたいだ。
 「誰かが結構な回数直した跡があるな」
 「あぁ、昔は高田さんが担当してたみたいだから」
 壊れたら高田に。譲り受けた時に真っ先に言われた言葉だ。
 「主任に?」
 「そうそう。高田、主任に」
 言い慣れない言葉。誰も見ていないのになんでか照れた。
 目の前のメカニックは、黙って作業を続けている。
 「主任に頼まなくて、いいのか」
 「いいんだよ。今は、陣田さんの方がいい」
 「そうか」
 バカ力で締められたネジでわかる、とつぶやいた。
 「あれー。ついに壊れたの、それ」
 影が指した。手元が真っ暗になって、陣田は目線で少しずれるように促す。
 「陸路」
 「あ、悪い悪い」
 丸いメガネの端が光っている。
 「三鞍さんからもらったやつだっけね」
 「そうだ。だから気安く触るなよ」
 「触らないよ。何か取り憑いてそうだし」
 「んなわけないだろ」
 蓋をして、最後のネジを締める。
 「できたぞ」
 「うわぁー、ありがとう」
 お菓子をもらった子供みたいに、デッキを掲げて立ち上がる。
 「よし。これで陸ちゃんに見せたかったアレが見れるぞ」
 「アレ?アレって何」
 「それは見てのお楽しみ」
 小脇に抱えるような重さと精度ではない気がするが、見事に小脇に抱えられてお持ち帰りされていく。
 メカニックは散らばった工具を箱に詰めると、通常業務に戻ることにした。工場の古い戸を開ける。中から自分を呼ぶ、仲間の声がした。
 残された土の上に、どこかの金属片が落ちていた。

2003年08月10日(日)
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