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■ タイム・トゥ・ゴウ
使わない物をいつまでも部屋にとっておくのは無駄なことだろうか。 三鞍はどちらかというと、いらない物はばっさり捨てる方だ。必殺掃除人の名を欲しいままにし、片付かない部屋の主に招かれては素早く分別していく。常にとっ散らかっている社長からは特に感謝された。 感傷からは程遠い感性をしているので、思い出の品という類の物がほとんどない。部屋はいつも殺風景だ。生活を表すものだけがぼんぼんと、力強く置いてある。その生活の方も、半分以上旅暮らしなので、掃除は行き届いているが使用してる雰囲気が薄い。 それも今日で終わりという日に、久しぶりに自分の部屋を訪れた。 名義だけが残って、当人はとっくに別の場所に生活を移してしまった後の部屋。いつまでも宙ぶらりんにしておかないで、荷物ぐらい持って行けと、古い仲間から言われた。 「ここに残ってるものなんてほとんどいらない物なんだけどなぁ」 「そうなんですか?」 いらないばかりではなかった。ついでに重たいという条件がついた。 切れた電球のスタンド、古い雑誌、いつか使おうと思って買ってきた新しいバイクのミラー、未完成のジグソーパズル……サボテン。 「これは、どこまで伸びるんだろうね」 サボテンは頭が真上に向って伸び続けていた。伸びた部分が若干白っぽい色になっている。わかりやすい。これだけ成長したんですよ、と訴えかけるサボテンとは、かれこれ二ヶ月会っていなかった。 「よく枯れないなぁ。サボテンは水あんまりいらないとは言うけど」 「あぁ、それ。ドクターがたまに水やってましたよ」 持ち主が逃げた部屋に、時々現れてはサボテンに水をやる白衣の人物。容易に想像できて、おかしくなった。 「なんならもらってくれればいいのに」 決して引き取ろうとはしないのだ。 かわいい弟子は、三鞍がぼーっとしてる間に次々と荷物を運び出し、外の車に積んだ。本当にぼーっとしていた。自分の部屋には何もなくなり、部屋を捨てて出て行く薄情な元家主が入り口で突っ立っていた。 「今までありがとう。見捨てた訳じゃないんだけどね。ここも、あの人も、千歳も」 次があるだけだ。 静かに荷物を運んでくれた千歳に言った。怒って、泣いて、置いていかれる意味がわからないと言って。納得はしてくれないとしても、そのうち見送ってくれるようになった。 「三鞍さん、それ、いらないんですか?」 「ん?」 部屋の隅に、黒っぽい機械があった。 「あーあ、懐かしいな」 置き去りにされるところだった最後の一つ。元々は、あの人の置いていった物。 「ちゃんと持ってってほしいもんだ」 「?いらないんなら、くれませんか」 「いいけど、古いよ」 最新型の何代か前の先祖。 千歳はそれを抱えた。 「もし使ってみて映らなかったら、高田に言いな」 まだ受け継がれる価値があるなら、いくらでも流れればいい。
2003年08月07日(木)
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